私が中国で働いていた時、まず最初に学んだことが「謝らない」ということでした。日本人は上司に怒られたらすぐに「すみません」と謝る傾向があります。以前の私もそうでした。その方が礼儀正しく、好感度も上がると考えていました。
ところが中国で働いてからはその認識が変わりました。同じ職場の中国人女性(25歳)は、自分のミスで上司から怒られても最後まで謝罪しませんでした。その時、彼女は上司から頼まれた取引先とのアポイントメントをダブルブッキングしていました。上司は、「どうしてこんなことになったんだ!」とカンカンに怒っていました。
この場合、いかなる理由があってもまず最初に謝るのが日本人だと思います。けれども、彼女は反論しました。
「部長がこの日にアポイントをとってほしいと言ったんです。その日はスケジュールがタイトだったので、アポイントが重なりました。そうなったことをメールで部長に連絡しましたよね。メールを確認して私に指示しなかったのは部長ですよ」
こう言われてその部長は自分の非も認め、それ以上は彼女を責めることはありませんでした。
■ 解雇されないためにミスを認めない
この彼女の例は極端かもしれませんが、少しでも自分のミスがあれば謝るのが日本の常識ですが、中国では多少自分のミスがあっても、それを簡単には認めません。そういう事態が起きたのは、自分以外にも責任がある、むしろ自分には責任がないぐらいだ、という勢いで反論します。
これには、それなりの理由があります。
中国では、ミスを認めると全責任を取らされて会社を解雇される場合があります。解雇されるだけならまだしも、損害賠償を請求されることもあります。
日本では、何かミスをしても最後は上司や会社が守ってくれると考えがちですが、中国では上司や会社がなんとかしてくれるという甘い考えでは生き抜いていけません。
中国人は日本人に比べると、かなり仕事をシビアに考えています。このため、中国人は仕事をする時は、責任の所在を明確にします。また、「働く時間=金」と考えているので、何か問題があった場合は、その時間分の損害金額を考えることもあります。
こういった考えの違いがあるために、中国人ビジネスパーソンは簡単にミスを認めることはしません。そして、一つひとつの仕事のやり方にも、自分を守るための工夫を凝らしています。この時は特に、「責任を明確にする」と「時間を大事にする」ことを重視します。
■ 口約束はせず、しつこいほどメール
中国ではビジネスの世界において口約束はまず信用しません。すべてメールや文書できちんと証拠を残します。会社間の取り引きだけでなく、上司から依頼される細かい仕事でも考え方は同じです。何か問題が起きた時は、その証拠をもとに自分に責任がない、相手の方がさらに責任があると認めさせなければなりません。証拠があれば、「言った言わない」の水掛け論にはなることはありません。
例えば、「○○社にアポイントを入れてくれ」と上司に電話、または口頭で頼まれたとします。この場合、先方の会社にアポを入れる前に上司にメールで「16日に○○会社と当社会議室でアポイントを入れますが、いいでしょうか?」などと確認します。
日常的によく頼まれる仕事は、頻度が多いだけにお互いに言葉不足になりがちです。それでもメールを使って文書でやり取りを残しておけば、ミスが発生しても上司に一方的に責められることはありません。むしろ上司の確認ミスと責めることができます。
「分かりきったことをいちいちメールで確認してくるな」とうっとうしく思う上司もいるかもしれませんが、中国では自分を守るために仕事のために自分が動く時は、それをこと細かく上司にメールします。
仕事の進め方でも同じです。「頼まれた○○の業務を○○の方法でやります。これは○○時間かかりそうで、明日の○時から取りかかり、○日の午前中には提出します」と明確に上司に伝えます。“暗黙の了解”という考え方はありません。
手がける仕事をどうしてやるのか、なぜ自分がやるのか、といった理由も事前に上司に確認します。そして誰が結果について責任を持つのかも明確にします。
基本的に中国のビジネスパーソンは、責任だけ押し付けられる雑用は頼まれても拒否しようと考えます。「いくら部下でもただこき使われるのは嫌だ。すべての仕事には、理由と目的がある。これは、自分の貴重な時間を使ってすべき仕事なのか」と上司に問いただします。
常にキャリアアップを考えている中国のビジネスパーソンにとっては、会社の都合のいいように働かされることをよしとしません。「自分の時間はすべて次のキャリアアップにつなげたい」。だから時間を大切にするし、こき使われるのを嫌います。
当然ですが、失敗する確率が高く、責任を取らされそうな仕事はしません。中国では、残業をすることは仕事ができないことをアピールしているのと同じなので、なおさら面倒な仕事は引き受けません。
中国のビジネスパーソンは、とにかく仕事に対しての考え方がシビアで、常に自分を守りながら仕事をします。上司に理不尽な怒られ方をしても、逆に証拠をつきつけて文句を言います。
■ 自分の身は自分で守る
普通に考えれば、上司はそんな部下を使いづらいと思うことでしょう。ですが、こういった考えは中国だけではありません。ほかの多くの国のビジネスパーソンも同じ考えで働いています。
諸外国からは「日本人はすぐに謝るけど、同じ過ちを何度も繰り返す。謝罪をして一時的に反省もするが、根本的には何も改善されない」と、謝りすぎる日本人がバカにされたりもします。
会社は業績が悪化すると、直属の上司もトップから圧力をかけられていて忙しくなり、部下の扱いが粗末になったりします。こういった時に何か問題が起きると、部下に全責任をなすりつけるケースが増えていきます。
上司が常に自分を守ってくれるとは限りません。いざとなったら会社から切り捨てられてしまう意識を持って働かないと、本当に切り捨てられてしまう日が来てしまうかもしれません。日本のビジネスパーソンも中国と同じく、自分の身は自分で守らなければなりません。