「中国人の留学生は本当によく勉強していて、成績も良い」という評判を耳にしたことはありませんか。実際、大学で生徒たちと触れ合っていると、本当にそう思うことが多々あります。彼らに共通して見られる傾向としては、集中力の高さが挙げられます。これは中国人ビジネスパーソンでも同じではないでしょうか。
 以前、テレビドラマの「OLにっぽん」や「上海タイフーン」などで、とても優秀な中国人ビジネスパーソンが印象的に描かれていましたが、事実、中国人ビジネスパーソンの能力は高く評価されています。
 上海にある日系企業にいくつか取材したところ、多くの人が「契約書やメールのやり取り、ビジネス文書の作成などは現地の人の方が早い」と言い、技術者についても、「新卒で比較しても中国人のIT技術者は大変優秀だ」と話していました。
 1995年、私が北京に留学していた頃は、国の政策に諦めの感情を抱く人が多く、やる気のないビジネスパーソンばかりが目立ちましたが、今はほとんどの企業で多くのデキるビジネスパーソンと出会います。
 もちろんすべての人がそうではありませんが、最近ではデキる中国人ビジネスパーソンと触れ合うたびに、どうすればそこまで仕事に没頭できるのかと感心します。仕事に対する集中力、モチベーションが非常に高いのです。
 例えば、上海で大手不動産企業を訪問した時は、若い女性社員の対応に感心しました。日本から電話で社長とのアポイントを取ったところ、5分後には「confirmation letter」(アポイントを再確認するための手紙)と案内所がFAXで到着。さらに当日は、私が到着する前から会社の受け付けで待っていてくれました。
 彼女は、コーヒーを入れたり、オフィスを案内したり、資料を準備するといった雑用だけでなく、取材が始まると横で通訳をしながらパソコンで議事録まで取っていました。私もウイスパー通訳(一人の特定の人について耳元で通訳する)をしたことがありますが、頭の中で語学を入れ替えるのに精一杯でとても議事録まで手がまわりませんでした。
 彼女は20代の若手社員。まだ若いのに大変な仕事をテキパキこなしている姿がとても印象に残りました。
 彼女は、「今できることは、すぐに行動に移す。先送りしない」ということを徹底していました。「帰宅まであと○時間しかない」「訪問日まであと○日しかない」というように締め切り時間を意識して、限られた時間を有効に活用していたのです。
 日本人でも時間を有効に活用する優秀なビジネスパーソンがいますが、私はこれまでの経験から、「限られた時間の中で、高い集中力で仕事をこなす」という点においては、日本人より中国人の方が優れていると思っています。
 では、なぜ中国人ビジネスパーソンは、高い集中力を保てるのでしょうか。それには、いくつか理由が考えられます。
 まず、中国人は基本的に残業をしません。就業時間内に仕事をすべて終わらせようとします。夜に仕事をやろうとしても、終電は日本ほど遅くまでありませんし、24時間開いているコンビニもまだ少数です。このため、自然と就業時間内に仕事をやるクセがついています。
 加えて、中国では車やタクシーなどによる移動時間が日本に比べて、予定できない、予想がつけられない傾向にあります。よく渋滞にはまるからです。ですから、移動に車やタクシーを使った場合、その後の予定が読めなくなります。このようなインフラ事情からも、「今やれることをやっておかないと」という、“先送りしない”心理が働きます。
 また、中国人は幼少から限られた時間の中で必死に勉強することに慣れています。貧富の差が激しい中国では、小学生時代から自分が将来勝ち組になるために、学校で必死に勉強します。「勉強ができない=負け組みに入る」という意識が強くあるからです。
 特に地方出身者は、経済成長の荒波の中、学歴が自分の人生を大きく左右します。学歴がないために貧しい暮らしを余儀なくされる親の世代を間近で見ているので、必死に勉強して格差社会を勝ち抜こうとします。
 例えば、全寮制が多い中国の大学では、2段ベットを3、4台置いて6人から8人で寮生活をするのですが、10時には消灯してしまうため、勉強も夜遅くまですることができません。大学での授業や帰宅してからのわずかな時間で集中して勉強するしかないのです。
 学生の頃から集中して勉強してきた中国人は、社会に出てからも高い集中力を発揮して仕事をこなします。もちろん、すべての中国人に当てはまる話というわけではありませんが、限られた時間の中で、高い集中力で仕事をこなすことに対しては、日本人より中国人の方が上手でしょう。
 私も時間を有効に活用しているつもりではありますが、中国人ビジネスパーソンと比較すると切羽詰った限りある時間への認識が不足しているかもしれません。