福田首相の人気取りと中国の資源不足で利害一致したガス田共同開発
 日中問題の根底は、歴史的問題と、ガス田による領土問題である。その一つであるガス田「白樺(中国名・春暁)」の問題に大きな発展があると報道された。
 6月18日、高村外相と甘利経産相が、東シナ海のガス田問題で一部のガス田やその周辺区域を共同開発することで合意したと発表した。域内で最大の埋蔵量を持つといわれている白樺では、出資比率は中国側が過半で収益は中国側に厚く配分される見通しだが、甘利経産相は今度、日中双方が開発費を折半し、生産したガスの収益も等分する方向だ」と、さも日本側に有利になるかの発表を行なった。
 一方でこれを受けて、いつも淡々として厳しく冷たい口調で話す中国側の姜報道官は、「東海(日本名:東シナ海)の問題は双方に利益をもたらすものだ。しかし中国の境界問題についての一貫した主張と立場に変化はない。日本とのガス田共同開発と主権問題は無関係であり、境界線問題で日本が主張する「中間線」は認めない中国の立場に変化はない」と述べた。さらに、「ガス田の主権は完全に中国にあり、共同開発は主権と無関係」としている。
 日本側も根本的な境界線問題には触れていない。一刻も早い資源の開発に取り組むことを優先し、「境界線画定までの過渡期間に、双方の法律的な立場を損なわない状況のもとでのもの」としている。
 今回、日中が合意した具体的内容は、(1)中国がすでに開発着手しているガス田「白樺(春暁)」に日本側が出資。(2)「翌檜(龍井)」の南側の海域に共同開発区を設ける、の2点が柱となる。本来、日本側が懸案としている東シナ海のガス田はあと2ヵ所あり、今回合意した以外の区域での共同開発については、今後も協議を続ける、としている。
日中双方の切迫した事情が合意を急がせた。
 当然ながら、100%日本側の意見が通ったわけではない。それでも解決を急ぐのには、両国それぞれの理由がある。
 日本側の背景としては、まず低迷している福田内閣支持率の回復である。今年の正月、NHKを始めテレビ各局では、福田総理の中国訪問や、北京五輪にかける中国、日中関係の強化がとりあげられた。ところが、その後の食品問題やチベット問題などでマスコミの中国批判が相次ぎ、日本との関係強化にはつながらなかった。解散圧力も強まり足元が揺らぐ福田内閣としては、唯一の強みである日中関係で評価を上げたいところだ。
 一方の中国側には、もっと真剣な理由がある。それを4つにまとめると、(1)中国が深刻な資源不足に陥っていること、(2)日本よりも急激なインフレに伴い格差が拡大、貧困層が増加すると見込まれていること、(3)地震により貧困層が拡大していること、(4)貧困層のデモへの恐れ、などである。とにかく中国にとって資源獲得は急務であり、すぐにもガス田開発に着手する必要があった。
 中国では、原油高によるインフレで中間層から低所得者まで、生活必要物資すら買えない状況にある。そして、四川大地震の被害でさらに貧困層が増加している中、北京五輪成功のために、経済成長を維持しなければならない。深刻な資源不足の結果、経済成長が維持できなければ、格差はますます拡大し、貧困層が増加する。生活さえできない餓死者が10億人に達してもおかしくない。中国の大多数を占める農民と低所得者を合わせれば、その数字になるからだ。急激にそんな事態にはならないとしても、中国政府としては、体制維持のためにはそこまで先を予測しなければならない。
事態を深刻に考えず交渉に甘さがあった日本
 そもそもガス田問題は、双方の法律や国際法を棚上げし、利益追求を優先した交渉が行われてきた。国連海洋法条例に基づく排他的経済水域(Exclusive economic zone:EEZ)の基本ルールである自国沿岸から約370キロメートルを適用したのでは、日本の南西諸島と中国大陸との距離が約740キロメートルに満たず、両国に重なる部分が出てくる。このところ台湾でも領海の主張が台頭しており、早期解決できる問題とはいかなそうだ。
 中国大陸には資源開発が可能な地域が、まだ多く手付かずのまま残されている。世界から批判を受けながらも資源獲得のために続けているスーダンやベトナムへ対外投資よりも、自国内での資源開発を進めたほうが、運搬コストなどの面でもメリットが高い。
 一方、日本側には、本当に資源を必要としている必死さがなく、中国ほど将来のことを深刻に考えていないことが、今回の交渉の甘さにはみられた。日本の外交、福田総理の頑張りを評価したいところだが、その成果はまだ遠い。