私は東京で働き始めて10年近くになりますが、通勤にはまだ慣れません。毎日往復4時間の通勤は、外国人には「無駄だ」とばかにされるほど。私は中国語会話のテープを聞きながら2種類の新聞を読み、それでも時間が余ります。
 私が勤務していた会社は、在宅勤務制度が充実していました。社員は週に1回、会議に出る義務がありますが、それ以外は自主管理に任されていました。全社員が契約制なので、年次計画を予定どおりこなすのに必死で、怠ける人はいません。
 在宅勤務制度は日本IBMが平成13年、全社員を対象に取り入れたことは有名です。実際に勤務している人に聞くと「会社に自分の机はなくなった。プロジェクトごとに新チームを組み、打ち合わせのときだけ集まる。次のキャリアアップのための勉強時間も必要だから効率がいい」といいます。ITの進歩でチャットやテレビ電話による会議などが多用されて、在宅勤務が拡大しています。
 通勤時間の節約、自分の裁量で労動時間を決められる利点のほか、雇用維持のためにも導入する企業が増えています。すでにパナソニックやNECが導入しており、今月からはカネボウ化粧品も、勤続3年以上の育児・介護責任がある内勤従業員を対象に一定期間の「在宅勤務制度」を導入。出産を理由に仕事をやめる女性が7割もいる中、この制度が充実すれば仕事を続ける人が増え、日本経済の弱点にもなっている労働力不足も解決します。
 もちろんワークバランスが成熟していることが前提ですが、導入している多くの企業では「チームワーク不足」などのマイナス面よりも「生産性が上がる」「家族と過ごす時間が増えた」などプラス面の方が大きいといいます。
 在宅勤務制度の導入が増えれば、労働問題だけでなく介護や育児といった問題の解決にもつながるのはないでしょうか。
(生活経済ジャーナリスト・嘉悦大学短期大学部准教授)