ファンケル健康院出版 「百楽」4月号(4月1日発行)
生活経済ジャーナリスト柏木理佳の熟年資産防衛セミナー 連載第13回
60歳、「第二ステージ」の賢い生命保険との付き合い方
熟年世代の医療費が増えています。高齢になれば病気になる確率も増え、70歳以上は一人当たり年間88万円以上も払っているという統計もあります。そんなときに頼りになるのが生命保険などの入院給付金。しかし保険に関しては、いままでと同じ感覚でいて、必要以上の生命保険を払い続けている人もいます。実は生命保険は、住宅以上に高額な買い物。60歳退職という人生の第二ステージを迎え、正しい生保の選び方を、ファイナンシャル・プランナーの藤川太さんにうかがいました。
入院・医療費に備えよ、年間80万円以上の場合もある
柏木 厚生労働省の統計で平成21年度の医療費を見ると、70歳未満は1人当たり16・8万円なのに対し、70歳以上は平均77・6万円、75歳以上になると88・2万円も払っています。「高額医療費制度」で還付されるとはいえ、食費、差額ベッド代、高度先進医療などは含まれません。しかも病気が長引けばその他の出費も増えてきます。どこまで準備すればいいのでしょうか?
藤川 まず、60歳前後は生命保険の見直しの時期だということを頭に入れておいてください。ライフプランにおいて、生命保険加入や見直しの時期は「結婚」「子どもの誕生」「家の購入」そして「退職時」です。しかし「退職時」の見直しは、これまでの見直しとは違います。退職後は今後、収入が見込めない時期です。いま持っている資産を、どう効率的に配分するかですね。 生命保険も、この考え方に立って考え直すこと。これまでは「家族のため」を優先しましたが、もう子供も自立しているはずなので、これからは「自分のため」を考える。多額の死亡保険より、自分が病気になったときのことを考え、医療保険の保障を手厚くする必要があります。だからといって新たな保険に加入したり、見直して補償額を増やすと、保険料が高くなるので、わざわざ新しい保険に入り直すのはすすめません。保険に入るかわりに、退職金などがあれば、それを医療費のために「貯金」すればいいのです。
柏木 高齢での新加入はお得ではないということですね。
藤川 心配なら、将来の医療費分として家計口座とは別の預金口座をつくり、貯金しておくといいですよ。
最大のポイントは、入院保険の考え方
柏木 「自分のため」ということになると、まず「入院給付金」ですね。「日額1万円」「最大60日」などと、各保険会社でセールスポイントが異なるようですが……。
藤川 たとえば、「入院費日額1万円の保障」とうたう商品は、一見、お得のように見えますが、おおむね、総額保険料は210万円から220万円になります。これは、60日の入院を3回繰り返してやっと元がとれる計算になります。一方で、「1日入院から、最大60日まで入院保障」「繰り返し何度でも」を売り物にする保険もありますが、いまの医療の現状を考えると、実際に60日間もの入院は不可能です。政府の医療費削減政策を受け、病院も30日以上の長期入院はさせない傾向にあるからです。がん患者でもさえ、長期入院ができずに通院治療する人が増えています。また、「何度でも」とうたっていても、実際には60日の入院後、180日の間をあけなければ、次の入院では適応されないなどの制約が多いのが事実です。やはり、「高額な保険料を払うなら別口座に貯金」ということです。貯金がある人ほど、「もっと保障を」と考えて保険に入りたがりますが、実際には貯金がある人には入る必要はないのです。保険は、実はお金のない人ほどおすすめなのです。本来、保険とは貯金が当てにできないときこそ役立つものだからです。たとえば2000万円ほどの貯金があれば保険にあえて入らなくても、十分、医療費はまかなえます。ですが、退職金が入ると気持ちが大きくなり、生命保険会社にすすめられるまま、「不安だから」と加入してしまう。これが間違いです。
介護医療生命保険は本当に必要なの?
柏木 一方で、介護医療生命保険に加入する人が増えていますね。支払保険料が年間10万円超えた場合、一般の生命保険料控除、個人年金生命保険料控除がそれぞれ所得金額から5万円控除されることになっていましたが4万円に減りました。代わりに、介護医療保険料控除」が設けられ平成24年度以降に締結した介護医療生命保険料4万円の所得控除が追加されることになったからでしょうか。
藤川 生命保険各社が盛んにPRしていますが、あまりおすすめできないですね。仮に60歳の方が80歳まで生きるとしたら、20年間で総額100万円から300万円の保険料を払わなければなりません。ほとんどが掛け捨て型なので、介護が必要なければ無駄になります。それなら、この分を貯蓄に回すほうがよい。退職金が2000万円あるなら、この分の200から300万円を「介護費用」と割り切って別口座に移しておくことをすすめます。
柏木 確かに、生命保険会社の介護医療生命保険商品は「要介護認定」を受けたときにしか受け取れないものばかりですね。国の介護保険制度はいま「要支援」から「要介護5」までに分類されていますが、現状では、なかなか「要介護認定」がされにくいという話も聞きますしね。
藤川 以前の介護保険は要介護度4や5相当の重度でなければ支払われないものばかりでしたが、最近は要介護2や3など比較的軽い状態でも保険金が出るものが増えています。ただ、1〜などの要介護度の低い状態で支給される保険は、その分、保険料が高くなる傾向になります。ですから、あまり保険に期待せず、給付と保険料のバランスのよい保険を選ぶことが大切です。おすすめとしては、掛け捨てで安いアフラックの「介護マスター」か、貯蓄性が高いソニー生命の「介護保険」でしょうか。
生命保険、本当に必要なのはがん保険
柏木 すると、生命保険はまったく必要ないということですか?
藤川 がん保険は必要かもしれない。社会保険や国民保険の診療ではカバーできない部分が多いからです。がんという病気は「家族が借金してでも助けよう」と一生懸命になる病気でもありますし、“治そう”とすれば、いくらでもお金がかかる。
柏木 がん保険にもいろいろなタイプがありますが、選択する場合に大事なポイントは何ですか?
藤川 がん保険が大事だとはいえ、60歳からの新規加入となると、保険料は高くなります。生活習慣病や一般の病気を含まない、がんだけに適用される保険でも、保険料は毎月1万円近いのです。ポイントになるのは「診断一時金」ですね。がんと診断されたときに一時金をもらえるシステムになっているかどうか。商品によりますが、だいたい50万円から100万円を一括で払ってくれます。ですが、これも「一度限り」のものもあれば、1度目と2度目以降では支給条件の異なる保険もあります。診断一時金は、①上皮内ガンでも出るか。出るとしたら他のガンと同じ金額か、②複数回支給されるか。支給されるとしたら2回目以降の条件は何か、③保険料はいくらか、という3点をチェックしてください。ユニークなのは富士生命の「がんベスト・ゴールド」です。がん診断一時金が主契約という点が新しい。
柏木 がんの場合、再発を考えておかなければいけないと思いますが、再発に適用する商品を選ばなくてもいいですか?
藤川 まずは診断一時金のある商品を選ぶことですが、余裕があれば、再発にも適用している保険を選ぶとよいでしょうね。しかし2年以上あけなければ適用されないなど、条件が厳しい商品も多いので、きちんと調べることですね。
柏木 20年後にその会社が存続しているか、「ソルベンシーマージン」をチェックするのも大事ですね。 では、高齢者でも過去の病歴がある人でも入れる保険もありますが、そういう商品はどうでしょうか?
藤川 「通販型」ですね。ほとんどの場合、毎月のかけ金が高いか、保障が薄いかのどちらかです。しかも、「問診表」の提出が義務づけられていますが、告知のチェック項目審査が厳しいのが現状です。実際は3割ほど落とされているそうです。落とされてショックを受け、問い合わせると、「お客様にぴったりの商品があります」とすすめられるのが無選択型。そんな手口に乗せられて加入するのは愚の骨頂です。そんな中でもオリックスの「CUREキュア」という商品は掛け金が安いわりに補償内容がよく、注目です。
柏木 最近、生命保険では「先進医療」をうたう商品が多いですが、先進医療がついていない保険に加入している場合は、加入し直すしかないのですか?
藤川 「先進医療」分の保険料は安価ですが、いまの生命保険に先進医療がついていないからといって、そのためにわざわざ加入し直すことはありません。現在、厚生労働省が認可した「先進医療」の基準になる治療は88種類ですが、「厚労省が認めた病院」で、「認められた診療」でなければ対象になりません。案外にハードルが高いので、実際の利用額は全国で65億円ほど。したがって、あまり先進医療にこだわる必要はないかと思います。
生活経済ジャーナリスト柏木理佳の熟年資産防衛セミナー 連載第13回
60歳、「第二ステージ」の賢い生命保険との付き合い方
熟年世代の医療費が増えています。高齢になれば病気になる確率も増え、70歳以上は一人当たり年間88万円以上も払っているという統計もあります。そんなときに頼りになるのが生命保険などの入院給付金。しかし保険に関しては、いままでと同じ感覚でいて、必要以上の生命保険を払い続けている人もいます。実は生命保険は、住宅以上に高額な買い物。60歳退職という人生の第二ステージを迎え、正しい生保の選び方を、ファイナンシャル・プランナーの藤川太さんにうかがいました。
入院・医療費に備えよ、年間80万円以上の場合もある
柏木 厚生労働省の統計で平成21年度の医療費を見ると、70歳未満は1人当たり16・8万円なのに対し、70歳以上は平均77・6万円、75歳以上になると88・2万円も払っています。「高額医療費制度」で還付されるとはいえ、食費、差額ベッド代、高度先進医療などは含まれません。しかも病気が長引けばその他の出費も増えてきます。どこまで準備すればいいのでしょうか?
藤川 まず、60歳前後は生命保険の見直しの時期だということを頭に入れておいてください。ライフプランにおいて、生命保険加入や見直しの時期は「結婚」「子どもの誕生」「家の購入」そして「退職時」です。しかし「退職時」の見直しは、これまでの見直しとは違います。退職後は今後、収入が見込めない時期です。いま持っている資産を、どう効率的に配分するかですね。 生命保険も、この考え方に立って考え直すこと。これまでは「家族のため」を優先しましたが、もう子供も自立しているはずなので、これからは「自分のため」を考える。多額の死亡保険より、自分が病気になったときのことを考え、医療保険の保障を手厚くする必要があります。だからといって新たな保険に加入したり、見直して補償額を増やすと、保険料が高くなるので、わざわざ新しい保険に入り直すのはすすめません。保険に入るかわりに、退職金などがあれば、それを医療費のために「貯金」すればいいのです。
柏木 高齢での新加入はお得ではないということですね。
藤川 心配なら、将来の医療費分として家計口座とは別の預金口座をつくり、貯金しておくといいですよ。
最大のポイントは、入院保険の考え方
柏木 「自分のため」ということになると、まず「入院給付金」ですね。「日額1万円」「最大60日」などと、各保険会社でセールスポイントが異なるようですが……。
藤川 たとえば、「入院費日額1万円の保障」とうたう商品は、一見、お得のように見えますが、おおむね、総額保険料は210万円から220万円になります。これは、60日の入院を3回繰り返してやっと元がとれる計算になります。一方で、「1日入院から、最大60日まで入院保障」「繰り返し何度でも」を売り物にする保険もありますが、いまの医療の現状を考えると、実際に60日間もの入院は不可能です。政府の医療費削減政策を受け、病院も30日以上の長期入院はさせない傾向にあるからです。がん患者でもさえ、長期入院ができずに通院治療する人が増えています。また、「何度でも」とうたっていても、実際には60日の入院後、180日の間をあけなければ、次の入院では適応されないなどの制約が多いのが事実です。やはり、「高額な保険料を払うなら別口座に貯金」ということです。貯金がある人ほど、「もっと保障を」と考えて保険に入りたがりますが、実際には貯金がある人には入る必要はないのです。保険は、実はお金のない人ほどおすすめなのです。本来、保険とは貯金が当てにできないときこそ役立つものだからです。たとえば2000万円ほどの貯金があれば保険にあえて入らなくても、十分、医療費はまかなえます。ですが、退職金が入ると気持ちが大きくなり、生命保険会社にすすめられるまま、「不安だから」と加入してしまう。これが間違いです。
介護医療生命保険は本当に必要なの?
柏木 一方で、介護医療生命保険に加入する人が増えていますね。支払保険料が年間10万円超えた場合、一般の生命保険料控除、個人年金生命保険料控除がそれぞれ所得金額から5万円控除されることになっていましたが4万円に減りました。代わりに、介護医療保険料控除」が設けられ平成24年度以降に締結した介護医療生命保険料4万円の所得控除が追加されることになったからでしょうか。
藤川 生命保険各社が盛んにPRしていますが、あまりおすすめできないですね。仮に60歳の方が80歳まで生きるとしたら、20年間で総額100万円から300万円の保険料を払わなければなりません。ほとんどが掛け捨て型なので、介護が必要なければ無駄になります。それなら、この分を貯蓄に回すほうがよい。退職金が2000万円あるなら、この分の200から300万円を「介護費用」と割り切って別口座に移しておくことをすすめます。
柏木 確かに、生命保険会社の介護医療生命保険商品は「要介護認定」を受けたときにしか受け取れないものばかりですね。国の介護保険制度はいま「要支援」から「要介護5」までに分類されていますが、現状では、なかなか「要介護認定」がされにくいという話も聞きますしね。
藤川 以前の介護保険は要介護度4や5相当の重度でなければ支払われないものばかりでしたが、最近は要介護2や3など比較的軽い状態でも保険金が出るものが増えています。ただ、1〜などの要介護度の低い状態で支給される保険は、その分、保険料が高くなる傾向になります。ですから、あまり保険に期待せず、給付と保険料のバランスのよい保険を選ぶことが大切です。おすすめとしては、掛け捨てで安いアフラックの「介護マスター」か、貯蓄性が高いソニー生命の「介護保険」でしょうか。
生命保険、本当に必要なのはがん保険
柏木 すると、生命保険はまったく必要ないということですか?
藤川 がん保険は必要かもしれない。社会保険や国民保険の診療ではカバーできない部分が多いからです。がんという病気は「家族が借金してでも助けよう」と一生懸命になる病気でもありますし、“治そう”とすれば、いくらでもお金がかかる。
柏木 がん保険にもいろいろなタイプがありますが、選択する場合に大事なポイントは何ですか?
藤川 がん保険が大事だとはいえ、60歳からの新規加入となると、保険料は高くなります。生活習慣病や一般の病気を含まない、がんだけに適用される保険でも、保険料は毎月1万円近いのです。ポイントになるのは「診断一時金」ですね。がんと診断されたときに一時金をもらえるシステムになっているかどうか。商品によりますが、だいたい50万円から100万円を一括で払ってくれます。ですが、これも「一度限り」のものもあれば、1度目と2度目以降では支給条件の異なる保険もあります。診断一時金は、①上皮内ガンでも出るか。出るとしたら他のガンと同じ金額か、②複数回支給されるか。支給されるとしたら2回目以降の条件は何か、③保険料はいくらか、という3点をチェックしてください。ユニークなのは富士生命の「がんベスト・ゴールド」です。がん診断一時金が主契約という点が新しい。
柏木 がんの場合、再発を考えておかなければいけないと思いますが、再発に適用する商品を選ばなくてもいいですか?
藤川 まずは診断一時金のある商品を選ぶことですが、余裕があれば、再発にも適用している保険を選ぶとよいでしょうね。しかし2年以上あけなければ適用されないなど、条件が厳しい商品も多いので、きちんと調べることですね。
柏木 20年後にその会社が存続しているか、「ソルベンシーマージン」をチェックするのも大事ですね。 では、高齢者でも過去の病歴がある人でも入れる保険もありますが、そういう商品はどうでしょうか?
藤川 「通販型」ですね。ほとんどの場合、毎月のかけ金が高いか、保障が薄いかのどちらかです。しかも、「問診表」の提出が義務づけられていますが、告知のチェック項目審査が厳しいのが現状です。実際は3割ほど落とされているそうです。落とされてショックを受け、問い合わせると、「お客様にぴったりの商品があります」とすすめられるのが無選択型。そんな手口に乗せられて加入するのは愚の骨頂です。そんな中でもオリックスの「CUREキュア」という商品は掛け金が安いわりに補償内容がよく、注目です。
柏木 最近、生命保険では「先進医療」をうたう商品が多いですが、先進医療がついていない保険に加入している場合は、加入し直すしかないのですか?
藤川 「先進医療」分の保険料は安価ですが、いまの生命保険に先進医療がついていないからといって、そのためにわざわざ加入し直すことはありません。現在、厚生労働省が認可した「先進医療」の基準になる治療は88種類ですが、「厚労省が認めた病院」で、「認められた診療」でなければ対象になりません。案外にハードルが高いので、実際の利用額は全国で65億円ほど。したがって、あまり先進医療にこだわる必要はないかと思います。