北京五輪ボイコットが叫ばれる背景とは
 中国の資源不足は深刻である。すでに40ヵ国もの国に石油企業の獲得のため進出している。目的を達成するためなら手段にこだわらない中国が、今度は内戦が起きているアフリカ北部のスーダンにまで手をだした。
 2007年、中国はスーダン・ダルフール地区の13の原油鉱区の探査権を獲得した。中国石油天然ガス集団(CNPC)が、スーダンの国営石油会社 Sundapet社など石油生産企業2社の最大株主にまでなり、スーダンの産出量の約70%もの石油を輸入している。中国が2007年1-5月にスーダンから輸入した石油は470万トンで、前年の5倍に急増している。政府が管理している国営企業である中国企業が、石油高騰の中、世界の石油をなりふりかまわず必死にかき集めているのである。
石油獲得のために虐殺を黙認する中国
 スーダン政府は中国との石油取引からの収入の80%以上を、アラブ人の民兵組織が虐殺に使う兵器の購入にあてている。スーダン政府軍が国民を虐殺するときに使う爆撃機、攻撃用ヘリ、装甲車、小火器などの兵器はほとんどが中国製である。中国はスーダンに武器を輸出し、その武器がそのまま虐殺を引き起こしている。
 スーダンのダルフール情勢は現在、国連部隊とアフリカ連合(AU)部隊の受け入れを拒否している。外務省のホームページによると、「スーダンは03年より、西部のダルフール地域において、スーダン政府軍並びにその支援を受けたアラブ系民兵(ジャンジャウィード)と反政府勢力の間で内紛が激化し、20万人以上のアフリカ系住民が殺害されている。特に婦女子に対する暴力行為などで避難民と難民は250万人も発生し、深刻な人道状況となっている。現在でも武力衝突が頻発している」とある。
 このような状況の中、スーダン政府はテロ支援や人権侵害で国際社会から非難されたが中国だけは擁護し続けた。国連安全保障理事会でも大量虐殺に対してスーダン政府への制裁提案でも擁護、国連の安保理に付託するという意見に対しても中国が拒否権を発動した。
 1976年にアメリカのシェブロン社がガス田であるSuakinを発見したが内戦のため油田開発は停滞し、アメリカは権益を放棄した。欧州も進出していたが、国際人権団体の圧力などによりスーダンへの進出を控え始めた。それでも、中国企業だけはビジネス上の関係と割り切り、進出へと突き進んだ。中国によるスーダンへの投資額は計40億ドルを超え、スーダンへの最大の投資国となっている。
 そんな中、米国下院は、中国政府に対してスーダンでの虐殺を続ける勢力への支援の停止を求めている。大量虐殺を黙認していることは北京五輪精神に反するとし、停止しなければ北京五輪をボイコットすることに下院全員が賛同した。ところが何度も提案しても中国は拒否し続けている。
スピルバーグが北京五輪ボイコット運動
 北京五輪で芸術顧問を務める映画監督スティーブン・スピルバーグ氏も06年12月13日、中国の胡錦濤国家主席に書簡を送り、「内戦の解決のためスーダン政府が平和維持活動部隊を受け入れるよう、中国政府が働きかけて欲しい」と要請し迅速な協力を求めた。このままスーダンでの武力輸出を続けるなら、依頼されていた北京五輪の芸術顧問も辞退することにもなりかねない。仮に辞退することになれば、この問題は世界中のマスコミが大きく取り上げることになり、中国の北京五輪ボイコット運動もさらに拡大することが懸念される。
 すでにアメリカの女優ミア・ファローもボイコットを主張し、フランスでは社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル氏が「中国が、自国の利益のためにスーダンに対し、大規模経済支援を続けるのなら、五輪のボイコットを検討すべきだ」と主張している。
 一方で、中国はアフリカ経済に大きく貢献していると主張している。アンゴラのインフラ整備に対して20億ドルの融資、アジア開発基金・アフリカ開発基金に対しては、1億ドルを提供、ナイジェリアの鉄道網修繕に対して10億ドルを融資した。中国企業がアルジェリアの高速道路建設に関する入札では欧米の企業を抑えて勝った。アフリカに早くから進出していたアメリカよりも急激に成長した中国との関係のほうが深まっているのである。
 2000年以降、中国‐アフリカ間の貿易量は約4倍になり、2005年には397億ドルにもなった。アフリカに進出した中国企業は600以上に上る。

 

08年は米中の資源獲得戦が本格化する年になる
 そんな中、06年12月、スーダンで反政府組織が中国企業が操業する油田を制圧した。世界的に中国へのバッシングが高まる中、現地でも中国を標的とした攻撃は増えており、結果的に中国の行動が国内紛争を激化させていることになる。
 さらに中国からの繊維製品の輸入の増大で、アフリカの地場の産業が打撃を受けている。アメリカでは、アフリカからの繊維製品の姿は減り、代わって中国製品が出回るようになった。おかげでアフリカでは廃業する工場も増え、失業者も増加している。北京五輪を前に、中国とアメリカの資源争奪をめぐる戦いも、スーダンを舞台に本格化することは間違いない。
 北京五輪を半年後に控えた中国は、北朝鮮問題を始め世界の政治に力を及ぼすようになった。北京五輪が成功すればますますその力は世界を脅かすことになる。国連は潘基文事務総長になってから消極的な動きになり、アメリカもイラク戦争以降は、積極的な軍事介入ができないのが現状である。
 兵士を送り込みたくない立場はアメリカも日本も同じである。日本も約8500万ドル以上をスーダンに支援しているが、世界平和のために中国を批判して日本の自衛隊を送り出すようなことになれば、再び福田政権は混乱する。唯一、声を上げられるのが北京五輪ボイコットという手段なのかもしれない。