キャリタス就活 キャリタスFINANCE
激動の中国経済、金融、生活実態に迫るリアルレポート
<第2回>2016.11.30
https://job.career-tasu.jp/finance/columns/pro009/002/
巨万の富を有する者と、農村部の貧困層。格差を生んだ構造とは?
日本の26倍もの国土と約13.7億人の人口を有する中国は、世界の豚肉の半分近くを消費しているというデータがあることから「世界の胃袋」とも表現される大国です。
その規模からすべての面でダイナミックな中国ですが、ここ最近は我々日本人にとって「中国人=爆買い」のイメージが定着していますね。ただし、旺盛な消費意欲を見せる中国人は、全人口のうちのごくごく少数。富裕層は400万人未満と言われており、経済未発展の農村部には約9億人が暮らしています。
ここで気になるのが、富裕層と貧困層との格差です。共産主義国家でどうして貧富の差が生まれてしまったのか。今回は格差が顕在化するに至った理由と、中国で加速している格差是正の動きをご紹介します。

土地・不動産価値の高騰で誕生した富裕層

本来、共産主義は「国民全員が協力して、全員が平等の社会を作ろう」といった理念に基づく国家であるはずです。しかし、共産主義国家の中国はそうした理念とは裏腹に、富裕層、貧困層の格差が顕在化しています。その格差を拡大した要因のひとつが、学生のみなさんが生まれる前に日本で起きたバブルの10倍の勢いがあると称される「中国バブル」ともいわれています。

ここでは、貧しかった一人の中国人男性が富裕層になっていく過程をご紹介しますが、その仕組みを知ることで「中国バブル」の一端を垣間みることができます。
── 中国から日本に留学していた学生Aさんは日本の大学で学び、博士号を取得します。中国に帰国して大学の先生になったAさんですが、大学の先生といっても月の給与は数万円程度しかありません。そこでAさんは、日本で大学に通っている際に飲食店でアルバイトをして貯めた数百万の預金をはたいて、マンションを購入します。その不動産の資産価値がわずか数年で10倍ほどに膨れ上がり、Aさんはマンションを売却します。次にその売却資本を元出にマンションを3戸購入し、さらに転売。結果、Aさんは「富裕層」の仲間入りを果たすことに ──。
これは日本に留学した当初は貧しく、奨学金で学んでいた一人の中国人が富裕層になった一例ですが、中国では土地・不動産価値が高騰した際に銀行が簡単に融資してくれた結果(現在は銀行の信用取引等も厳しくなっています)、「不動産王」と呼ばれる富裕層が数多く誕生しました。
さらに土地や不動産だけでなく、ここ数年のトピックスとして、国際通貨に仲間入りした「人民元」の通貨価値が2倍近くに跳ね上がったことで、預金=現金をもっていた多くの人が富裕層の仲間入りを果たしています。

都市部と内陸部で顕在化する格差

外資導入のために経済特区に指定された深圳、珠海、汕頭、廈門や上海などの沿岸部の都市がこれまで中国経済を牽引するエンジンとなってきましたが、21世紀に入って中国政府は「9大都市圏構想※」を策定。広い範囲で多くの地域において都市化を促進することで、格差を縮小し、国力を総合的に高めていく方針を示しています。

しかし、依然として富裕層が多く暮らす沿岸部に比べて都市圏から離れた内陸部は、道路、鉄道などの交通のインフラが整備されていないことから人やものの行き来が少ない……などの問題を抱えた多くの貧困層が暮らしています。具体的に内陸部の国民に、どのような問題が生じていたかというと、
■ 都市部から郵便物を送ってもなかなか届かないなど、物流システムが不安定
■ 農村部の出稼ぎ労働者(農民工)は都市部で働けるが、もともと都市部に住んでいる人の失業率が上がらないよう農村出身者は都市部の戸籍の獲得が簡単ではない
■ どんなに学業優秀でも農民工が都市部の大学を受ける際、合格ラインが高く設定されているなど不利な条件がある
■ 都市部で出稼ぎ労働者同士が結婚し、そこで居を構えても、簡単に農村戸籍を都市部の戸籍に変更できなかった
■ 農民工は教育、年金、医療など様々な面で実質的制限を受けている
■ 内陸部のインフラ整備が立ち遅れていることから、物が不足しており都市部との格差が拡大している
こうした複合的な不満が高まったことで、最近では内陸部各地で暴動も発生しています。

中国で加速する、格差是正に向けた動き

都市部と内陸部の格差の象徴となっているもののひとつとして、中国の「戸籍制度」があります。 中国の戸籍は農村戸籍(約9億人)と、都市戸籍(約5億人)に分けられていて、農村戸籍所有者は、都市戸籍所有者と同等の処遇を受けることができません。この背景には次のような政府側の事情が挙げられます。

■ 都心部への人口集中を防止
■ 都市部の失業率上昇、治安悪化を懸念して、農村部から都市部への労働力移入を制限
ところが生産年齢人口の減少や所得格差への対応として、2014年7月から「戸籍制度改革」スタートします。これは歴史的出来事といえますが、改革を掲げる政府は「最終的には全国民の戸籍を都市戸籍に統一する」という方針を示し、さらに「2020年までに1億人の農民工を都市戸籍保有者にする」とも表明。このように政府が重い腰を上げ、改革を断行した理由を列挙すると、
■ 爆発寸前とも言われる農民工の不満を軽減するため
■ 再開発によって林立するマンションの空居率が15%もあるため、農民工へ貸し出す=稼働率を上げることで都市部のバブル崩壊を回避する
■ 高齢化が叫ばれる都市部に、農村部の若い国民を段階的に移動させ、国力を強化する
などの理由があります。しかし、農村地域では移動が簡単にできない高齢者も住んでいます。若者が都市部に移動すると面倒を見てくれる人がいなくなるなどの不安も表面化するなど、デメリット、メリットが噴出している状態にあります。

歴史的トピックスともいえる「戸籍制度改革」

農民工の不満が爆発寸前であることを憂慮した習近平国家主席は、自ら先頭に立ち「虎もハエも叩く」をスローガンに「腐敗撲滅」を掲げていることは周知の通りです。これにより富裕層の賄賂が減少すれば農村部にくすぶる不満が解消するともいえます。しかし、もちろん農民工が都市戸籍を取得しても、格差が是正されるとは限りません。
都市部に出稼ぎに来た農工民の多くが低賃金の労働に従事し、政府関係者やホワイトカラーが高収入を得ている構造に変わりはないからです。
さらに、農民工が都市戸籍を取得できることになれば、多数の農民工の都市部への流入が予想され、農村地域の人口が減少し過疎化が一気に進むジレンマも鮮明になっています。よって政府は「戸籍制度改革」と平行して、都市部と地方を結ぶ「鉄道や道路などの整備」にかかる長期的公共投資と、短期的対策である農工民の「所得拡大」も打ち出しています。
世界経済に直結することから、中国が掲げる様々な国策は国内外から大きな関心を寄せられています。新幹線、高速道路、飛行場などの公共事業の大規模プロジェクトでは、技術やノウハウを有する日本企業にもチャンスが拡大することを意味します。成長率が鈍化しているといわれている中国ですが、まだまだ変革を続けようとしている地方の動向に、しっかりと着目してほしいと思います。
※ 「9大都市」=「1北京・天津・河北」「2瀋陽・大連」「3済南・青島」「4湖南・湖北・江西」「5成都・重慶」「6珠江デルタ」「7長江中下流」「8大上海」「9吉林・黒竜江」