中国に出張したことがある日本人の中には、中国人のビジネスマナーの悪さにいらだちを覚えた人もいることでしょう。マナーの悪さに堪忍袋の緒が切れてビジネスそのものをダメにした話もよく聞きます。
 例えば、現地ではアテンドしてくれる中国人が毎回、アポイントの時間に平気で30分以上も遅れてきたり、大事な会議に必要な書類を揃えていなかったりと、トラブルが続出することがあります。帰国当日までにサインするはずの契約書の内容が勝手に変更されていて、帰国のフライトを延長してまで交渉していた人もいました。
 どうしてこのようなことが起きてしまうのでしょうか? それは中国のビジネスの常識が日本と全く違うからです。
気配りが足りない案内役
 基本的なビジネスマナーで考えてみましょう。もしあなたが自社でお客様をエレベーターで部屋に案内する時はどうしますか?
 日本の基本的なマナーでは、案内役はエレベーターの操作パネルの前に立ってドアの開閉操作をし、お客様はエレベータの奥に誘導します。そして、ほかの人が乗ってくるかどうか確認した上でドアを慎重に閉めます。これは日本人のビジネスパーソンなら誰しも普通にやっていることだと思います。
 ところが、中国ではこういったマナーが浸透していません。ドアの開閉操作を率先してやることはあまりなく、何も考えずに乗り込んで行き先階ボタンを押すだけの人が多いのです。相手がしっかり乗るまでドアを開いたままにしようという気配りがないわけです。途中でドアが閉まった場合に、お客様がドアに挟まれてしまうことを考えていないのでしょう。 
 また、廊下を歩いて案内する時もやや配慮が足りないケースが見受けられます。案内役の歩くスピードがとても速いのです。中国は国土が広いため、速足で歩くのが一般的です。ですが、お客様の歩く速さを考えもせずに、ずんずん先に歩いていってしまうのは案内役としては失格でしょう。
客が転んでも気づかない
 私が前に中国の工場を見学した時のことです。案内役がとにかく速足で、見学者の多くはついていくのがやっとでした。周囲を見渡しながらという余裕はありません。そんな中、そのペースについていけずに1人の見学者が転んでしまいました。
 それでも、その案内役は自分に問題があったことに気づきません。何食わぬ顔で、まるでどんくさい人だなと言う感じで「どうしたの?」と聞いてきました。
 転んだ人は、その言葉に腹を立て、案内人の無神経な速足を怒鳴りながら指摘しました。そこまで言われても、その案内人は自分が悪いとは思っていないようでした。
 こういったいざこざは、本当によくあります。とはいえ、すべての中国人ビジネスパーソンが無作法というわけではありません。特に都市部で働く人は、日本のようなビジネスマナーを重んじる人もいます。
 例えば中国では、混雑したエレベーターの中はスリの被害に注意しなくてはなりません。中国では都市部でも金融街などの繁華街以外では旧式で古いエレベーターが多く、照明も暗いために気を抜くとスリの被害に遭うのです。
 ビジネスマナーをしっかり学んでいる中国のビジネスパーソンは、エレベーターにお客様を案内する時は、スリに遭わないような配慮をします。エレベーター内でお客様を複数人の社員で取り囲むようにしてガードするのです。これは、中国ならではの気配りだと言えます。
中国人マナーの今後
 輸出に依存している中国では、製造業を中心に経済成長してきました。サービス業や観光業に就く人はそれほど多くありません。サービス業の会社に勤めている人はマナーの研修がありますが、一般企業においては日本のようにビジネスマナーの研修は充実していないのが実態です。
 中国では、ビジネスマナーが仕事に影響を与えるという考え方は浸透していません。その理由には共産主義が根強くあります。平等をうたっている共産主義では、どんなに愛嬌よく営業をしても給料は同じ。あえて接客やマナーを重視する必要がなかったのです。
 少しずつ時代は変わり、中国も外国人相手の接客マナーを身につけてきました。これまでのマナーでは世界で通用しないことも感じ、マナーの研修を積極的に取り入れる企業も増えてきています。
 中国でサービス業が充実し、マナーが十分と感じるようになるには、まだ10年ぐらいかかるかもしれません。それまでは、心を広く持って中国人ビジネスパーソンと付き合う必要がありそうです。