Ⅰ はじめに
中国は2001年にWTO加盟後、急速な経済成長を維持している。2004年の貿易総額は1兆4221億ドルで、米国、ドイツに次いで世界3位の規模に成長した。2006年には前年比23.8%増の1兆7609.9億ドルにまで急激に拡大した。貿易黒字額は2005年に1000億ドルを超え世界最大規模になり、その後、2006年には1775億ドルを超えた。それだけではなく、外貨準備残高は2005年末8,189億ドルとなり世界一になり、2006年末には1兆663億ドルに拡大している。それにともない人民元切り上げ圧力の回避、資金流出のために中国政府は「走出去」と呼ばれる中国企業による対外進出の規制を緩和、支援策を講じた。
具体的には金融面の支援策や政府許可の手続きの簡素化など、政府も企業の対外進出を奨励している。欧米を始め投資する多くの国においての対外投資に対しての戦略である人件費のコスト削減、投資先の地域の比較優位を活かした上での投資とは違う。人件費の削減や調達という視点で行われている先進国での海外進出戦略においては中国企業の対外投資が効果的であるとはいえない。
 問題点も多く案件に対する失敗率も高い。中国企業の海外投資の場合は競争優位理論が想定している競争力の源泉が作用していない。利益率も悪く効率も悪い対外投資が実施されている中、資源の獲得を目的とした対外投資の方法が目立ち世界から注視されている。
 また品質が悪くブランド力もない中国製品の製造拠点を海外に移す企業も増加している。
 グローバル企業の育成、貿易摩擦の回避、技術力やブランド力の獲得、人民元切り上げへの対策、国内の過剰投資の解消という利点を考えざるを得ないが、実際にはその目的は資源の獲得が主となっている。
 中国は深刻な資源不足に直面し、1993年から石油輸入国になった。2006年の年間石油消費量は3.24億トンで、そのうち44%を海外からの輸入に依存している。中国は、富裕層の増加とともに低所得者が中所得者になり、中間層クラスの所得者層が急激に増加している。同時に消費も拡大し著しい経済成長を維持している。
一方で中国の生産量は約1億7000万トンを推移しており、消費の拡大にともない生産が追いついていない。自動車など国内消費の普及が拡大するなど経済成長がもたらす生活水準の向上により、国際エネルギー機関(IEA)は「2030年には石油純輸入量が3倍以上に増え、輸入依存度は8割に達する」と見込んでいる。さらに国際エネルギー機関は中国の経済成長が続けば、原油価格は1バレル=150ドルに達する可能性があると予測している。
 それゆえ、今後は戦略的に資源の獲得をする、そのための準備が必要とされてきている。急速なニーズの高まりに応えること、バブル崩壊の阻止、経済成長を維持するためにも、今、中国がもっとも必要とされていることがエネルギー資源の獲得である。世界中のエネルギー企業とのパートナー提携などにより資源開発や研究が急がれている。それには流出したい余剰の外貨準備高を使うことが得策でもある。
 しかしながら中国政府が管理している国有企業が対外投資を実施、さらに政策として奨励していることは国家戦略としての海外企業の買収とみられ海外からの批判も増加している。対外投資に対して多くの目的を掲げても達成できているのは資源獲得だけであることも、世界から注視されている理由でもある。
 政府が支援している対外投資は、表向きは人民元切り上げへの対策、国内の過剰投資の解消、貿易摩擦に対応、グローバル企業の育成などを目的にしているが、案件に対する失敗率も高く利益率も低い。競争力の源泉が作用していない、中国企業の対外投資が効果的であるとはいえない中での資源の獲得を目的としている対外投資は世界から注視されている。
 本論文では、まず中国企業による対外投資の現状、先進諸国と違う戦略と特徴について、特に製造業を中心において検証したい。また現状では対外投資の目的が資源獲得になっている実態も述べた上で対外投資として中国企業の本来の役割について検討したい。

出所)中国商務部より作成
 

Ⅱ 対外投資額の政策と推移
 中国企業による海外への進出は1950年代から、政府の対外援助などに関連した企業活動として始まった。改革開放が始まる1978年までは政府の対外経済開発援助プロジェクトに付随して海外に進出した。対外投資が本格化した1978年改革開放以降は「認可統計」として4件、53万ドルの対外投資が認可されている。1978年に公布した「経済改革に関する15項目」の中では、中国企業の海外直接投資を認める政策が初めて打ち出されたものの、直接投資に関しての審査は厳しく、投資形態と投資金額などにかかわらずに国務院の許可を得る必要があった。実際には貿易権を持つ輸出輸入公司、対外経済貿易省が直轄する経済技術合作公司に限られていた。
国連貿易開発会議による「UNCTAD統計」では、1982年に4400万ドルの対外投資が計上された後、対外投資規制緩和にともない投資額はしだいに増加している。飲食業、建設業などのサービス業が中心だったものが1990年以降は製造業が増加している。1992年には40億ドルとなり前年に比べて4倍に増加し、1993年には44億ドルでピークとなり、その後1994年から1998年までは20億ドル台を推移した。2000年を底に、2001年には再び69億ドルに急増した。1999年に中国政府が「走出去」の戦略を提起したこと、「第10次五ヵ年計画」に対外直接投資拡大方針として明記されたことに加えて2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟したことなどが促進する形になった
中国政府が中国企業の海外展開を推進する「走出去」政策を打ち出してから、中国企業の海外直接投資が急速に拡大した。特にWTO加盟後は、国営企業から民間企業へスムーズに転換するためなどのグローバル化の戦略の一つとしても期待された。2001年度からの「第10 次五ヶ年計画」において、積極的に中国企業が海外進出を奨励する政策を掲げた。さらに、2004 年からは、中国に不足している世界に通じるブランドの定着を期待し「自主創新」方針を掲げ、世界標準規格を目指した。具体的に5 年以内で機械・電子・通信情報などの重点分野で世界に通用する中国ブランドを育成することを方針として示している。中国商務部と外交部が企業の対外投資ガイドライン「中国企業の歴史的大転換」を発表し本格的な政策綱要を公示した。商務部による投資認可も2004年10月から大型国有企業を除いて地方の商務所管機関に権限委譲され、許可に申請が容易になった。また同年外交部とともに「対外投資国別産業指導目録」を公表し67カ国を①農林・牧畜・水産業、②採鉱業、③製造業、④サービス業、⑤そのほかと分類し奨励業種とともに資金や税金、貿易、外為などの面で優遇措置を付与した。近年では、中国国家外貨管理局は2006年国内企業が対外投資する際の外貨購入制限の撤廃を発表したことで、さらに中国企業は対外投資向け外貨購入の制限がなくなり負担が激減した。これによって国内企業はこれまでより容易に海外投資ができるようになった。2005年は、資金流動量が初めて100億ドルを突破し113億ドルになった記録的な年でもあり、世界から注目された。
 それでも世界規模に比較すると対外投資の直接投資額は2005年時点で世界第16位であり、その対外投資の案件規模は大きくはない。
 M&A(買収・合併)を通じて行われた直接投資は増加し投資企業の形は多様化している。また有限責任公司の占める割合が国有企業を抜き、投資元としては1位になった。中南米への直接投資においては、アジア地域ではトップになった。近年、急激に中国の対外投資が世界的に注視し始めたのは原油の高騰にともない資源の獲得を目的とした中国の対外進出が急激に進んでいることからが理由である。
Ⅲ 投資先の国別特徴
 中国の対外投資を主要投資先で分析すると3種類に分けられる。香港とケイマン諸島だけで全体の4割を占めており、その目的はタックスヘブンである。ケイマン諸島、香港、英領バージニア諸島など従来からの租税回避地(タックス・ヘイブン)における投資額は全体の81%を占めている。これらの地域に設立した投資会社を経由して他の地域への投資が行われているのが実態である。これは中国の外資優遇措置の利用を目的としており、自国に向けて迂回投資が行われている。特にビジネスサービス関連産業が圧倒的に多い。2001年、2002年の認可額でみると香港が投資先国の1位に位置し、2005年には香港の輸出金額における中国のシェアは44.7%、輸入金額では中国から45%を占めている。これは香港において中国製品の再輸出が関係しているためである1 )。中国の香港向け再輸出の割合は著しい伸びを見せている。その理由は2003年6月に中国と香港が「経済貿易緊密化協定」(CEPA)を締結したことで香港製品の多くがゼロ関税で輸出できるようになった。「香港で登記・納税する企業は従業員の50%以上が現地で雇用されていること」と規定されているため、関税の免除にされる代わりに香港に拠点を置き、香港経由で再輸出する動きが強まった。法人税が17.5%と低いことも香港経由のメリットがある。そのため香港から他の地域や香港に投資を行うラウンドトリップという迂回投資も頻繁に行われている。外貨流動性不足の解消、人民元切り上げ対策などのためケイマン諸島やバージン諸島への投資は、中国などに再投資され迂回投資されている。
 第2に中南米への投資は資源の獲得を目的としている。アフリカ、オーストラリアやロシア、アフリカ、欧米、欧州などが主な投資先国である。
第3に韓国、米国、ドイツ、ベトナムなどの国々に進出しているのは製造業の海外展開が目的とされている。
中国企業のR&Dへの資金投入額は他国の企業に比較して著しく低い。その結果、開発能力も劣る。特にマイクロエレクトロニクス技術、ソフト開発技術、ネットワーク技術、デジタル化技術などの分野で遅れが目立つ。中国企業は高機能材料、高度通信設備、ICや液晶パネルなどにおいてもっとも重要な鍵となる部品や半完成品などの製造を苦手とし技術力のある日本企業などの外資企業からの輸入に依存せざるを得ない2)
1)汪正仁「香港経由の日中間貿易の拡大」日本貿易学会年報『JAFTAB』No44,2003年
対外直接投資の非金融部門を分析すると、2005年の中国における中国の株式投資部門では対外直接投資額が1000万米ドル以上の地域は30ヵ所もあり投資額は39.1億米ドルで株式投資総額の96%を占めている。投資額1億ドルの地域は香港、韓国、カイマン諸島、カナダ、オーストラリア、米国の6ヵ国で、香港、韓国、タイ、カンボジア、日本、モンゴル、ベトナム、イエメン、インドネシアなどの国(地域)などアジア地域における対外直接投資は24.53億ドルで投資総額の60.3%を占めた。カイマン諸島、英領バージン諸島、ベネズエラなどの国(地域)への投資額は6.59億米ドル(16.2%)で、アフリカへの投資額は2.8億米ドル(6.9%)であった。北米は米国とカナダを主とし投資額は2.7億ドル、ヨーロッパではロシア、ドイツ、英国、カザフスタンなどの国・地域に集中し投資額は2.57億米ドル(6.3%)であった。オセアニアは1.48億米ドルで、オーストラリアとニュージーランドが中心に集中した。
2 佐々木信彰『現代中国産業経済論』世界思想社、第5章P141木田はやお
 中国において対外投資が促進され増加していることは事実だが、金額ベースでみるとタックスヘブンを目的として行われているものが多いのが現状であり、中国企業が対外投資として実質経済においての利点を追求してるとはいいがたい。
Ⅳ 主な中国の対外投資の特徴と失敗
1 ブランド力戦略の失敗
 電子部品売り上げ煮により自社商品力の弱さに加え海外でのブランド力のなさは中国企業において大きなマイナス点である。輸出に依存している中国だが、その内訳は外資企業の委託加工が中心である。R&Dへの資金投入額が少ないため自社開発技術が低い。たとえば中国市場においても電子産業分野では外資系企業が主体となっている3)。信息産業部の発表によると2004年度の外資系企業が中国電子産業全体に占める比率は、電子部品売上高の77.1%、利益額77・9%、輸出額85.8%となっている。
 結局、技術力がないため完成品より委託加工が中心とした製造になる。技術力がアップしたところで中国企業による完成品が普及しないのは世界的にブランド力がないという悪循環を繰り返している。技術力のある理系出身者の人材教育に力をいれているものの、科学技術と先端市場を把握している技術出身の経営者は不足している。同時に生産現場においても専門管理職としての高い技術力を持つリーダーが不足している。
中国政府も2004 年に「自主創新」方針を掲げている。世界に通用する中国ブランドを育成することを方針として示しているように今後の中国の製品において大きな目標となることは確かである。中でも中国の対外投資としての役割としてもブランド力の強化、それによってグローバル化されることが求められる。対外投資の中でもブランド力を強化することを目的とした代表的な中国企業は、大手家電メーカーTCLが有名である。家電メーカーTCLはブランド力アップのため次々と海外に進出した。2002年、ドイツのシュナイダーを買収、2003年にはアメリカのゴヴィディオを買収、2004年にはフランスのトムソンカラーテレビ部門を買収後、TTE(TCL Thomson Electronics,TCL67%)を創設し世界最大のカラーテレビ生産企業になった。そのTTEはフランス、メキシコ、ポーランドの先進国だけでなくタイ、ベトナムなどにも生産基地をおいて製造した。TCLやバイクメーカーの力帆など中国企業がASEAN市場進出の足掛かりとしてベトナム進出を選んだ理由は、労働力と人件費の安さ、地理的分野にある。ベトナムのハノイでは79~119ドルで中国の昆明国家経済技術開発区での内陸部の賃金は81~152ドルよりも安い。またベトナム人の評判は5K(器用、勤勉、機敏、きれい好き、機転が利く)で中国人、もしくはそれ以上のレベルで短期的に習得でき技術習得力も高い。ベトナムは30歳以下が全人口の62%と若年層が多い人口構成であるため、労働供給も豊富である。さらに仏教、儒教の影響により政治的リスクによる宗教問題、デモが少ないことも労務管理が行き届きやすく中国より優位性が高い。また地理的にタイ、マレーシアと中国の中間に位置しているため産業集積型の場合、進出企業にとって有利であり利便性が高い。船便でベトナム北部は中国華南地区の産業集積を利用することが可能となっている
2004年の売上げでは中国市場の売上げ887万台(市場含有率は18.4%)であるのに対して、欧州市場は270万台(市場含有率は8.2%)で、北米は287万台(市場含有率は8.7%)、新興市場は300万台の売上げとなり海外拠点での売上げも増加した。欧州ではトムソンカラーテレビのブランドで市場を獲得し、北米市場ではRCAカラーテレビのブランドとして展開した 4)。TCLは本来のTCLのブランド強化にこだわらず、外資企業のブランド力を利用して販売、市場獲得に成功した。ところが2006年前半までのTCLの欧州市場でのカラーテレビ部門の赤字は約116億円に達し、株価も7割以上も下落、欧州市場からやむなく撤退を表明することになった。原因はライバル企業に対し薄型テレビへの移行が遅れたこと、海外市場での展開、自社ブランドの浸透に時間をかけすぎていたことが敗因である。欧州では、子会社TCLマルチメディアヨーロッパのOEM業務以外のテレビの販売と営業を中止し、従業員をリストラ、ドイツ、スペイン、イタリア、スウェーデン、チェコ、ハンガリーの販売会社を再編した。世界テレビ市場のメーカー別シェア(○年度)でみても、2004年に仏トムソンのテレビ部門を買収して世界トップだったTCL 集団は3位になり、韓国のLG 電子とサムスン電子が1、2位を占める結果となった 5)。価格競争が激化している中国市場の家電メーカーの利益率は低く、中国信息産業部発表の2005年度中国電子情報企業トップ100社によると、中国トップ10社の営業利益率は5%以下だが、韓国サムスン電子は18.8%、ノキア14.7%、LG電子6.2%、シャープは6%もある。
3) 福田佳之 東レ経営研究所産業経済調査部 「TBR産業経済の論点」ポスト2008(北京五輪)を見据えたアジア全域での事業展開がカギ
4)胡左浩・康上 賢淑「中国多国籍企業の国際マーケティング戦略」東レ経営研究所『経営センサー』6 No.83 2006年,41頁
5)2006年10月6日付『日経産業新聞』

表 中国家電企業の海外拠点の展開事例
 自社のブランドの浸透という意味では冷蔵庫で世界最大の生産を誇るハイアールが代表である。小型冷蔵庫の市場というニッチな市場を対象にした国内外の市場の展開を拡大しながらブランド力を浸透させることも同時に目的としていた。1991年にアラブ首長国連邦にHaier商標として進出し、1996年にインドネシアで合資として海爾ハイアールサービス有限会社を創設、現地で生産・販売をした。1997年フィリピンでハイアールLKG電器有限会社、海爾工業(アジア)有限会社を設立、1997年にマレーシア、1998年にイランに進出、1999年アラブ首長国連邦ドバイでハイアールの中東有限会社の設立、北米でもハイアール貿易有限会社を設立した。小型冷蔵庫を生産・販売、イタリアの冷蔵庫製造企業を買収後はハイアールブランドとして2002年にはドイツの家電企業を買収、その後、ヨルダン、パキスタンでも合資企業を設立、モロッコにも冷蔵庫・洗濯機・エアコンなどの工場を設立した。日本では、三洋電機と合弁、家電事業で包括提携した。三洋ハイアール社を設立した。住友商事との家電販売業務を合併(2003年)した。共同開発した家電製品はハイアール社のブランドで販売している。全米50%シェアを持つ商品は国際貿易における非関税障壁回避に有利であるアメリカに工場を設立し市場を拡大した。国内を含む全世界に、生産拠点50ヶ所、販売網5万8,000ヶ所を持ち、総合競争力評価で米「Appliance Manufacturer」誌に世界家電メーカー第9位にランクされている。ちなみに、日本の家電メーカーは松下4位が最高である。さらにハイアールのブランドを世界中に広めたCEO張瑞敏はアメリカ以外の世界知名企業CEOの19位にも評価されている6)
 しかしながら、ハイアールは企業の成功例として多くの書物にも登場し知名度もアップしたものの、決して高級品というブランド力が浸透したわけではない。中国ブランドを世界の市場において高級品として位置づける戦略として成功している企業はないに等しい。研究開発能力や技術に基づく優位性は他国の商品に比べ弱く、加工貿易型として途上国に投資しているにとどまっている。米ウォールストリート・ジャーナルは、ブランドを率先して買収した中国企業はしばしば消化不良を起こすと報道している。世界の主要な経済地域においてマーケティングの効率と効果とを最大かするためにグローバルな知識や資源を活用しながら顧客ブランド知識を世界規模で標準化し、マーケティングの効率を高めることを目的としたグローバルブランド構築に成功したとはいいがたい 7)
6)ハイアールのホームページ(http://www.haier.com.cn),石川幸一「活性化する中国の対外投資」国際貿易投資研究所・国際貿易と投資Winter2004/No.58 2004年,86頁
特徴的なのは先進国とASEAN諸国において違うことである。欧米や日本などの先進国においては、合併、買収した外資企業のブランドに依存しそのブランドを利用し市場展開することが多い。海外市場での中国企業の自社ブランドが確立されていないためである。しかし一方でASEAN諸国への進出においては、中国企業の知名度が欧米諸国よりも高いため商品イメージから販売促進への影響力があり市場拡大につながっているといえる。また一部のASEAN諸国においては自国の企業よりも中国企業の技術力が高い場合もあり技術力とともにブランド力があると評価されている。今後ASEAN諸国においては中国企業のブランド力の向上は期待されるといえる8)
7 )田中洋『グローバル・ビジネス戦略の革新』同文館出版2007年,71頁
8 ) 佐々木信彰「現代中国産業経済論」世界思想社、第5章P141木田はやお
2 収益率の悪い小規模な中国の対外投資
中国の対外投資額の規模は小さく、一部の時価総額の大きい中国企業の対外投資を除くと年平均で約1億ドル程度しか行われていない。UNCTADが発表する世界投資報告2003年版によると、2002年における中国の対外直接投資額は28.5億ドルであり、これは流入額の5.4%にすぎない 9)。財務省の「対外及び対内直接投資状況」では2003年度中国企業による対日直接投資は計20件、総額は3億円で日本の対内直接投資と比較すると0.01%にとどまっている。
対外直接投資収益率10)はたった0.35%で、韓国の1.35%、日本の5.03%、台湾の1.92%、香港の5.72%に比べてもかなり収益率が悪いことがわかる。UNCTADによるWorld Investment Report2000とIMFによるInternational Financial statisticsの統計では、直接投資の受入額(In-flow)と投資額(Out-flow)の比は、先進国の平均は100対110、発展途上国の平均が100対13であるのに、中国は100対2でしかない。このことからも中国の海外直接投資の総規模は他国に比較してかなり少ない、発展段階でしかないことがわかる11)
 中国アモイ大学の李国梁教授の研究によると、海外に投資する中国企業のうち利益を確保できていない、または赤字経営となっている企業は3/2に上っている。その原因は、組織構造や経営管理などの問題により経営効率が低下していること、国有企業出身の中国人経営者の海外市場環境への理解が足りないことを挙げている )。
 中国政府が企業の対外投資を促進しても海外市場において今後、国際競争が激化した場合、効率の悪い国営企業としての旧式の経営方針のまままでは多国籍企業の戦略に乏しく、今後は淘汰されることも懸念される。
9 )関志雄「中国経済新論」2004年
10 )国際貿易投資研究所調べ、世界主要国の直接投資計集である投資収益÷対外直接投資残高で計算
11 )黄りん『グローバル化の中の中国企業』2004年,5頁
12 )崔晨『中国企業の海外進出と東南アジア華人企業』2006年,2頁
ASEAN諸国への進出
Ⅴ 政府の政策
第10次五ヶ年計画(2001年―2005年)にも取り入れられた「走出去」(中国企業の海外進出)は政府が促進している。2002 年11 月、第16 回共産党大会でも「走出去」戦略の実施を評価した上で「走出去」を「引進来」と同じように国家戦略の一つとして位置付けた。また2003 年10 月、国家外貨管理局は「国家外貨管理局が海外投資における外貨管理改革問題をより一層深化することに関する通知」を公布、商務部に対外進出を担当する部署まで置いている。
このような政府の後押しを受けて海外に進出していた中国企業は、大きくわけると、3つに分かれていた。
1)中央政府や地方政府に直属する貿易専門の企業や独占的な競争優位を持つ企業、例えば中国対外貿易運輸中国糧油食品輸出入などの貿易関連の国有企業
2)製造業を中心とした研究開発能力、ハイアール、TCLなど
3)国有企業の金融や大規模なサービス業、中国遠洋運輸、中国建設
近年では2005 年3月に、商務部と国家外貨管理局共同で「企業海外買収事前報告制度」を公布し、企業の国際経験の不足を補うため政府で把握している情報や資源も活用している。同年5月、人民銀行外貨管理局は「国内企業対外投資の外貨管理に関する通知」を公布し外貨管理規制を大幅に緩和した。各省の地方企業の対外投資に係わる外貨利用限度は従来の33億ドルから50億ドルに拡大した。地方の外貨管理局の審査権限については、一件あたりの投資額が従来の300万ドル未満から1,000万ドル未満に引き上げられた。
資源や技術など、産業政策で奨励されている対外直接投資については、その外貨利用を優先するとしている。また、対外直接投資で得られた利益については再投資も認められている。実際に、2004年の対外直接投資36億2,000万ドルのうち、11億1,600万ドルは投資利益を使った再投資である。
さらに2006年2月「国家中長期科学と技術発展規画綱要」を発表し、今後15年間の目標として①国際競争力を有するプラント製造技術と情報技術の開発、②農業技術を世界のトップレベルに、③エネルギー開発、省エネ技術とクリーンエネルギー技術の開発、④重点産業及び主要都市において循環型経済と研究開発モデルの確立、⑤重大疾患(エイズ、肝炎など)の予防技術の確立、⑥国防需要に見合った自主研究開発技術の確立、⑦人材管理と人材の確保、⑧国際競争力のある研究機関の設立と育成など技術獲得について政策を掲げた。2020年までにR&D関連支出のGDP比を2.5%に引き上げ、技術の対外依存度を30%以下に引き下げること、2006年3月の全人代の第11次5ヵ年計画では、「国家中長期科学と技術発展規画綱要」が制定・発表され、技術力について世界のトップレベルの研究開発を進めるとしている。技術力を誇る日本企業においても2004年、上海電気集団が工作機械メーカーの池貝を買収、2001年に破綻し民事再生法の適用を受けた池貝は資本金を100%減資した後、池貝を4億8000万円出資し買収した。その後、池貝の工場で技術研修をはじめ中国で汎用施盤の製造を開始している。
Ⅵ 資源の獲得の推移
 胡錦濤総書記による二期目の指導体制が始まり2007年10月に開催された第17回党大会では中央委員会報告(政治報告)の経済部分では、エネルギー資源の節約と環境保護の強化を強調された。2020年までに1人当たり国内総生産(GDP)を00年比で4倍にする一方で、これまでのような「量」を重視する政策よりも「質」を重視した製造方針に転換させる。省エネと環境保護を実施した上で胡氏は「資源節約型で環境に優しい社会の建設を、すべての部門と家庭にまで徹底させなければならない」と決意表明した。 具体策としては(1)省エネ、生態環境保護の法律、政策の充実(2)代替エネルギー、再生可能エネルギーの開発と普及-などを挙げ、また環境汚染の改善への努力として水や大気、土壌の汚染対策強化、都市と農村の居住環境の改善、生態系復元なども指摘した。
このところの石油価格の値上がりは著しいが、石油の価格は、石油を大量に消費している新興国である中国とインドの経済成長、そして中東、アフリカなどの産出国との関係によって決められている。しかし、実際に現地の中国企業と日本企業を訪問13) したところ「業績が伸びている。この勢いはすざましく衰えを知らない。そんなときに誰も環境問題に取り組む人はいない。儲けられるときに儲けなかったら損する」と口をそろえた。中国の環境問題が世界的に注視されているのにもかかわらず国内では資源の節約に対しても取り組んでいる姿勢はみえなかった。
 また、国家発展改革委員会(発改委)の馬凱主任は「京華時報」のインタビューの中で「中国はエネルギー消費大国だといわれているが、2005年の国民1人当たり一次エネルギー消費量は世界平均の石油換算1.65トンに対し中国は1.18トン量である。世界平均の約4分の3、日本の4分の1、米国の7分の1にすぎない14) 」と弁明している。
13) 2007年7月上海市の上海宝山鉄鋼企業、日本企業3社を訪問しヒアリングした
14) 「人民網日本語版」2006年11月14日付け
しかし、BP統計によると、2004年における中国の一次エネルギー消費は、13.86億石油換算トン(TOE)となっており、世界のエネルギー消費の13.6%を占め、石油消費3.09億ドルで、それぞれ、アメリカに次ぐ世界第2位のエネルギー・石油消費大国となっている。一次エネルギー消費量においては急激に拡大し、6年前と比較しても2倍近くに拡大している。2006年でいえば、中国のエネルギー消費量は石炭換算で前年比9.3%増の24.6億トンと、GDP当たりの省エネ目標(-4%)に対して実際にはわずか1.23%の削減である。石油の生産量では2006年で年間石油消費量3.24億トンで、その内44%を海外からの輸入に依存し1993年から石油輸入国になった。一方で石油の消費量は中国の生産量は約1億7000万トンを推移しており、消費の拡大にともない生産が追いついていない。
実際に石油の消費が進む中国ではその対策の効果も見られないまま、4割を輸入に依存している。
中国政府が2005年6月に発足した「国家エネルギー指導小組」(戦略会議)では、海外の石油・天然ガス資源の開発や輸入先の多元化に関連して「走出去」戦略を盛り込んでいる。約8000億ドルを突破した外貨準備を利用して海外の資源の権限を買わせるものである。政府のサポートの下で、中国三大石油会社の中国石油天然ガス(CNPC)、中国石油化工(SINOPEC)、中国海洋石油(CNOOC)はすでに産油国に直接投資し現地生産することになっている 15)。具体的には、中国には石油国有企業大手3社のCNPC(中国石油天然ガス集団公司)、SINOPEC(中国石油化工集団公司)とCNOOC(中国海洋石油総公司)があるが、これらの企業は中東やアフリカ、中央アジア、東南アジア地域に進出、スーダン、インドネシア、マラッカ、南米メキシコ湾、中央アジアなどの地域において、資本参加や探鉱及び石油開発権をすでに取得している。すでに石油を求め世界中に進出し現在40カ国に進出している。 
1995年に中国石油天然ガス集団公司によるタイの油田開発の権利を獲得したことが中国企業において初めての海外石油開発として成功した。その後、スーダン、インドネシア、アルジェリアなどで開発や探査の契約を獲得し、中国海洋石油有限公司によるインドネシア、スペイン、オーストラリアなどの権利の獲得や資本参加した。2000 年以降はさらにタイ、ベネズエラ、カザフスタン、ロシア、ミャンマー、オマーン、アゼルバイジャン、インドネシア、イラン、リビア、オマーン、パキスタン、アルジェリア、オーストラリア、米国などの地域で海外探鉱・生産プロジェクトを拡大させた。
2000 年末、中国が海外で確保した権益油の生産量は27 万B/D となり、それは、中国国内消費量の約5%を占めている。
 2005年にはミャンマーの油田やガス田の探査、共同開発、カナダのオイルサンドの開発に参入などに成功、ベネズエラの油田やガス田などの開発、カナダのパイプラインの建設への参加を決定している。
15) ) 柴田明夫『資源インフレ』日本経済新聞社 2006年,186頁
また、中国海洋石油有限公司によるインドネシア、スペイン、オーストラリアなどの権利の獲得や資本参加、2005年にはミャンマーの油田やガス田の探査、共同開発、カナダのオイルサンドの開発に参入などに成功しているが、失敗例も多い。
中国企業の対外直接投資は、企業が単純に利潤を追求しているだけではなく、産業政策や将来の中国経済維持のための必要な資源を獲得するといった中国政府の意図も反映している。その証拠に対外直接投資を行っている中国企業の上位20社はすべて国有企業である。特に規模が大きいのは、中国石油化工、中国石油天然ガス、中国海洋石油など石油企業である。これらは中央政府直轄の大型国有企業である。このように民間企業に移行していない中国国有企業の買収が、中国政府の意向が強く表われているため政治的な問題となっている。具体的には中国海洋石油(CNOOC)による米国の大手石油会社であるユノカルの買収とレノボによるIBMのパソコン事業買収がある。
CNOOC(中国海洋石油総公司)による米国石油大手ユノカルの買収、CNPCのカナダアフガニスタン石油公司買収など中国石油企業の海外進出、国際資源の買収・確保への攻勢が活性化している。中国海洋石油はスペインの企業からインドネシアの油田権益を2002年に買収、カナダMEGエネルギーに出資した。ところが、シェブロン・テキサコと米石油会社ユノカルの買収をめぐって争うこととなり断念することになった。2005年に中国海洋石油公司が185億ドルを拠出してユニカル社を買収しようとした。ユニカル社には最大の180億ドルで買収すると提案したが米国議会などの政治勢力からの強固な反発を受け未成功に終わった。シェブロンは約166億ドル(約1兆8000億円)でユノカルを買収することで同社と合意していたが、中国海洋石油公司が、その後総額185億ドル(約2兆円)の買収提案を行い、両社の間で買収合戦に発展していた。米経済紙ウォールストリート・ジャーナルによると、中国海洋石油によるユノカルの買収を阻止するよう求める書簡を作成し、米議員らに送付した議会工作にシュブロンが直接関与していたとあるように、米下院では、買収の阻止に向けた動きが盛り上がり、結局同買収提案を阻止するための連邦予算修正決議案が可決された。そのほかにも、中国五鉱集団公司は50億ドルを投じてカナダのノランダ社を買収しようとしたが、多方面からの反対があり失敗した。
中国海洋石油は米国政府が求める条件をすべて受け入れる意向を表明し、最大の185億ドルの買収案を提示したが、この案件が失敗した。米国にとっても石油は重要な資源であり、容易に中国に渡すべきではないという意見もあったが、最大の理由は、国営企業であることが指摘された。中国海洋石油が国有企業であり政府から対外投資政策として特別な支援を受けていることが不平等だと指摘され認可されなかった。
一方で、レノボによるIBMのパソコン事業買収においても、政治的な問題が議論された。中国側へ先端技術が流出、自由経済に完全に移行していない中国市場へのアクセスが出来ないことなどが懸念された。最終的に、米国政府の資本が入った企業による中国企業買収を認めざるを得なくなる状況を作るために買収を成立させることとなった。しかし、この買収成立後、米国国務省は機密情報の漏洩を懸念しレノボのパソコン購入計画を撤回した。
ハイアールによる米国家電大手・メイタグのM&Aも未成功に終わっている。
 2006年では鉱山などの資源獲得対象の投資対象国として注目している南アフリカ、ザンビアでは、経営難に陥っていた製銅企業のチャンビシ鉱業所が買収されてから労働条件が悪化したこと、中国製品が大量に浸透して地元企業が倒産をしいられて雇用喪失の問題など不満が爆発し鉱山労働者たちが施設財産を破壊するなどデモが拡大している。道路建設・架橋会社においては、中国は石油を抵当に中国が数十億ドルの信用供与を提供し数千キロの道路補修工事を進めようとしている。
 中国海洋石油はスペインからインドネシアの油田権益を2002年に買収、カナダMEGエネルギーに出資したもののシェプロン・テキサコと米石油会社ユニカルの買収をめぐって争い、結局断念した。米国のユノカル社のM&Aには中国は最大の180億ドルで買収すると提案したものの未成功に終わっている。
Ⅶ 将来における資源獲得の展開
 2005年の時点で、中国の石油備蓄は183億バレル、2005年の年間産油は349万バレル、1日あたりでは362万バレルに達し、2006年には1日あたりおよそ380万バレルであると報告した。しかし2005年の中国の石油総消費量は一日あたり653万バレル、一日の生産量が465万バレルであり、すでに不足していることが計算できる。
 資源の獲得のために対外投資として海外進出する中国企業は、政治的なリスク分散などを考慮し一ヶ国に集中するのではなく、さまざまな広範囲の地域に分散した対外投資を行っている。国際情勢や政治的リスクに対応するための手段を駆使している。
 中国は、中国経済の成長にともない資源の需要を予測し長期的視野にたって資源獲得を進めてきたとはいいづらく、中国のエネルギー市場のインフラや運営体制は世界に大きな後れをとっていた。このような点においても中国企業は、リスクマネジメントのための提携や企業間との提携などの面で十分ではなかった。近年、急激な中国の資源の需要に対しての資源獲得を促進し始めた。しかし、その一方で、発展途上国であるアフリカ、南アメリカ、北欧、ロシアなどで成長段階にある国々も経済が成長するとともに資源を必要となる。今後は欧米だけでなく途上国を含めて世界的に自然資源やエネルギーの獲得を巡る新しい競争が激化していくことは明らかである。
 中国は世界でも有数の石油生産国である。「国際エネルギー機関」によると、2006年現在、中国は12番目の生産国である。しかしながら2001年から国際パートナーシップと新技術が進んでいるため、今後は中国の世界の中心的な生産国になると明記している。チャイナディリー2005年6月14日付けによると、新疆ウイグル自治区の石油生産は、現在国内で3番目の生産量を誇っている。2005年時点で2200万トンを年間生産しているが、近いうちに5000万トン、2倍の生産量を確保できる計画があると伝えている。ところが同じチャイナディリーにおいて、2006年、1年後には、「将来的にはさらに開発が進み、生産量が増えて年間1億トンを誇るまでになる」と伝えている。実現すれば、これまで資源の不足分だといわれていた分をおぎなえることになる。このような国内の資源開発が加速すれば生産量が増える。海外の企業と提携することで開発の技術も進歩し、多くの未開発の地域での開発や調査も促進される。開発の拡大により埋蔵量も増えることが期待される。
 確かに、1991年に開催された第13回世界石油会議では、中国の埋蔵量は100億6000万トンとも見積もられていたが、1997年に開催された第15回石油会議では、すでに140億万トンも増加している。また中国の資源鉱物省によると1991年から1995年において期待されていた埋蔵量は9億トンも増えている。
中国が対外投資を積極的に進めているアフリカのアンゴラはナイジェリアの次の産出国であり、一日に生産する量が200万バレルと主要生産国の一つである。中国が輸入している石油のうち半分がアフリカからであるが、その40%がアンゴラからである。スーダンのダルフール北部では、2004年では1日に平均23万5000バレル生産しており、2005年には、1日に50万バレル生産している。2007年、中国はスーダン・ダルフール地区の13の原油鉱区の探査権を獲得した。中国石油天然ガス集団(CNPC)は、スーダンの石油生産企業、国営石油会社Sundapet社など2社の最大株主にまでなった。中国はスーダンの石油産出量の約70%を輸入している。また、中国が2007年1-5月にスーダンから輸入した石油は470万トンで、前年の5倍に急増している。一方、外務省のホームページによると「スーダンは03年より、西部のダルフール地域において、スーダン政府軍並びにその支援を受けたアラブ系民兵と反政府勢力の間で内紛が激化し、20万人以上のアフリカ系住民が殺害されている。特に婦女子に対する暴力行為などで避難民と難民は250万人も発生し、深刻な人道状況となっている。現在でも武力衝突が頻発している」とあるが、国連部隊とアフリカ連合部隊の受け入れを拒否している。内戦の続くスーダン政府は、テロ支援や人権侵害として国際社会から非難されているが、中国は違う。国連安全保障理事会で中国が大量虐殺に対してスーダン政府への制裁提案がでても中国は擁護、国連の安保理に付託するという意見に対しても中国が拒否権を発動した。1976 年にアメリカのシェブロン社がガス田を発見したが、スーダンの内戦情勢のため開発は停滞し、権益も放棄した。進出途中であった欧州も国際人権団体の圧力などによりスーダンへの進出を控えた。それでも、深刻なエネルギー不足をかかえる中国だけは進出を選んだ。中国によるスーダンへの投資額は計40 億ドルを超え、スーダンへの最大の投資国となった。早くからアフリカ進出していた米国だが、それよりも中国はアフリカはとの関係を深めている。2000年以降、中国とアフリカ間の貿易量は約4倍になり、2005年には397億ドルにもなった。アフリカに進出した中国企業はすでに600以上に上る。対アフリカへの対外投資のほとんどが国営企業によるものであり、その半分以上が赤字となっている。アフリカに対しては50 年以上も約900 のインフラ、社会事業プロジェクトを実施し援助しているが、多額の資金を投資している利点の第一は、将来のアフリカ諸国の経済成長を見込んでの政治的利益である。アフリカは国際政治の舞台における軽視することのできない重要な力であり、中国の外交全体の中で特殊な位置を占めている。アフリカは中国の戦略同盟軍であり、中国が西側の大国との関係をうまく処理するための重要なよりどころである。アフリカ諸国の支持が絶対に欠かせない理由は、アフリカには台湾と国交を持つ国が5ヶ国もあり、台湾独立派が台湾独立運動を展開する場ともなっている。中国とアフリカ諸国との協力は台湾独立を抑制するうえでも重要な役割を果たしている。次に経済的利益である。アフリカは資源が豊富で市場の潜在力が大きい。中国が内外「二つの資源、二つの市場」という発展戦略を実施するうえでの重要な構成要素である。
 資源獲得のための中国の対外投資の戦略、すなわちアフリカなどにおいての国際的なパートナーシップの拡大は、石油の国際価格においても大きな影響を与える。また石油の需要と供給、技術の発展、代替手段だけでなく、政治的にも緊張関係を生み出すことにもなりかねない。また、中国の台頭が、アジア太平洋中期におけるエネルギー資源の支配を招くことも不安視されている。将来、資源の獲得を巡って政治的な緊張関係が生まれる事とも容易に想像できる。東シナ海において、資源獲得における衝突はすでに始まっている。これには尖閣諸島のおける石油資源を巡っての中国と日本の衝突だけでなく、スプラトリー諸島周辺を巡る中国、ベトナム、台湾、そしてフィリピン、ブルネイ、インドネシア、マレーシアの小競り合いなどもあげられる。
Ⅷ 結論
 進出側の企業は経営や、技術、人材、情報などの面において優位性を待たなければならない。ほとんどの中国企業は優位性がなく、また低収益でもある。
 中国の対外投資の戦略の主力は中国経済の発展の最大の鍵となる石油・天然ガス資源の開発、鉱山採掘などの資源獲得が目的となっている。政府が主導権を握る国有企業が自国のために海外で買収を進めている姿は、現地の適性にかかわらず現地の雇用を奪い取っていることにおいても原住民のデモや反発も耐えない。
 社会主義的市場経済の発展は中国独自の経済成長路線であり、世界から市場経済を十分に認定されているとはいえない 16) 先進諸国の多国籍企業による対外投資とは違う特徴の対外投資を促進しているが、ブランド力の獲得、グローバル化、技術力の獲得など、対外投資が効果的に作用しているとはいえず、貿易摩擦でさえも改善されたとはいえない。投資先の国として香港が圧倒的に多く、実際には貿易促進を目的としたものが現状である。
 1960年代に米国企業による対外進出が促進した。1970年代には日本企業の対外進出、1980年代にはNIEs企業による対外進出を説明した従来の理論に対して、中国企業の場合は、新しい展開の検討が必要とされる。ロール(Lall,1983)のローカル適応技術説、折衷理論は企業が持つ競争優位を海外直接投資の必要条件としているが、中国企業の場合はこれにあたらない 17)。1990年代のグローバル化がもたらしたヴァーノン(Vernon,1966)の国際プロダクトサイクル(IPLC)の仮説も単純に中国に適用するともいえない。
 中国は今世紀に入ってから、効率的なエネルギー開発において大きな成長を遂げている。中国のエネルギー政策の歴史は50年ほどしかないが、中国政府はこの間、新技術の開発やパートナー構築、開発において大きく進歩したといえる。エネルギー資源を獲得するために懸命に海外の企業との提携を進め生産研究開発を行った。これらのパートナーシップの企業の中には、アフリカ、南アメリカ、中東、ロシア、近隣のアジア諸国との関係も含まれる。中国は自動車の普及台数の増加も著しく今後も経済成長と発展にともないエネルギー需要はさらに増えることは確実である。
 政府の最大の注力は中国経済成長維持の鍵となる石油・天然ガス資源の開発、鉱山採掘などの資源獲得である。貿易摩擦回避として本格的な対策がとられていない中で、政府が主導権を握る国有企業、現地の適性にかかわらず積極的に買収を進めている背景はWTO 加盟国として望ましい姿ではない。
 政府は対外投資に対する法律の規制を自ら厳しくしなければならないが、今のところ具体的な政策は掲げられていない。政府が後押ししている大型の国有企業が海外で過剰に資源獲得のために派手に対外投資し、買収を促進していることは阻止しなければならない。
 中国は将来的なエネルギー需要に対応するために資源獲得先の分散を図ってきた。中国企業は国営企業であるシノペック、ペトロチャイナ、CNNCの3社を中心に国際プレーヤーの中で苦労してパートナー構築をおこなってきた。中国政府はこれらの3社を管理体制においたままではなく、民営化させることが今後の課題だといえる。国営企業が民営化され始めて本来の多国籍企業としてのグローバルスタンダードを理解した上での対外投資を実施することが必要である。透明性の低いコーポレートガバナンスが成熟していない段階で、中国企業が買収を繰り広げることは、最終的な局面で必ずしも中国にとってよい結果がでるとは限らない 18)。
 中国企業が世界市場において競争可能な多国籍企業に育てば技術・ブランド・販路を獲得することにもつながるが、それもグローバルスタンダードを理解した上ではじめて異なった職業別能力、個性によって職業別能力の調整と組み合わせにより中国製品・サービスの特徴、戦略的競争力となるコアコンピタンスの活用ができるのである 19)。
 また中国はアフリカなどを中心に海外での原油開発研究、資源獲得、輸入する方法を中心に対策を掲げているが、実際には政治的な不安や、企業間の競争激化、リスクマネジメント不足などにより、この関係が長期的に維持できるかは疑問が残る。
 長期的な戦略でみれば中国は自国での開発や生産性を高めるほうが利便性や運搬などの面においてもよほどコストが安い。イギリスやノルウェーなどはその成功例であるが、中国では現在、国内開発への注力よりも海外進出し企業を買収提携するといった戦略を重んじている。
 今後、世界的に資源の獲得競争が激化し、それによって中国企業がリスクマネジメント、透明性に欠けていることが明白になり、国際企業間での企業統治は危機に陥いることはさけられない。資源のある国に積極的に進出し競争の激化をもたらすことよりも自国や隣国の開発をするほうが先決である。
 本論文では、まず中国企業による対外投資の現状、先進諸国と違う戦略と特徴について触れた。しかし中国の対外投資は中国独特の特徴をうまく活かしているとはいえず、効果的に作用しているとはいえない。さらに、中国企業による対外投資の案件の規模は決して大きくなく収益率も他国に比較して低い。現状として中国の対外投資は資源獲得を目的に存在している。将来を見込んでの投資であるが、現在のところ効率的で生産性の高い方法ではない。経済大国となった中国企業の役割については対外投資、海外進出を促進するのではなく、海外からの企業の中国への進出を奨励し、自国の資源開発による生産量を上げることが先決であるといえる。
 
参考文献
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「中国企業による対外投資の特徴と問題点」プレゼン資料
http://www.kashiwagirika.com/wp/wp-content/uploads/2008/06/c09-080628.pdf