中国には、おもしろい地図がある。いや、恐ろしい地図といったほうがいいかもしれない。排水基準に違反している企業が、すべてインターネットのサイトに公表されているのだ。中国国内企業も対象であるが、中国に進出しているすべての外資系企業も対象となっている。もちろん日本企業も含まれる。
日本企業も12社が違反企業として公表
 そのサイトとは、中国環境NGOの市民・公衆と環境研究センターが06年に完成させた「中国水汚染マップ」と「中国大気汚染マップ」である。中国の環境問題の第一人者、馬軍氏が汚染基準に違反している工場などの企業データをまとめたものだ。サイトをみればわかるが、中国全土マップの各都市をクリックすると、その場所にある汚染した企業の名前が出てくる。汚染度比較なども掲載されている。

http://air.ipe.org.cn/en/qyInfoEn.do

 馬軍氏は「中国政府の環境基準は厳格だが、地方レベルでは無視されていることが多い」と指摘した上で、「全国どこからでもこの情報にアクセスできることが、国民の環境問題への意識を早く高めるための前提条件だ」と語る。サイトに公表された企業は名指しで批判されたことになるから、早く対策を取ることを促す目的だとしている。
 06年は多国籍企業として有名なペプシコーラ社やネスレ社など33社が排水基準違反企業リストとして公表されたが、日本企業も12社が含まれていた。いずれも有名な企業ばかりである。松下も一旦掲載されたが、再検査を行ない除外されることになった。だが、ほかの日本企業には、そのまま掲載され続けている会社も多い。特に味の素と関係のあった蓮花集団という化学調味料工場がある項城市などは、動向が注視されている。
 データの根拠は、全国の環境保護局が公表した04-06年の排水基準違反企業リストであり、中国企業を含めたすべての企業で1000社以上にものぼっている。
 現在、公表されている外資系の違反企業に対して、地元マスコミが問題にしている。世界でも有名な多国籍企業が、なぜ中国では環境基準に違反するのか? 先進国の巨大企業であれば、環境意識は高いはずだ。他人の国、中国でなら環境対策を講じなくてもよいという、グローバル意識の低さの顕れではないか、というのだ。
 北京で日本企業や他の外資系企業に取材したところ、以下のような返答があった。
(1)一部においては環境基準が日本より厳しい。
(2)抜き打ちテストが行われコネのない外資企業には不利。
(3)中国人工場長に環境意識が低い。

 企業として環境対策に取り組んではいても、抜き打ちテストでたまたまその日に対応した中国人担当者に環境意識が低く、対応に不備が出てしまうケースなど、不満もこぼれる。
政府も罰則を強化 日本企業は慎重な対策が必要
 いくら日本人だけで対策を講じても、問題解決は難しい。今後の対策として、中国人のすべてのマネジャークラスの人員の意識を高め、部下にも浸透させることが大事だと、日系企業の担当者は話す。
具体的には、
(1)人材育成に力を入れ、現地の工場長クラスの環境意識を高める。
(2)環境推進担当部などを設置し、中国人の環境担当者をつける。
(3)環境保護局とのコネクションの強化に力をいれる、ということだ。

 最近、中国ではペナルティとして違反を公表される企業が増えている。08年全人代(全国人民大会)では環境問題への取り組み強化が謳われ、なかでも水質汚染防止法の修正案が可決された。今後は、事故を起こした責任者に年収の5割以下の罰金が課せられるなどとしている。
 厳しく取り締まることで、今後は環境対策に本腰を入れる企業も増えることだろう。ただ、中国は法律がころころ変わるので、日本企業には注意が必要だ。また中国は、中央政府に地方政府、それに官庁のしくみとも、実に複雑である。それらを理解したうえで、対策は慎重に行わなければならないだろう。不名誉なことで中国全土に名前が広まれば、ブランドが失墜し、深刻な打撃となりかねない。