中国は国外の大学で勉強している留学生の数が世界一多い国です。鄧小平・元国家主席が海外留学生の大幅な拡大を指示した1978年以降に海外に留学した学生は、100カ国以上、累計121万1700人に達しています(2007年末)。そのうち帰国者数は32万人。海外留学経験者は、今では中国経済の急速な成長の人的資源として大いに貢献しています。
 中央政府は85年、「自費出国留学資格審査」制度を廃止し、中国から海外への留学を完全に自由にしました。それをきっかけに、TOEFLを受験して個人で海外の大学の奨学金を申請するなどして留学する人が急増しました。
 日本では年間10万人が海外に留学していますが、2004年以降は減少傾向にあります。ところが中国は、数年前に1度マイナスに転じましたが、この2、3年で再び増えてきており、2007年の留学生数は15万人を超え、過去最高となりました。
 ここ最近の増加傾向は、急激な中国の経済成長により、中間層でもお金を貯めて子供を留学させることができるようになったことが後押ししています。
 中国政府も海外の様々な技術を獲得するために、留学制度に力を入れています。2007年の公費留学生は2006年の8242人から51%増加して1万2445人となっています。また、国家留学基金委員会は2008年から大学院生6000人を公費留学生として国外に派遣しています。
 今後の中国経済に欠かせないエネルギー、資源、環境、農業、製造、情報などの注目分野や、生命、空間、海洋、ナノ、新素材などの戦略的な分野、人文、応用社会科学の分野で研究をしている博士課程の在学生を対象者としています。
留学生の「帰国ブーム」
 ただ、政府が国の技術開発のために支援して海外留学をさせても、実際にはそのまま海外で就労する中国人も多くいます。ところがここ数年は、中国経済の急成長にともない留学生の「帰国ブーム」が起きています。
 中国教育部が発表した2007年度の留学生に関する統計によると、2007年の留学先からの帰国者数は約4万4000人で、その帰国者数は2003年に比べて2倍以上に増加し、過去最高となりました。2004年から2006年まで連続して、20%以上の伸びを記録しています。
 大きな要因としては、中国の政策があります。年間1億4463万円を帰国留学生の起業支援に充てるなど、中国では留学経験者を人的資源としてうまく活用しようとする制度があるのです。
 例えば江西省の第10次五カ年計画の期間中は、年間1000万元を使い、帰国留学生の同省での起業を支援しています。江西省科学技術庁は、省政府に帰国留学生起業プロジェクトの実施案を提出し、帰国留学生が江西省で科学技術の会社を設立することを支援したり、ハイテクプロジェクトを省内の企業と共同で着手したりしています。また、江西省の職員として必要な高度な知識を持った帰国留学生を200人採用しています。
 中国経済は確かに成長していて、国内企業でもらえる給料も上昇していますが、それでも先進国の給料と比較すると10分の1程度です。海外でそのまま就労した方がメリットはあると考えて当然でしょう。
 ですが、中国に帰国しても会社員としてではなく、学んだ技術を活かして起業できるとなると話は違います。起業が実現できれば、急速に発展している中国で大きな成功を収めることも夢ではないのです。
 国外で中国人留学生が活躍するのもいいですが、留学で養った技術力を中国経済の成長のために活かさない手はありません。中国政府が試みた起業への支援は、帰国ブームを引き寄せたという点では今のところ成功しているといえるでしょう。
 中国では文化大革命の影響を受けていない30代の起業家が増えています。特にソフト開発関連企業には、税金も優遇されています。既にIT企業で目覚しく成長した企業もあるため、ベンチャー企業を立ち上げる目標を掲げる若者が増えています。