メラミン騒動で、中国製品の安全性に対しての不安が再び高まっている。
今回の事件では、中国では有名な乳業企業である4社──内蒙古蒙牛乳業集団股フン有限公司(蒙牛)、内蒙古伊利実業集団股有限公司(伊利)、石家庄三鹿集団股有限公司、光明乳業股有限公司の乳製品にもメラミンが混入していた。
ところが実態はもっと恐ろしい。なぜなら大企業よりも販売ルートが明確でない中小規模の乳業企業が中国全土には1600社もある。それら企業の乳製品は、大手スーパーなどでの明確な販売ルートではなく、路上などでの販売で回収さえできない状態にあり、さらなるリスクとなっている。すでに2004年には、粉ミルクが原因で頭部巨大化幼児が発生しているだけに、今回の件は後々まで尾を引くことになるだろう。
■農村部では1.9億人が基準以下の汚染水を飲用
さて、中国の食が問題を抱えていることが、今回改めて明らかになったわけだが、中国には、その根幹ともいえる重大な問題がある。「水の汚染」である。
中国の地方の水道は、飲み水として使えないものがかなりを占めているが、地方ではお湯を沸かす設備さえなく、不衛生な水を飲むしか選択肢がないところがほとんどである。意図的なメラミンの混入よりも、さらに根が深い問題ともいえる。
JETROの定義によれば、水質汚染とは、「水域にある種の物質が混入したことにより、その化学、物理、生物又は放射性等における特徴が変化し、これにより水の有効利用に影響を与え、人体の健康に危害を及ぼし、又は生態環境を破壊し、水質の悪化を引き起こす現象」である。一言で水が汚染されているといっても、それが与える影響は果てしなく大きいことがわかる。
ではいったい、どれくらい汚染はひどいのか?
中国の7つの大きな流域――珠江流域、長江流域、准河流域、黄河流域、海河流域、遼河流域、松花江流域において、ほとんどの地域で高い汚染が確認されている。
■深刻な中国の水質汚染は、日本の環境ビジネスにとってのチャンス
その汚染度を調べるために乳業企業が行った「中国環境状況公報」の水質チェックは、水質をⅠ~劣Ⅴに分類している。ⅠⅡⅢは飲用可能、Ⅳは飲用水として不可だが工業用としての使用は可能、Ⅴは飲用水や工業用ともに不可だが農業水としての使用は可能となっている。
しかし、農村部では、1.9億人が基準値を超えた有害な水を飲用せざるを得ない状況にあると推計されている。Ⅴより下の劣Ⅴは、工業・農業ともに不可の汚染水であるが、劣Ⅴは海河で6割、遼河で4割もある。
松花江水汚染事故は、2005年11月に大手国営石油会社の傘下にある吉林石化公司化学工場が起こした爆発事故だが、100トン以上の有毒化学物質ベンゼンが国を超えてロシアまで流れ、国際問題にまで発展した。それでも松花江水汚染事故以降も、いまだ環境事故は年間100回を超えているといわれる。すでに1990年以降、沙頴河が黒く変色したころから、飲料水に含まれている藻類毒素が原因で発癌率が10倍に高まり、癌患者が増えたと現地の新聞は伝えている。
■中国の環境対策投資は今後さらに増えていく
現地で環境の関係者に取材をしていると、「環境対策は強化されている」という。公害問題が次々に噴出し公になる日が、もう目の前に来ていることがひしひしと伝わってくる。日本企業を始め、外資企業はその標的にならないよう、注視する必要があるだろう。
コカコーラをはじめ、日本企業も含めた有名企業がすでに環境基準違反のブラックリストにランクインしている(前回の記事を参照)。地方政府のコントロールにより、環境政策は各省庁ごとに出されており、進出企業はすべてを把握しておく必要があるが、人脈がなければ抜き打ち検査の標的とされるのが現状である。
確かに、中国政府が環境対策へ取り組む額は増えてきている。北京五輪に向けて、大気汚染などの改善のためにかけた金額は、過去最大規模の1400億元となった。政府発表によると、その効果により北京五輪直前には、一時的にも環境汚染は減少したという。今後も環境対策費はさらなる増加が見込まれる。
環境対策に目覚めた中国は、環境ビジネスで中国市場に展開したい日本企業にとって、大きな商機につながるかもしれない。中国に進出している日本企業にとっては、環境対策コストが負担になってもくるが、一方で環境関連企業にとってはチャンスである。
■水環境ビジネスで中国進出する日本企業も
日本では水道ビジネスは民営化されておらず水道局が独占しているため、民間は水環境ビジネスが決して得意とはいえない。中国市場においても、水環境ソリューション事業では、欧州企業が戦略的に進出しており、日本企業は目立っていない。
そんな中、積水化学工業は日本のプラスチックパイプメーカーとして初めて中国の水環境インフラ市場へ進出した。中国では水道管からの水漏れが多くインフラの整備が充実していない。水利インフラが必要な中、水理性、耐久性、軽量性に優れる強化プラスチック複合管(FRPM管)の市場が急速に拡大している。
また、旭化成ケミカルズは世界最大規模の膜分離活性汚泥法(メンブレンバイオリアクター= MBR)による排水処理設備を受注している。MBR は反応槽内にマイクローザ・モジュールを組み込んだシステムで、通常の活性汚泥法に対して最終沈殿槽が必要なく、低コストで高い水質の水処理が行える。環境機器メーカーの荏原製作所でも、中国に進出し民間産業用の廃水処理施設の設計施工、アフターサービスなどを行っている。
環境機器メーカーの荏原製作所でも、中国で浄水・廃水処理、ゴミ処理の環境ビジネスを展開し、廃棄物焼却所や汚水処理場の建設などで実績を上げている。
環境破壊でブラックリストにのる日本企業がある一方で、環境ビジネスで中国に進出する日本企業もある。中国での環境ビジネスは、日本企業にとって大きな可能性を秘めている。