百楽6月号

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柏木理佳の熟年世代・資産形成セミナー連載第3

 

 

 

 

60歳からの「生命保険との賢いつき合い方」

 

 

 

 

 

 

 

○新しく保険に入るより、まずはいまの保険を見直すこと

 ○年齢とともに保険の目的も変わる

 ○解約して保障をなくすより立替え制度などを利用

 

 

 

 

定年を迎える60歳前後から、加入している生命保険を見直す人が増えています。保険加入率が9割を超える保険大国の日本ですが、実際に加入している保険の内容をしっかり把握している人は少ないようです。また、年齢とともに求める保険はかわります。いま加入している保険を見直し、どのように賢く付き合えばいいのでしょうか。今回は、財団法人生命保険文化センターの岩口和洋さんにお聞きしました。

 

<新しく保険に入るより、まずはいまの保険を見直すこと>

60歳定年は一種の人生の節目です。ライフサイクル設計にも転換が必要となる時期ですね。生命保険に関しても、60歳代の多くは若いころの結婚を機会に保険に加入していたけれど、定年を機会に保険を含めた資産を整理しようとする人も多いようですね。

岩口 たしかに生命保険の見直しにはいい時期ですね。ですが60歳なら新しい生命保険に加入することよりも、いま加入している保険を活用することを検討してみてはいかがでしょうか。

 というのは、これから新しく生命保険に加入するとなると、「健康上の告知」により、過去に病気を発症したケースなどでは、加入するのは難しくなることも考えられるからです。

 健康状態を問わずに申し込みができる「無選択型生命保険」や「限定告知型生命保険」などもあります。ただし一般の生命保険と仕組みなど相違する点もあるため、契約内容などの確認が必要です。

―まずは、加入している保険を見直すのが得策なのですね。

 保険は基礎となる主契約と特約で構成されています。たとえば一般的な保障である「定期保険特約終身保険」で死亡保障5000万円の例で考えると、主契約は300万円の終身保険、そして4700万円の定期保険特約でなりたっています。60歳までは主契約と特約あわせて5000万円の死亡保障が準備でき、世帯主が死亡したときの所得の喪失や子供の教育資金、家族生活費が準備できます。60歳以降は主契約の保険料払い込み満了にあわせ、300万円の死亡保障が残ります。子供の独立する60歳前後で定期保険特約が終了する商品設計になっていることも多いのです。

 終身保険は一生涯なのですから、それを葬儀費用などに活用できるようにそのまま継続したり、60歳の払込満了時に医療関係特約を継続することもできます。そうすれば80歳まで、あるいは終身の医療保障が準備でき、継続なので健康上の告知なども必要ありません。もちろん、この特約分に対する保険料がかかりますが、いざというときの備えとしては有効ではないでしょうか。

 

<年齢とともに保障の目的も変わる>

―しかし定年後は収入が大きく目減りしますよね。保険料も大きな負担になりますね。

 団塊世代の多くは前述の「定期保険特約付終身保険」に加入しています。60歳前後で定期保険特約も終了し、終身保険部分の保険料の払い込みも終了するため負担は大きく減ると万一の時に大丈夫かと思われるでしょうが、だからといって保障を追加する必要はあまりないと思います。

と、いうのは、ライフサイクルが変化しているからです。子供が独立し、また住宅ローンも返済済みの方がほとんどだと思いますので、これからは自分の老後の生活を中心に考えればいいのではないでしょうか。

―つまり、遺族のための「死亡保障」は心配しなくてよくなるというわけですね。

そこで「死亡保障額」を減らすのも手段の一つになります。

定期保険特約の満了なども影響していますが、世帯主の普通死亡保険金額は4044歳では2581万円なのに、6064歳ですと1379万円と、半分程度に減っています(平成21年度生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」)。

―昔は「子どもにで多くの遺産を残したい」という親が多かったですが、子どもより自分の生活のことを優先して、この分を介護保障などにまわすといいのですね。

 50代以降、「介護保障」の需要が増えています。入院のリスクも無視できませんが、それと同様に年齢に応じて介護のリスクも高くなります。いまは子どもが親の面倒を見てくれることも昔ほど多くないですし、老人ホームに入るにも高額な費用がかかります。自分の介護をどうしようか、真剣に考える方が増えているので50代から「介護保障」のニーズが増えているのではないでしょうか。

50代から「医療保障」のニーズも減少していますね。府に落ちない気もします。

たしかに高齢になると病気のリスクも増え、通院や入院の可能性も増大します。しかしいまの日本の公的医療保険制度には手厚い保障があり、医療費が3割負担だった方も高額所得者でない限り70歳から1割負担ですみます。

「高額療養費制度」もあります。毎月の医療費がある一定以上になると、その部分を還付してくれる制度です。公的医療保険制度では、8万円程度を基準として、基準以下の自己負担割合を3割、それを超えた部分の自己負担割合を1%としているので、基準を超えた部分を3割負担したのであれば、その支払った部分は戻ってきます。この結果、医療保障は一定程度でいいと考える人が増え、介護保障に興味をしめす人が増えているのではないでしょうか。

 とはいえ、入院には医療費の他にさまざまな雑費がかかりますから、一定の医療保障を準備しておくほうがいいでしょう。

―確かに、最近は、保険よりも貯金と考えている人も増えてきていますね。でも私自身は。高齢になって病気になるのはとても不安なので、「先進医療特約」だけは必要かなと思っています。これは公的医療でもはカバーできませんね。

60代では死因の原因の5割近くが癌です。心疾患が12%、脳血管疾患が9%、肺炎は4%となっています。80代になると癌は25%に減りますが、心疾患が18%、脳血管疾患が13%で、さらに肺炎が13%となっています。

先進医療は現在多くの保険会社の商品があります。選び方のポイントは、「総額いくらの保障が必要なのか?」です。たとえば1000万円なのか、300万円で充分と考えるのかの選択です。とはいえ、先進医療は保険料が割安なので、ある程度の保障金額をつけてもよいでしょう。先進医療では公的医療の高額医療費制度が適用されません。一般的には公的医療保険制度の範囲内で手術が行われるため、先進医療を受ける例は多くありませんが。受けた場合の出費は大きいので、それに備えて、先進医療特約を付加することもひとつの選択だと思います。

―医師によって、たとえば「余命半年」などと判断された場合、死亡保険金を早めにもらえる「リビングニーズ」もありますね。

ご自分がいま契約している保険に、それに付加しているかどうか、調べてみることをオススメします。通常「余命6ヶ月以内」と診断された場合に請求した保険金額から6ヶ月分の保険料と利息を差し引いた金額が受け取れます。早めに保険が受け取れれば精神的にも安定するし、最後まで人間らしく生きる手助けになるのではないでしょうか。癌保険でも、一度しか保障支払いの対象にならないものもあれば、再発した場合は何度でも支払われる商品もあります。

これからは自分で保険会社に問い合わせ、複数のプランから決定することが重要だと思います。60歳なら平均寿命で考えても20年以上の人生が残っています。20年間にどんな保障が必要なのか、自分で考え、しっかりと選ぶことが大切です。

 

<解約して保障をなくすより立て替え制度などを利用>

―ところで、このところの経済低迷により、保険料の払い込みが困難になって、見直しをする人が増えているようですね。「解約払戻金」の額は払い込み金額の5-7割だそうで、なんとなく損した気がしますが。

生命保険は決められた期間の保障をかっているため、解約返済金が少ない、またはまったくない場合もあります。解約ではなく、今までの保険を見直す方法もあります。保険料の払い込みを終えた終身保険などでは、その一部又は全部を使って介護保険や年金保険に移行できる場合があります。また、「アカウント型」と呼ばれる生命保険の場合、すでに支払ってある積立金を保障部分の保険料として充当して、保険料負担を減らすことができます。

―保険料の払い込みが免除になる仕組みがあると聞きましたが。

 主に3大疾病(がん・急性心筋梗塞・脳卒中)、身体障害状態・要介護状など一定の状態になったときには、保険料の払い込みが免除させる特約(保険料払込免除特約)があります。

―保険料払い込みが遅れた場合、契約はどうなるのですか?

 払い込みがされないと生命保険は失効します。失効すると保障はなくなりますが、復活もできます。ただし、未払い保険料を支払うことと健康上の告知が必要になりますので、復活できない場合もあります。

保険料を払い方に応じて、「払込猶予期間」が設定されており、払い込みが遅れても猶予期間に払い込めば契約は継続されます。また、その期間が過ぎてしまっても、解約返戻金の範囲内で、保険料を自動的に保険会社が立て替える自動振替貸付があります。ただし立て替えた元利金が解約返戻金を上回った場合や、解約返戻金が少ない商品は自動振替貸付が適用できず失効します。

―これなら解約するよりも得策ですね。資金繰りに困ったら貸し付けも受けられると聞きましたが。

 それまでに払い込んだ金額に応じて、貸し付けを受けることができます。解約返戻金のうち、一定割合までなら借りることができ、利率は3%6%前後です。余裕が出来たら早めに返済するのがよいでしょう。

 

 

<まだ契約期間が残っているが、保障内容を変更したい場合>

     追加契約・・・新しい保険を契約、新たな保障を準備すること。

     特約の中途付加・・・現在の契約に保障内容の特約を加える。生命保険会社や商品によって制限される場合や告知が必要となることも

     転換制度・・・現在の生命保険を見直し、積み立ててきた分や配当金などを新契約の一部にあてる方法。補償内容が大きく変化するので、必ずよく確認したうえで契約すること。告知が必要。

     保険金の増減・・・死亡保険金額や入院給付金日額などを増額または減額すること。生命保険会社によって基準が異なるので確認を。増額の場合は告知が必要。

     特約の解約・・・付加している特約だけ解約する方法。複数の特約を付加している場合は他の特約も同時に解約しなければならない場合も。

     払済保険への変更・・・保険料の払い込みを中止し、その時点での解約返戻金をもとに保険期間をそのままにした保障額の少ない保険(同じ種類または養老保険)に変更する方法。