人間が苦手 技術者の苦労
 「『地元のハローワークにいったら3ヶ月から6ヶ月の間に仕事が決まらない人はずっと仕事にありつけないですよ。もっと違う職種でも探しませんか?』と、いわれた」
 3ヶ月前にIパソコンメーカーを退職したばかりの身長170センチ痩せ型の大塚健さん(52歳)が、重い口を開いた。
 「もっと簡単に仕事がみつかると思っていた。」
 ソフト開発に携わっていたのが30代、技術系の管理職になったのが40代後半、そして総合的なクライアント担当の管理職になったのが50代。いっけん華やかにみえるが本人には苦痛の連続。技術畑出身だから人間が好きではない、管理職なんて大の苦手だったという。
 「もう一度ソフト開発にかかわれる仕事がしたかった」
 早期退職として年収の1200万円+500万円をもらってやめた大塚さんは、ハローワークで仕事を探したもののうまくいかない。面接までこぎつけても採用してくれなかった。
 『ソフト関係は30代がいい、年齢敵に苦しいね』、と言われた。
 年収は半分になるけどパソコン修理工場での簡単な受付でもいいと妥協したが、結局、面接で落ちた、とうつむく。
 「管理職になるときに拒否しておけばよかった。若かったから肩書きと年収が150万円もアップして1000万円になることに溺れてしまった。向いてなかった。もっと早く気がつけばよかった」
 大塚さんは、30代の頃の自分を振り返る。
 が、もう遅い。
 「技術職への執着心が強いわけでない。人間が苦手だから営業など他の仕事ができないんだよ」
 通訳の仕事をしている奥さんは週末も出張で外出しているらしい。
 「工場で働いたらどうですか? それから徐々にメーカーの仕事でも探すのは?」
 そんな私のひと言にも、「だけど管理職の経験が長いのは逆にマイナスだって言われたから・・・」
 なんだかかわいそうになるくらいマジメな人。妻の収入がいくらか知らない。教えてくれないから知らないという。賃貸のマンションの家賃は12万円。
 家では部屋でパソコンばかり、奥さんだけでなく24歳の会社員の娘とも3日に1回しかしゃべらないという引きこもり。
 大塚さん小遣い
 大塚さんは、パソコン雑誌2冊と写真の雑誌を毎月購入している。
 「会社にいるときは経費で購入して会社で読んでいたけど、今は自分で買うようになった」
 デジカメだけでなく携帯の写メールを使って、気に入った看板や駅や電車などを撮影。パソコンに送信して画面を取り込んでいるそうだ。
 携帯電話は毎月、基本給のみを支払う。会社を辞めたら携帯電話にはほとんど電話もかかってこないそうだ。
 それでも写メールを使えるから電話の解約はしない。
 3万7000円の小遣いは毎月月末になると、奥さんがパソコンの机の上に封筒の中に入れて置いてあるのだそうだ。
 「仕事がなくてもまだ金額が変わらないからいいじゃないですか? ご苦労様って気持ちがあるってことでしょ?」
 そんな私の慰めにも「そんなこと一度も言われたことないけど、まあ、小遣いがあるだけいいか」と、やっと顔を上げた。
 まずは、家族や近所の人とのコミニュケーションから始めて人間を好きになることからみたらどうか?
 う~ん。無理だろうな。
パソコン&カメラ好きな大塚さんの小遣い帳

     
  月額 37,000
パソコン雑誌代 1,370
カメラ写真雑誌など 1,680
     
  衣料代 30,950
  喫茶代 3,000
  小計 37,000