退職金の使い道は再婚生活?
 「退職金が2500万円もらえるから、これで俺と結婚しない? 女房とは離婚しようと思っているんだ」
 冗談か本気かしらないが、54歳のS銀行系のコンサルタント会社をもうすぐ退職する身長168センチ小腹の出た白髪混じりの両角謙二さんがそう私にいった。
 ローンを全て払い終わったマンションを女房にあげるのだと胸を張って言い切る。
 「マンション偽造問題があってから、これから俺のマンション価格だって下がる予感がするんだ。今なら売却すれば4500万円にはなる。こんなもの女房にくれてやるよ」
 いつも邪険にされているかのように投げやりに答えている。
 マンションのローンがないことがよっぽど自慢のようだ。
 「ローンを全て返済したことは自分が一生懸命働いてきた証だ。一生の仕事を成し遂げたと同じだ。ローンが終わったからこそ会社を退職することを決意したんだ。定年まであと残り5年ある。でも大手じゃないから最後まで働いても退職金の差は5百万円ほど。それより仕事がないところにいるより早く見切りをつけて次のことしたほうがいい」
 年収1200万円の両角さんが、なんでまだ二回しか会ったことのない私に結婚の冗談?を切り出したのかというと、最近、定年を迎えた先輩の影響だそうだ。
 「『定年退職を迎え仮面夫婦が爆発した。会社をやめて24時間家で顔を合わせるのは苦痛だ。退職金で若い女性と再婚したんだよ』と嬉しそうにいった。うらやましいよ。でも実際には俺のほうが5歳も若いから俺だって真似できないはずない。だってそれで第二の人生が生き生きするならいいじゃないか」
 開き直られても、私はその犠牲にはなりなくない。
 一瞬2000万円の現金が目の前に浮かんだけど、丁寧にお断りした。だって毎月40万円の生活費で計算しても5年でなくなる。
 それよりも「退職金専用の貯金運用」はいかがか。最近は退職金向けの金融商品が急激に増え多様化している。
 退職金を受け取ってから3ヶ月以内なら特別金利の適用があるものなどお得な商品もたくさん出ている。再婚するための女性が見つかるまで効率的に運用してみてはどうか、と慰めた。
両角さんの趣味
 両角さんの密かな楽しみは社交ダンス。ここでは中高年の再婚が流行っているのだそうだ。
 毎週土曜日、妻には会社に行くと嘘を言って出かけている。ときどきパーティもあるからいろんな女性と踊ることができると本当に嬉しそうに話す。
 「月謝は毎月1万円もするけど、今は夜の女性がいる店にいってもチークダンス踊ってくれるところなんてないからね。安いもんだ」
 だけど、実際には、ダンス用の衣装だけでも10万円以上もかかり、パーティにだって毎回4万円以上も払っている。
 そこまでする理由は「どうしても再婚して人生を変えたいから」という。
 今まで仕事ばかりしていて十分に遊んでなかった。定年後は、趣味や遊びや恋愛に夢中になりたいのだそうだ。
 奥さんとの恋愛しかほとんど知らないというが。早めに退職したことあとで後悔しなければいいが。
社交ダンス好きな両角さんの小遣い帳

     
  月額 52,000
ランチ代 22,000
ダンス月謝 10,000
  食事代 19,000
  その他 1,000
  小計 52,000