日本では学生の理系離れが問われていますが、中国では理系を目指す学生が増加しています。ものづくりの分野においては世界一と言える日本ですが、将来は理系出身者が急増する中国に抜かれることが懸念されます。
 近年の日本の学生の理系離れは深刻です。工学部の志願者に関しては、ここ5年で約4割も減少しているといいます。理由はいくつかあります。
・小中学校の理科の授業時間が減って、高校の授業(科学、物理、生物)についていけなくなる子供が増えた
・学校で実験の授業が減り、理系科目の面白さが伝わらなくなった
・ゲームが流行したため、子供たちの間で物づくりに対する関心や興味が減った
・大学で必死に研究して就職しても、賃金が安くて出世もしにくいと考える人が増えた
などです。
 一方の中国はというと、だいぶ状況が違います。中国政府は最先端の技術力をつけたいため、中国人の技術者の育成に力を入れていますし、省によっては技術開発会社の外資進出企業には助成金を出すといった取り組みもしています。
 人民元切り上げとともに、安値で大量に生産する製造業から技術力の高い製造業への転換が求められている中国は、技術者の育成に最も力を入れたいと考えています。輸出依存型で経済成長を維持したい中国は、この技術力獲得の成否で将来が決まるといっても過言ではありません。
 実際、2004年にIBMのパソコン事業部を買収したレノボは、大学進学率がまだ低かった1990年から技術者を含む大学卒業者と大学院卒業者を大量に採用していて、そのうちの多くを管理職に昇進させています。
 各種ネットワーク用の交換機を生産している華為(Huawei、フェアウェイ)は、2万人の従業員のうち、博士、修士取得者が数千人以上もいます。年間の利益の1割を研究開発費に当て、全社員の6割以上を研究開発(R&D)に携わせて社員のモチベーションを上げています。
 華為は、中国で理系ナンバーワンを誇る清華大学などから数千人を毎年採用し、5カ月間の研修を行うことでも有名です。研修は非常に厳しく、企業での実践的な内容に加えて、技術トレーニングもあります。
 夜中までの講義と規律の厳しい生活が続き、試験に落ちた人は不採用となります。仮に全員合格した場合でも下から5%は不採用にする過酷な競争を強いるシステムになっています。
 入社試験に合格しても、厳しい研修でドロップアウトする人が何人もいるのです。このため、研修者は必死に勉強せざるを得ないのです。
 華為は、イギリスのNVQ(職業資格認定制度)に基づいた世界的にも平等な資格認定を行っています。中国の国有企業は、独自のトップダウン方法を推し進める旧式の人材配置をすることが多い中、市場経済に即したこのような民間企業は画期的な改革であると言えます。
 人材を管理職と専門職に分け、それぞれの資格認定基準と資格取得後の処遇を決定しています。テストによって管理職と専門職は分かりやすく1~5級までに区分され、どの段階においてもモチベーションが上がる工夫が施されています。
 1度専門職を選んだからといって一生専門職でなければいけないわけでもなく、途中で営業職に移行することも可能です。
 レノボや華為だけが特殊なのではなく、中国の大手電機メーカー(特にテレビの製造販売で有名な長虹、家電メーカーのTCLなど)やハイテク企業においてはさまざまな形で技術者の人材教育に力をいれています。
 このほか、高度な技術を必要とする中国企業は、大学との提携も強化しています。例えば精華大学の構内には、マイクロソフトの巨大なビルが建てられています。中国における多くの有力大学は、自らの発展の鍵を「産学官連携」に求めているのです。
 中国は着々と高い技術力を持つ人材を増やしています。本当に日本も理系離れをどうにかしないと、「ものづくり」で中国に負けてしまうかもしれません。