「北京五輪で中国は世界に注目されたけど、悲惨な年になった」
「北京五輪でルールを知らない中国人観戦客が反日攻撃?」
「マナーの悪さで中国人はまた批判を受けるのでは?」
「大会中に食中毒があったら、中国食品問題が再び沸騰する」
など、五輪開始を前に、中国に対してさまざまな憶測が飛んでいる。
 私は今年前半、模倣品を製造している中国企業が米国など世界から訴訟される事例が続出し、その影響により企業業績が悪化することを予測していた。ところが問題は違うことで火がついた。毒入り餃子をはじめとした食品問題や、チベット問題などの人権問題にまで及び、中国は世界中から批判された。
 また、四川大地震を契機に貧富の格差がさらに広がりを見せており、政府への不満はいつ爆発して、天安門事件のようになってもおかしくない。
IOCは中国政府の対応を高く評価しているが
そんな中、中国は必死で環境への取り組みをアピールしている。
・北京五輪会場の周辺にある街灯の8割に太陽光発電を利用
・選手村でも太陽光で沸かしたお湯を使用
・5月からスポーツ施設や文化財保護施設での禁煙を実施
・タバコの広告や、タバコメーカーとのスポンサー契約を禁止
といった具合である。
 また、国家環境保護総局の呉暁青次官によると、環境対策には「汚染物質の排出削減や汚染源の調査、水質汚染の対応などが含まれる」という。
 それを受けてなのか、IOC(国際オリンピック委員会)医事委員長のアルネ・リュンクビスト教授は「北京の大気の質はかなり改善された。北京五輪参加選手にとっても健康問題にはならないだろう。一部の世界のメディアはこれを無視して無責任な報道をしている」とさえ発表した。
IOCは中国政府と北京五輪組織委員会が、大気汚染の改善対策を進めた努力を高く評価したのだ。選手たちがメダルを獲得できないのを大気のせいにされたくない、北京開催を決断したIOCのせいにされたくない、という意向が見え隠れしている。
政府の進める環境対策に地方の旧式工場は対応できず
 さらに北京市環境保護局の杜少中副局長は、二酸化炭素排出量が多い鉄鋼首鋼グループを含む21社に対し、工場の操業停止または生産制限を行うよう指示している。7月20日からパラリンピック閉幕後の9月20日までと短期間ではあるが、業務の停止や生産制限を断行したことは、中国政府にしては画期的なことといえる。ただ、本来ならば、1年前、2年前からの対策が必要だったはずだ。
 上海宝山鉄鋼を代表に、今や中国の鉄鋼産業は世界の鉄鋼の3分の1を生産するほどに拡大し、世界的にも有名な企業に成長した。だが一方で、地方にある生産能力の低い鉄鋼企業が懸念材料として世界から注視されているのだ。
 鉄鋼業はほかの産業よりも二酸化炭素排出量が多いが、特に地方の鉄鋼企業は旧式の設備を利用しているため環境への悪影響の割合が高い。それでも地方財政が苦しい事情もあり、地方企業を倒産させることはできないのが現状だ。環境対策とペナルティへの告知が収賄に消えることのないよう、本当に管理を強化して欲しいものだ。
 鉄鋼業はほかの産業よりも二酸化炭素排出量が多いが、特に地方の鉄鋼企業は旧式の設備を利用しているため環境への悪影響の割合が高い。それでも地方財政が苦しい事情もあり、地方企業を倒産させることはできないのが現状だ。環境対策とペナルティへの告知が収賄に消えることのないよう、本当に管理を強化して欲しいものだ。
 鉄鋼以外でも厳しく管理が強化された。工場からでる廃棄物が空気汚染の原因だと指摘されても排出制限を守らない場合はすぐに閉鎖される可能性もある。すでに山東省では、魯北企業集団、魏橋創業集団、勝利発電工場など132の企業が操業停止の警告を受け、汚染物質排出基準をクリアできなかった場合、生産を差し止める処分が実施される。
 バブル崩壊がささやかれる中、目先の利益にこだわる中国式ビジネスが、やっと環境問題にも目を向けるようになった。昨年、私が訪問した中国企業や日系企業のほとんどが環境対策を考えるどころか「環境など気にしてたら儲けられないよ」と、世界の心配をよそに高笑いしていたのを思い出す。
 北京五輪開催を目前にして、いまさら取り組む環境対策。その成果は、本当にIOCのいうとおりなのだろうか。ヒヤヒヤしながら、選手たちの輝かしい金メダル獲得を見守りたい。