私が就職活動を行ったある会社で、年収500万円を提示されたことがあります。「これは残業代は別ですよね?」と聞き返したら、「この会社では残業はしたらいけないことになっているから払えません。残業したければ個人の意思でしてもいいです」というのです。会社は勝手に「毎日ノー残業デー」にして、社員たちは仕事を自宅に持ち帰っているようでした。
でも、それが今後は当たり前になるかもしれないのです。いま、ホワイトカラーエグゼンプションと呼ばれる制度が話題になっています。ホワイトカラーの労働時間は自己裁量できるものであると見なして、年収400万円以上の労働者の残業代をカットしようというのですから意味不明です。
年収400万円以上の日本の労働者は、管理職を除いても、1000万人以上います。労働者の嘆きをよそに、ホワイトカラーエグゼンプションが導入されれば、7兆円のサービス残業と4兆円の所定外労働が生まれます。つまり11兆円以上の賃金がカットされ、そのぶん企業の儲けになるのです。
半面、いつまでも長時間労働が当たり前、帰宅は毎日深夜という現状を何とかしなければならないのも確かです。毎日、過剰なほどのノルマに対して、与えられた時間が足りず、過酷な労働にもがいている現実では、そこから逃れる方法などなさそうに思えます。かく言う私も夜中まで仕事をしています。
それなのに、悲しくも日本のGDPは、OECD加盟30カ国中18位にまで下落しています。かつて2位だったのが嘘のよう。今後さらに経済力を落とすことは間違いないでしょう。
それもこれも、長い会議でどうでもいい話につきあわされているせいに思えてなりません。残業代をカットする前に、非効率的な時間の使い方をやめ、時間を自己管理できるようにするのが急務です。
(生活経済ジャーナリスト・嘉悦大学短期大学部准教授)http://www.kashiwagirika.com