退職金ゼロでもこづかい6万円はキープ
 「もうあと2年で会社は辞めることになると思う」
 と、ボソボソと話すのは、年収750万円の杉野敏孝さん、IFT会社に勤務する53歳。
 「ITソフト開発会社は若い人を欲しがっていて活性化を図りたいんだよね。僕は窓際族だし、必要ないと全員から言われている気がする。通常定年は60歳だけど、僕はあと2年で55歳になる。会社からはそれを一つの区切りとみられているのがわかるよ」
 会社をクビになっても、杉野さんは諦めない。英文会計の資格をとろうと夜遅くまで勉強に励んでいる。2年以内には試験には合格したいと意気込む。
 「55歳から、年金をもらう60歳までの5年間は生活費が必要だ。会計事務所に派遣でも契約でも、パートでもアルバイトでもいいから雇って欲しいと思っています」
 そこまで将来を心配するには、深刻な理由があった。
 杉野さんの場合、年俸制だから退職金はゼロなのだそうだ。さらに、「家のローンがない」ことが追い討ちをかけている。
 親が死んだあと目黒区の家を引き継いだ。やっとのことで相続税を払い終わったかと思ったら、今度は多大な固定資産税を毎年払わなければならないことに気がついた。
 時価で総額2億円近くの家のため、毎年200万円近くが何もしないで出費になる。
 「もともと子どもがいないからそんなにお金はかからない。万が一のときには、10歳若い年収700万円の妻の給料で食べさせてもらおうと思っている。
 だからこの歳になって今流行っている定年離婚なんて絶対にされたら困るよ」と苦笑い。
 杉野さんは家事もまったく出来ないそうだ。
 「家を売却することを税理士にアドバイスされたが、親の遺産をそう簡単に手放したくない。奥さんの機嫌をとれば、生活費はなんとかなる」
 こう言って苦笑いした。
杉野さんのこづかい帳
 将来を真剣に悩んでいる杉野さんだが、「ずっとこづかいは月6万円を維持してきた」と、自慢する。
 歌唱力がバツグンにいいからと平原綾香のファンクラブに所属しているとか。携帯電話のストラップから『ODYSSEY』のCDまで持っている。
 「少しでも安く買いたいからいつもアマゾンで購入している。定価2741円が中古で2300円になる。以前はMAXのファンクラブに入っていたけどメンバーが変わったときに辞めた」
 それに、妻と二人でよく出かけること自体が趣味なのだそうだ。
 「『イープラス』というメーリングに登録して情報をゲットしている。先日は『筋肉ミュージカル』を横浜まで見に入ったし、青山劇場の演劇はほとんどみている」
先のことは不安だけど、今この瞬間を大事にしたいという。いつまで生きているのかわからないから。
 老後のお金の心配は妻の機嫌を損なわないことで解決する。老後は男性のほうが生きていくのは大変だろう。高度成長時代、働きづめで妻をないがしろにしていた罪滅ぼしも大事かもしれない。
 
杉野さんこづかい帳

 
月額   6万円
平原綾香CD 2741円
飲み代 6000円X2回=1万2000円
  PC雑誌・日経パソコン 980円
  ランチ代 750円X20日=1万5000円
  筋肉ミュージカル 6000円X2人分=1万2000円
  ミュージカル・シカゴ 8000円X2人分=1万6000円
  スターバックスのコーヒー 390円X4日分=1560円
  小計 6万281円
収支   ▲281円