金融危機は五輪閉幕まで沈黙されていた
 バブル崩壊が懸念されていた中国では、過熱した直接投資を抑制するため、「引き締め政策」に徹底していた。ところが北京五輪直前の7月から「引き締め」政策を急に「緩和」に変更した。その後、米中政府が「金融危機を北京五輪終了までは表面化させない」ことを約束していたかのように、五輪直後にリーマン倒産が報じられた。北京五輪中に金融危機が表面化されれば米国スポンサーにも大きな打撃がある。双方にとっても五輪終了まで待ったほうがメリットがある。
 9月以降は、金利の利下げ、中小企業支援、輸出促進の活性化など次々と景気対策を即実施し、11月9日には、国務院が投資額4兆元(57兆円)に及ぶ内需拡大策を発表、財政政策と金融緩和と同時に実施している。4兆元とは2007年のGDPの16%に相当する額であり、中央政府の拠出、地方政府の拠出と企業の投資がそれぞれ約3分の1を占める。2010年までの2年弱の期間に、すでに進められている150路線の鉄道建設、4路線以上の新幹線などのインフラ整備に加え、低所得者向けの住居建設、上下水道、道路、電力、灌漑などの農村インフラ、医療、教育、文化事業、下水処理、ごみ処理、水資汚染処理など環境インフラ、付加価値税の改革による企業減税(1200億元)措置などを実施する。
駅に泊まる農民工の現状
 中国農業部の孫政才部長は「2009年の農民工の雇用状況はさらに厳しくなる」とし、4%の失業率が悪化することで社会不安が拡大することを懸念し、農村に戻った農民工が起業しやすいよう税の減免、融資、補助金の制度の導入など農民工への支援を何よりも早急に行おうとしている。しかし、上海駅や蘇州駅の周辺には、帰郷の金もない農民工が、寝泊りを余儀なくされている。すでに出稼ぎ労働者の780万人が帰郷した。全国の「農民工」1割近くの人数である。
―日本より厳しい中国の就職難―
 大学生の就職率も日本よりも厳しい。経済成長とともに中国教育部によれば、2008年の中国の大学卒業者数は559万人で過去最多になった。ところが、大学を卒業してもなおさら仕事がない。中国の全体の失業率4%に対して、大卒者はその3倍の12%が失業状態である。現在大卒者の約150万人に職がない。2009年卒業見込学生においては就職どころか現在のアルバイトでさえもリストラされるといった悲惨な状況が続いている。
 GDP成長率が約9%維持したと仮定しても今後800万人以上が失業し、中国から、海外への輸出率が1%減少すれば、20万人の求職者に影響を及ぼすことが予測されている。
 広東省深セン市では、2008年はすでに682社が倒産や営業中止に追い込まれ5万人が失業した。3600社の中国大陸側珠江デルタ地域の経営環境の調査では、「08年から実施された新労働契約法より2割以上の人件費の高騰」「人民元の上昇」「加工貿易制度の見直し」「水・電力不足」「原材料価格高騰」により3割が深刻な今後の業績悪化を懸念して入る。
それでも中国の金融産業は米国の金融危機の影響は数%しか受けていない。中国の金融の強さは世界の代表になりうる存在でもある。政策の即効性が出ない内需型経済成長を
金融産業が促進することを期待したい。
かしわぎりか
豪州ボンド大学院経営学(MBA)修士取得、キャセイパシフィック航空勤務時は香港在住、94年北京首都師範大学留学。07年嘉悦大学短期大学部准教授、著書に「柏木理佳の中国残業『宝』地図」(ナツメ社)「中国雑学『団』」(マガジンハウス社)など多数。