上海A株指数だけが3割上昇し、世界一の上昇率を誇る中国株が注目されている中で、中国は建国60年の節目を迎えた。そんな中、全国人民大会(全人代)が3月5日から3月13日まで開かれた。
全人代で大きな経済政策が盛り込まれることが期待されたことで、3月5日の上海総合指数は2221.08ポイントで前日終値より1.04%上昇。銅、亜鉛、アルミ価格が注目され「中国アルミ」が0.52%、「雲南銅業」は3.35%高となった。中国投資会社が国内商業銀行株の持ち高を増やし、継続支援を行うとの憶測があり「中国招商銀行」は3.29%高、「建設銀行」は2.63%高くなった。また運輸、繊維、保険、不動産、自動車、石炭株なども上昇した。
ところが「景気後退から経済成長への転換に取り組む」との温家宝総理の発言に市場が反応したのにもかかわらず、実際には大きな政策発表はなかった。このため、閉幕の13日の上海総合指数は前営業日終値比0.619%高の214ポイントと、大きく上昇せずに終えた。
■ 中国政府が株価を上げるのは簡単!
中国人民銀行(中央銀行)が発表した2009年1-3月の国民意識調査では、『今度の資産運用どうするか?』という項目で、『株投資が最適』と答えた人が2四半期連続で拡大した」という。市場経済に移行していない中国では、株式市場の上昇を政府が政策により管理している部分が大きい。
近い将来、株取引の印紙税の引き下げを行う可能性があること、鉄鋼や自動車など10分野の産業振興策などが実施されることなども、株式市場の活性化を政策で管理しようとしている一環だ。
以前に比べて政府のコントロールが弱まっているとはいえ、他国に比較すると政策で左右されやすい株式市場は、プラスに動きやすい。米国に連動していない中国経済が、金融危機の影響を受けなかったのは当然のことである。
全人代では、政府活動報告の中で、雇用拡大や国民の収入増加のため8%前後の経済成長が必要だと表明したが、約54兆円の景気刺激策に続くさらなる追加対策が打ち出されていない。それはなぜか?
さらに不思議なことに、金融危機の影響をほとんど折り込んでいない。都市部就業者新規増加数900万人目標、都市部登録失業率4.5%前後、消費者物価上昇率4%前後で昨年とあまり大きな違いがない。(1)都市・農村の就業を拡大し、(2)個人所得を増加し、(3)社会の安定を維持するためとして引き続きGDP成長率8%前後を目標とした。唯一、経済構造の改善として、所得税の減収などによる内需型への移行の必要性から、国内消費を促す方向が強く押し出されたくらいである。つまり所得税を減税するから、その分を消費に回して欲しいということである。また、行政の事務手数料を無料化し国民の税金の負担を7兆2000億円軽減する。国内消費に力は入れるが、世界経済への好影響のために期待されていた経済政策はなかった。
■ 政策発表しなかった、その思惑は?
それなのに、ヒラリークリントンをはじめ米国政策は、中国のご機嫌を取ることに徹した。
北京五輪後のバブル崩壊が予測されていた中国だが、最終的に約15億6700万円以上の黒字を出し成功裡に終えた。また、不動産価格の低迷はあるものの世界に比較すると小幅であり、金融危機の影響は最小限に留まっている。完全に中国の一人勝ち状態である。悪く言えば中国のやりたい放題になっているのだ。
3月10日はチベット動乱50年、14日はラサでの暴動1周年であり、全人代前後のイベントとして注目されていたのにもかかわらず、米国からの批判もなく、結局、経済成長を維持している中国の一人勝ち、思惑通りに終わった。人権問題だけでなく経済面においても人民元切り上げの圧力など強気だった米国も、このところまったく元気がない。
それもそのはず、その背景には、中国GDPは世界第3位の経済規模になり、わずか30年で、世界一の外貨準備保有国にまでのし上がったことがある。2008年末現在の各国の米国債保有残高は7274億ドル(約70兆9000億円)で、単月で買い増し高が最も多かったのは6月の659億米ドルで、それ以降は減少傾向が続いている。08年末現在の中国の外貨準備高は約1兆9500億ドルだから、そのうち約3分の1を米国債で保有していることになる。
米ウォールストリート・ジャーナルの取材に対して、温家宝総理は「巨額な外貨準備資金として米国に借款したのだから、その資産が安全であるかどうか気になるのは当然だ」と嫌味さえ言っている。すでに、社会科学院世界政治経済研究所などでは、非米ドル化を加速させることを視野にいれている。米国の経済金融対策による国債の追加発行やインフレ誘導政策により、米ドル資産の価値が落ち、それによって外貨準備の価値を減らしたくない。非米ドル化だけでなく、対外投資や米国企業の買収をはじめ、中国の今後の運用は変わるだろう。それを横目に米国は、ヒヤヒヤ、オドオドしながら注目しているにすぎない。
外貨準備の米ドルを売却したら、さらなる米国経済の打撃は避けられない。北京五輪最終の世界の標的にされていた中国が今は打って変わって世界一強気な国になった。外貨準備の売却の切り札を持ちながら、中国政府は新たな経済政策を掲げて欲しいと世界から注目されている。
しかし、2009年の今年、中国がもっとも懸念しているのは、経済や株価下落ではない。国内デモを抑制し、社会不安への拡大を避けることである。3月10日、チベット動乱50年を迎えた。また、3月14日はラサでの暴動から1年であったが、全人代前後のイベントは、中国の経済成長が期待されているために、米国からの批判も避けられ中国の思惑通りになった。
今後、5月4日に五四運動90年、6月4日に天安門事件20年、10月1日に建国60周年と続く。社会不安へのネット規制やデモ対策も厳重に行われている中、中国は政策を発表するならそのイベントのあたりに発表するのか? そのタイミングも見計らわなければならない。「資本主義が短期対策であれば社会主義は長期対策」といわんばかりに、中国政府は大局的に米国の短期的利益だけに左右されない交渉を身につけているのかもしれない。