サラブレッドの実力
 中国本土で俳優を探してもなかなか有名な人が発掘していません。
 その理由は、政府の規制が激しかったからです。
 そういわれてみれば映画・ドラマでは男女が盛り上がってもせいぜいキスシーンで終わりです。それ以上の関係は描写してはいけないのです。
 と、なると俳優の実力を試す場所も少ないわけです。
 もっと大胆なことを表現できる台湾や香港に進出し、いったん賞をとってから本土に戻ってくる例が多いようです。
 1968年生まれ38歳の胡軍(フー・ジュン)の場合もそうです。
 彼は中国では珍しい母親(元舞台女優)で、父親は胡宝善、伯父は胡松華(著名な声楽家)というサラブレッドです。身長185センチ、北京出身です。
 小さいときから歌やバイオリンを習い、芸能活動をするにはとても恵まれた環境で育ちました。
 北京の演劇学院で技術を学んだ後は、中国の現代演劇で最高のレベルを誇る北京人民芸術劇院に進み、エリートコースを着実に踏み出していました。
 卒業後も舞台やテレビドラマの俳優として少しずつ活躍していました。
 それでもすぐに人気に火がついたわけではありません。
 胡が世界的に一躍有名になったのは1997年の「東宮西宮」(インペリアル・パレス)がきっかけです。まさに中国では違法行為にあたるゲイの役が大当たりしたのです。イタリアのタオルミナ国際映画祭では主演男優賞を受賞しました。
 4年後の2001年、国内でも人気が爆発したのです。その映画が「藍宇」(情熱の嵐)です。北京の街で貧乏学生の胡が男性に金で買われる同性愛者の役です。
 香港で最優秀主演男優賞をとりその実力と知名度は中国にも広まりました。それからは中国の時代劇から現代コメディなどにさまざまな役で登場し、親の七光りだけでなく実力ともに認められるようになりました。
 最近は諸事情が解禁されてきた中国ですが、突然、不倫したり、すぐに妊娠したり、いつのまにか隠し子がでてきたりと唐突すぎるストーリーの展開が多いのが不自然。
 胡は現在「藍宇」で妹役だった女優・盧芳(ルー・ファン)と結婚し六歳の子どもがいます。ゲイのイメージから一転して家族を愛する父親のイメージに変わりつつあります。中国の映画の改革とともに胡の今後の演技もどう変わるのか期待したいです。