ファンケル出版 百楽 2012年2月号
連載第23回
生活経済ジャーナリスト
柏木理佳の熟年世代の「マネー」講座
失敗しない
リフォームの法則
定年後、子供たちも巣立って夫婦二人だけの“老後”が始まります。そこで退職金などをもとに、建替えやリフォームなど「住まいの見直し」をする人が多いようです。しかし、自分たちのライフプランをよく吟味しないまま、リフォーム業者のいいなりで不必要で無駄なリフォームの落とし穴にはまる人も見かけます。そこで「上手なリフォーム」「失敗しないリフォーム」の秘訣を、ネクスト・アイズ社長の小野信一さんにお聞きしました。
「何のためにリフォームするのか?」を、まず考える!
柏木 定年を迎える60歳代になると、それぞれの今後のライフスタイルに合わせて「住み家」を見直す人が多いようですね。子供たちが巣立って夫婦2人だけの生活になり、部屋が空いたから間取りを変更しようか、一部を家賃収入にしようか、都心に引越そうかなど……あれこれ迷うと思います。
小野 たしかに、退職金や貯金をリフォーム資金に充てようとする方は多いですね。でもこれは、あくまで老後の生活費以外の資金が潤沢な人でないとおすすめできません。定年後の年金などの収入は一定です。その額は夫婦で平均24万円ほど。一方、生活費は東京で毎月平均34万円ほど。この段階ですでに毎月10万円不足します。平均寿命は男性79歳、女性86歳ですから、例えば残り25年生きると考えたら毎月10万円×12か月×25年で3000万円が60歳時には必要になるのです。ですから、まずこの3000万円をストックしておくこと。建替えやリフォームを考える際には、これにプラス、どれだけの資金があるかを念頭に置いてください。
柏木 3000万円以上とは結構な金額です。するとリフォームの内容を、よりいっそう、慎重に吟味していく必要がありますね。
小野 リフォームに失敗しない秘訣は3つ。一番目は自身のセカンドライフをどう生きていくか? 漠然と考えるだけでなく、「これから20年先の目標、希望は何か?」「配偶者に先立たれた場合はどうする?」「余暇の過ごし方は?」「健康かどうか?」「どこに住みたいのか?」などです。それをベースにして「流動性の資金(預貯金)はいくら?」「医療保障は万全か?」「相続・贈与は?」など、お金に関する問題を整理していくのです。
柏木 なんとなく将来設計を考えているつもりでも、実際には家族で考えているイメージが違うこともあるでしょうしね。
小野 2番目は「何のためにリフォームするのか」。目的を明確にすることです。例えば、古くなった家をメンテナンスするのか? 子供が出て行ったから間取りを変更するのか? 老後に備えたバリヤフリーを優先するか、などです。細かく分けると、「メンテナンスリフォーム(外壁塗装、鉄部塗装、防水など)」「原状回復リフォーム(クロス、フローリングのはりかえなど)」「機能回復リフォーム(給油器・空調機会の取替えなど)」「リニューアルリフォーム(屋根、水周りなど)」「構造・補強リフォーム、ライフプランリフォーム(間取り変更など)があります。柏木 よく、最初は間取りを変えるだけのつもりだったのが、気がついたらあれこれ余計なものまで追加してしまう例も多いようですね。
小野 間取りの変更といっても、特に戸建てのリフォームは注意が必要です。構造を無視した増改築や間取りの変更の場合は耐震・耐久性を落とすことにもなりかねません。住んでいる人の安全性にもかかわるので注意しなければなりません。その他、マンションなら玄関のドアやベランダなどの「共有部分」に手を入れるには管理組合の許可が必要ですし、カーペットからフローリングに変える場合も管理規約を確認する必要があります。〇ページの【表1】のように、リフォームには細かな注意が必要です。
表1 
マンションリフォームの注意点
● カーペットからフローリングなどの禁止事項について玄関ドア、窓、ベランダ、構造躯体などの共有部分は特に注意して管理規約、使用細則を確認。
● マンション全体(共有部分)、近隣、上下階などへの配慮、許可が必要なこともある。
● 住みながらのリフォームは稀に工期を遅らすことになり、結果見積もり金額が上がることもある。
戸建てリフォームの注意点
● 耐震診断により構造を一番に考えること。
● 足場を組むような仮設工事が含まれる場合などは、効率よく一度にリフォームすることも必要。
● 建替えかリフォームか、住み替えるかも合わせて検討すること。
「簡単」「手ごろ」「割安」は
間違ったリフォームの考え方
柏木 たとえば、妻はバイヤフリーを優先して考えていてエレベーターをつけたいと主張し、夫は外壁を塗装し、浴室をリフォームしたいと主張した場合、何から選択すればいいのでしょうか?
小野 塗装は10年に1度が目安ですが、それ以前にいまのような時代は、まず構造面を優先して考えることでしょう。地震に強い構造になっているかどうかです。それは「昭和56年6月1日以降」に認可を受けたかどうかでわかります。しかし、「それ以降に建てられたから安全」「それ以前に建てられたから安全ではない」と考えるのは短絡的。施工不良などの場合もあるからで、耐震診断を受けるとよいでしょう。この場合、リフォーム業者など利害関係がある業者でなく、たとえば当社のような第三者機関に依頼するほうがよいと思います。
柏木 でも素人の悲しさで、専門業者に説得されると気弱になったりして、いいなりになりがちですね。
小野 そうですね。だからこそ、安心してまかせられる業者を選ぶこと。業者の選択が、失敗しない秘訣の3番目です。ところが、多くの人は最初に業者を選んで、その後にライフプランや目的を考えようとする。だから失敗するのです。業者からいったん見積もりをとったら、利用しないと悪いという気分になり、なんとなく断りにくい環境になる。でも、不安があれば、その段階ではっきり断ればよいのです。
柏木 最低限の予算ですませるつもりが、どんどん費用が重なって、莫大な金額になる例は多いですね。
小野 私が講演などでお伝えしているのが、「簡単」で「手ごろ」、「割安」という〝間違ったリフォーム〟の考え方をやめて欲しいということ。これが失敗の原因。新築工事はゼロの状態から行なうことができますが、リフォームは既存の素材がベースになります。それは、構造の状態などは、実際は壊して見なければわからないということです。そのため追加予算が必要となるケースもあります。既存の素材の撤去、処分にも費用がかかります。その結果、構造補強を含むリフォームなどでは、新築より割高になることもあります。それに、いまあるフレームを残して一部分をリフォームするよりも、一から建替えるほうがはるかに長く持ちます。こうした点を考慮して決めるべきなのです。
表2リフォームのポイント
「簡単」「手ごろ」「割安」はNO!!
● 構造補強を含むリフォームは新築工事より割高になることもある。
● 壊してみなければわからないので追加予算も準備する必要がある。
● 営業的な無料耐震診断は危険。
● 構造が絡むリフォームの場合、瑕疵保証か大手のリフォーム会社のほうが安心。
〝よい業者〟を
どうやって選ぶ?
柏木 なるほど、構造補強となると大規模になるのですね。では、業者を選ぶ場合、どんな点に注意したらよいのでしょうか? 
小野 リフォーム会社には工務店が鞍替えしたリフォーム専門店、新築もやっている地場の工務店、ハウスメーカー系のリフォーム店、TOTOやTOSTEM、INAXなどの建材メーカーが組織しているリフォーム会社がありますが、注意する点は〝リフォーム業者は行政への審査・検査が不要〟ということ。つまり、建設業の資格がいらないのです。そこで、自社では営業だけを行なって、実際の施工を別の業者に丸投げする会社もあります。また、すべての分野全般を得意とする業者もありません。例えばTOTOやINAXの代理店なら水周りを得意とし、塗装業者などなら壁を塗るのが得意なように、それぞれ得意・不得意があるのです。構造面を優先するなら、工務店などが安心です。
柏木 私もつい最近、床のリフォームをしたのですが、見積もりのとき、「前払いが原則」といわれました。
小野 前払いなどありえません。工事期間が1~2週間なら完成後に後払い。1か月後なら着工後に5割、完成後に5割が基本です。それに、工事が始まったら、必ず現場に定期的にチェックに行くことです。
柏木 でも、数社から見積もりを取り寄せても、わかりづらくて比較するのも大変ですよね?
小野 見積もりを比較する場合、「材料費」と「工事費」を分けて細かく出しているところを選ぶこと。たとえばフローリング材料のメーカー名や品番まできちんと記入しているところ。材料費はメーカー表示の定価の50%くらいが妥当価格。また現場経費や諸経費を明確に記載しているところを選ぶことです。
柏木 契約書などもよく検討する必要がありますね。
小野 約款から平面図、立面図、仕様書、工程表などを契約前に確認することです。でも一般の方はわかりにくいでしょうから、当社では全体をリフォームする場合、3社を選んで見積もりをとり比較、契約から現場のチェックまで行なっています。リフォームはセカンドライフを決定づけるほどの大事な選択ですから、失敗しない方法で慎重に決めることが大事です。