書類選考をクリアする応募書類の作り方
柏木理佳さん
書類選考は内定を獲得するための最初の関門。これを突破しなければ、何も始まりません。そこで今回は、『30分間でキャリアの磨き方がわかる本』(PHPビジネス新書)の著者であり、ご自身もフライトアテンダントやアナウンサー、シンクタンク研究員など数回の転職を経験している柏木理佳さんに、採用担当を納得させる応募書類の作り方について伺いました。大学でビジネスキャリア研究教の授業を持つ傍ら、経済ジャーナリスト、キャリアカウンセラーと多方面で活躍されている柏木さんのアドバイスを、ぜひ皆さんの転職活動に役立ててください。

企業研究がすべてのスタート地点
―― 柏木さんは現役のキャリアカウンセラーでもあるわけですが、その立場からみて、履歴書や職務経歴書を書く際に押さえておくべきことはなんでしょうか?
まずは、応募から内定までの全プロセスを具体的にイメージすることが大切です。書類選考、1次面接から最終面接のそれぞれの場で、どういうふうに自分をアピールすべきか、質問をされたらどう答えるのかを想像し、そこから逆算して応募書類に書くべきことを絞り込んでいきましょう。内定までの全プロセスをイメージすれば、それぞれの段階において、どのように自分をアピールすべきかが見えてくると思います。

―― 応募書類は、その後のプロセスを有利に進めるための布石というわけですね。しかし、そのためには、企業がどのような人材を求めているのかを、かなり深く理解しないといけませんよね……。
どのような職種であれ、転職活動のスタート地点は企業を知ることです。私も複数回の転職を経験していますが、応募書類を書く前に、志望企業やその業界に関する本などを片っ端から読みました。徹底的に調べて自分の中に情報をインプットすると、その業界特有の言葉づかいやキーワードが自然と身に付きます。すると、自己PR欄などでも、採用担当の目に止まる文章が書けるようになりますし、面接の場でもスラスラと受け答えができるようになります。

企業を徹底的に調べたら、書類を書き出す前に、志望企業ごとに自分がアピールすべきポイントを3つリストアップしてみてください。転職経験が少ない方にありがちな間違いですが、どの企業に対しても同じ応募書類を送る人がいます。それでは、書類審査をクリアすることは難しい。たとえ、同じ職種や業界であっても、企業ごとに、ビジネスのかたちや強み、注力している分野は違いますから、転職者がアピールすべきポイントも違って当たり前。そのためにも、まずは志望企業を深く知ることが大切です。

―― 志望企業を深く知るためには、どんなふうに調べればいいのでしょうか?
会社案内やホームページ、求人情報を読み込むことは最低限やっておかなければならないことですね。でも、それでは不十分。さらに深く知るために、IR情報やニュースリリースにも目を通してください。私は経済ジャーナリストという職業柄、企業のIR情報の決算報告書を読む機会が多いのですが、決算報告書からはその企業が注力しているビジネス分野や今後強化していくだろう分野、狙っているマーケットなど、様々な情報を読み取ることができます。新製品の開発に伴いニュースリリースが発表された時、株価がどのように反応をしているのかもチェックしましょう。こうした情報は、その企業の得意な製品分野や強みを知る手がかりとなります。

それから、志望企業が属する業界新聞や業界の雑誌にも目を通しましょう。その際、志望企業のことが掲載されている部分だけをチェックするのではなく、全部を読み込むことが大切です。全体を読むことで、業界全体のトレンドを把握し、そこから志望企業が進もうとしている方向性や将来性、今後力を入れていくべき分野が推測できるはず。また、業界誌には、転職イベント以外の業界イベントやセミナーの情報も載っていますから、こまめにチェックして、できるだけ参加してみましょう。イベントやセミナーは、業界のトレンドを知る絶好の機会ですから、これを逃す手はありません。

会社説明会に参加したら、漫然と志望企業の説明を聞くだけではなく、参加している周りの人たちをじっくり観察してください。あまり意識しない人も多いのですが、イベントに参加している人たちは自分のライバルです。どんな会社に勤めて、どんな仕事をしている人なのか? 自分とはどう違っているのか? をしっかりチェックしましょう。そこから、ライバルに勝つことができる自分ならではの強みを見つけ出してください。

―― 志望企業のことをそこまで調べ上げるとなると、相当な努力がいりますね。
厳しいようですが、そのくらいやらなければ内定を獲得することは難しいと思います。志望企業のコンサルタントになったつもりで、それこそ30~40枚のレポートを仕上げる勢いで調べ上げてください。そこから、志望企業のビジネスの特徴、強み、これから注力していく分野などを把握し、自分がどのようにして企業に貢献することができるのかを見つけましょう。そこまでできれば、人事担当も「この人はうちの会社でも活躍してくれそうだ」と思うはずです。

自分のアピールポイントと、企業が求める人材を照らし合わせ、「自分ならではの売り」を見つけよう!
―― では、調べ上げた企業研究の成果を、どのように応募書類の内容に落とし込んでいけばよいのでしょう?

しっかりと企業研究をすると、その企業がどんな人材を求めているのかが分かってきます。例えば、海外部門の営業職を募集している企業であれば、今後営業を強化していく海外エリア、そこで進めようとしているビジネスの内容、そのために必要な人材像が見えてくるはずです。そうして浮かび上がった企業が求める人材像と、自分のアピールポイントを照らし合わせてみてください。ただし、企業が求める人材像と自分のアピールポイントがすべて合致しなくても、ガッカリすることはありません。ピタリと一致する場合の方が少ないですから。合致しない時には、足りない部分を補って余りある自分の長所をプッシュしてください。

これは、私がキャリアカウンセリングを担当した女性の話ですが、彼女は証券会社の顧客窓口に勤めていて、ある外資系企業に転職したいと考えていました。でも、彼女は英語がそれほど得意ではなかったんですね。そこで彼女が取った方法は、まず自分の長所をプッシュすることでした。「自分はこれまで、世の中の誰もが最も腹を立てるお金に関するクレームに対して、上手く対応してきました。ですから、御社のどの業務でもきちんと対応できると考えています」とアピールしたのです。英語については、応募の時点で英会話学校とビジネス文書の専門学校に通い始め、努力していることをアピールしました。結果、希望通り、志望企業に内定をもらいました。

これは、特に20代後半から30代の転職者に多いのですが、応募条件を見て、自分には何もアピールできることがないと諦めてしまう人がいます。さらには、応募要項に35歳までと書いてあると、もう35歳を過ぎているからと言ってその場で諦めてしまう。そうではなくて、「年齢は少し過ぎていますが、前職での経験を生かして、リーダーとして現場を取り仕切ることができます」とアピールすればいいのです。あるいは、「若手の育成も手掛けた経験があり、御社に入社したら、自分の成績だけではなく若手社員の成績もアップしてみせます」とアピールしてみましょう。特に30歳前後の男性は自信がなさそうな応募書類を送る人がたくさんいますから、押しの強いアピールすることで、一歩抜け出すことができます。

応募書類は、採用担当が接点を見い出せるように工夫しよう!
―― 応募書類の書き方で、特に気をつけることはありますか?
書類審査の第一関門は履歴書です。昔、企業の採用のお手伝いをしたことがあるのですが、書類の一次選考では、履歴書に記載されている学歴や職歴、字の綺麗さなどを基準に、書類をどんどん間引いていきました。そこで落とされると職務経歴書を読まれることもありません。丁寧に、間違いがないように細心の注意を払って書いてください。手書きの場合は、細字のボールペンか万年筆を使い、見やすく綺麗な文字で書きましょう。誤字脱字、年号違いなどは一発で落とされることもあるので細心の注意を払ってください。

職務経歴書では、自分の経歴が志望企業の募集職種と接点のあることが伝わるように心掛けてください。自己PR欄では、3つのアピールポイントを大きめの字で見出しとして目立たせ、その下にそれぞれの説明を細字で書きましょう。説明の文章量は3つとも同じ程度に揃えるように。こうすれば、ひと目でその人の“売り”が分かりますし、思考をきちんと整理することができることを印象付けられます。心構えとしては、とにかく自信を持って書くこと。多少大袈裟でも構わないので、自分の長所を目一杯アピールしましょう。ただし、アピールする際は、同時に具体的な数値や実績を入れることを忘れないように。例えば、たった一度だけでも課内でトップの営業成績を上げたことがあるのであれば、躊躇しないでそのことをアピールしてください。

―― 最後に、転職を考えている読者へメッセージをお願いします。
私は18歳の時に留学したのですが、その際に現地の学生から「何のために留学してきたの?」「将来は何になりたいの?」と質問されてビックリしました。日本では自分がどんなふうになりたいのかを他人に話すことはあまりないですよね。でも、海外の学生たちは、「自分は医者になる」とか「弁護士になりたい」など、とてもオープンにやりたいことを表明しているのです。そして、就職してからも、彼らは常に自分のやりたいことに向かって、どんどん転職していきます。つまり、海外では、なりたい自分に向かって職業を変えていくことが当然のこととして考えられているのです。

いまや日本でも、転職に対するマイナスイメージがなくなってきていますね。その意味では、日本でもようやく転職を自分のキャリア形成の手段として考える風潮が根付き始めたと言ってもいいでしょう。今後、こうした考え方はもっと浸透していくと思います。ですから、皆さんも臆することなく、“なりたい自分”に向かって、どんどん転職にチャレンジして欲しいと思います。

とは言っても、皆さんの中には、“なりたい自分”がハッキリ分からないという方もいらっしゃるでしょう。でも、20代、30代のうちは自分のやりたいことが分からなくて当然だと思います。私自身もいろいろな職業を渡り歩きながら、いまの仕事を見つけました。人生は長いですから、40代になった時に、自分の本当の職業を見つけて再スタートするためだと思って、恐れずにどんどんチャレンジしてください。皆さんが、自分の生涯を捧げられる職業に出会うことを祈っています。

(プロフィール)
嘉悦大学短期大学部准教授。同大学でビジネスキャリア研究の講師を務める傍ら、(社)全国産業能力開発団体連合会認定のCDA(キャリア・デペロップメント・アドバイザー)としてキャリアカウンセリングも手掛ける。経済ジャーナリスト、ファイナンシャルプランナー、ラジオやテレビでも活躍中。著書も多数。