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派遣法改正法案=派遣社員を3年ごとにかえればいいという単純なものではない
今国会で成立を目指す労働者派遣法改正法案(以後、改正法案)を、「通訳など専門分野の派遣社員でも正社員の一般業務も担当させられるようになった」「3年ごとに派遣社員を交代させればいい」と、企業にとって都合よく解釈されている方も多いようです。しかし、この改正法案はそう簡単なものではありません。
実際に改正法案が施行されることになったら、その内容をよく理解していないと、正社員雇用よりかえって経費がかさんでしまうこともあるのです。今回は、改正法案の変更点と見逃しやすいポイントについて、生活経済ジャーナリストの柏木理佳(かしわぎ・りか)氏に解説していただきます。
派遣社員は3年後には正社員に
派遣社員にも正社員募集を告知する
大手企業の営業課長(45歳)は、「派遣社員は、業績が悪化したり仕事の能力が衰えたら、契約を切り辞めさせられるので正社員を採用するよりリスクが少ない。それに3年経過したら派遣社員を交代すればいい」と改正法案による企業への負担はあまりないと考えています。
確かに、改正法案では、3年経過した派遣社員は、契約を打ち切り、別な派遣社員に入れ替えることができます。また、同じ会社でも他の部署(課)と契約することにより、会社内では継続的に働くことができます。
ところが、営業課長は、女性派遣社員(35歳)が働いている同じ部署で、これまで通り正社員を募集しようと考えています。モチベーションを下げないため、派遣社員にはいつも正社員を募集することを知らせていませんでした。
実は、改正法案では、これまでとは異なり、同じ部署で正社員を募集する場合、1年以上勤務している派遣社員にも知らせる義務があるのです。
当然ながら、派遣社員を正社員にせずに、別途正社員を募集する明確な理由が求められます。
そもそも「派遣社員を3年後は正社員にしなければならない」というプレッシャーをかけたいのが改正法案の狙いです。
営業課長は、派遣社員に対して派遣社員用の面接しかしていません。
具体的には、業務内容のスキルと3年間継続して働けるかどうか、などです。
この企業の場合、生涯雇用するのは新卒採用だけです。
中途採用は専門職の一部です。その採用試験は難しく、常識テストや専門知識の試験を受けなければなりません。
派遣社員と同じ年齢の35歳の社員たちで昇進した人は、その度に試験を受けています。
もちろん実績も残しています。20~30歳代の派遣社員を正社員にするのは、派遣業務がてきぱきとこなせるだけではなく、これらの試験が受かるだけの能力を要求され、よほど優秀でない限り難しいのです。
でも、改正法案が施行されると、営業課長の考え方は通用しなくなります。
さらに、改正法案では、労働者の過半数を組織する労働組合などからの意見聴取が必要となっています。
過半数労働組合(当該事業場の労働者の過半数を組織する労働組合)などが、派遣社員を正社員にせずに別な部署で働かせ派遣雇用形態を維持・延長することなどについて反対の意見を表明した場合は、対応方針などの説明が速やかに求められます。
1年を超える派遣を受けようとする場合は、過半数労働組合などへ、業務内容・期間・時期を通知し、十分な考慮期間を設け意見聴取を行った上で、派遣受入期間などを定めることが必要なのです。
今後、営業課長は、「派遣社員はずっと派遣社員でいい」という考えを改め、正社員にすることも視野に入れる必要があります。もし、派遣社員を正社員にしない場合は、その理由を常に明確にしておかなければなりません。
結論:正社員にすることを前提に派遣社員を採用すること
派遣社員なのに新入社員並みに経費がかかる?!
今後のキャリアアップについての相談も適宜実施
中小企業の製造業の部長(50歳)は、改正法案によって、「技術系の専門分野の派遣社員は、ファイリングなど一般業務まで担当できるようになる」ので業務が効率的になると喜んでいました。
しかし、改正法案には思わぬ落とし穴があります。
企業にとって経費負担が増えることがあるです。
改正法案では、派遣社員の能力を向上させるためにわざわざ技能研修訓練を実施しなければなりません。
それも段階的、体系的に必要な技能・知識習得のための計画的な研修です。
定期的に実施するとなると、当然経費がかかります。それだけではありません。
あくまで、改正法案は、派遣社員を正社員にするためのものであることを忘れてはいけません。
キャリアアップ措置を適切に実施することも企業側の責務に追加されます。
これまで部長は「女性派遣社員(40歳)に将来のキャリアについて相談されても、うまくごまかしていた」といいます。
将来のキャリアアップに関して相談されても、正社員にする気持ちはないし、転職先を紹介してと言われても困るから、なんとなく無視していました。しかし、これからは、それではすまされなくなります。
改正法案では、今後のキャリアアップについての相談ができる機会を与え、援助しなければならないことが追加されているのです。
「3年以下のその場限りで仕事をしてもらえばいい」という考えではすまされなくなるのです。
結論:派遣社員でも、将来のキャリアアップを考慮する
派遣社員と社員との関係が悪化?
派遣社員も社員も同様に対応する
大手企業で管理職経験3年の課長(49歳)は、「すでに改正法案により派遣社員と正社員の関係が悪化し業務に支障が出て」と言います。
それは、専門技術のある派遣社員の女性(38歳)が、改正法案により正社員の一般業務を担当することができるようになることが原因だといいます。
専門技術のある派遣社員にしてみれば、従来は、専門的な内容だけが業務内容だったのが、一般的な職務をしなければならなくなります。
それにより専門分野に集中できず、余計な仕事までしなければなりません。さらに3年後、正社員になる保証もなく、3年で契約は打ち切りにされ、次の会社を探す可能性の方が高いのです。
再び、派遣社員として別会社で働いても、また専門技術を使う時間は減り、専門技術はどんどん失われる懸念があります。
専門技術のある派遣社員は、それでは仕事へのやる気がなくなるでしょう。それでも正社員の専門職になれるかもしれないというほんの少しの期待から効率的に一般業務もこなそうとするでしょう。
一方、その派遣社員に仕事を奪われる可能性がある女性社員(45歳)は、他の専門的な仕事が増えるわけでもなく、時間的に余裕ができ、今でも暇そうにしています。
当然、派遣社員への風当たりも強くなっています。国会に改正法案が提出されたことで、すでに女性社員はピリピリしているそうです。
課長は派遣社員のモチベーションを上げるため「景気がよくなれば派遣社員から正社員にできる」などと、みんなの前で派遣社員に気を使っていました。
しかし、一般業務をしている専門技術のない女性社員は、それは自分への肩たたきにつながると考え、派遣社員に八つ当たりをしていたのです。
課長は雇用形態が違う立場の人も、給料や企業に有利かどうかとは関係なく、同様に対処する必要があったのです。特に女性社員の仕事は派遣社員の仕事とかぶりやすく比較されていることを感じます。お互いうまくコミュニケーションをとってもらわなければ仕事にマイナスになります。