毎月100万円の副収入を
4年前に自宅を改造したローンが1億3000万円も残っているというのに、悲観な顔もしないで淡々と話すのは代理店勤務の水野達之さん(56歳・仮名)。
 56歳は、はっきりいって若くない。それなのに1億3000万円もローンが残っている。驚いている私をよそに水野さんは続けた。
 数年前に『成果主義』という言葉が流行りだしたときに、あ~、もうすぐ俺たちの世代は終わりだ。肩たたきのときがくるな~と思った。だから来るべき時が来て、会社でないがしろにされてもいいように心の準備をしたつもり。」
 心の準備とは、自宅を改造し、自分たちは3階に住んで、1階と2階部分を人に貸して家賃収入を得ること。今までより家は狭く感じるけど、それでも毎月賃貸料10万円の部屋が10部屋あるから、年間1200万円の家 賃収入になる。これはおいしい。
 それらをローンの返済と修繕費用に充てている。1億3000万円の借金は、11年余りで返せる計算だ。11年たつと、67歳。定年後7年もある。
 ところが水野さんは、定年前に退職したいと言い出す。
 「60歳まで働いても働かなくても退職金の金額は1600万円で同じだから。もう現場から離れてただ判子押すだけの仕事は楽しくない。何か違う仕事を見つけたい」
 という。
 心の準備は、副収入だけでは十分ではなかったようだ。
 仮に定年前に会社を辞めたら4年間分の年収5200万円がなくなる。せっかくの副収入の家賃収入を生活費に充てることになると、ローンの返済が滞りかねない。
 そうでなくても退職、つまり給料がなくなってから7年もローンを払い続けなければならないのだ。たとえうまく転職できても今の年収1300万円をキープすることは無理だろう。奥さんも会社は辞めたばかりで収入はないから依存できない。子ども2人はもう社会人だからお金かからないとはいえ、今まで金遣いの荒い水野さんが、定年後の生活費をとうてい節約できるとは思えない。
 定年まで働いて、退職金をローン返済の一部に充てるべきではないかと私が切り出すと、「退職金でポルシェを買いたい」といい出すからビックリ。
 「仕事ばかりしてたから、もう先のことは考えたくない。どうせ人間はいつまで生きるのかわからないから今を楽しみたい」
 将来を必要以上に不安がる日本人が多い中、景気が本格的に回復しない日本社会には、こういう明るい性格もいいのかもしれない。
こづかい
 水野さんの好きなタレントは山田優さん。理由は若くて元気だから。
 「もうおやじだからね。あの元気を吸収したいんだよ」
 毎月7万円のお小遣いから、映画の優待券などを金券ショップで毎週買う。「スター・ウォーズエピソード3」から「星になった少年」、「宇宙戦争」まで最近公開中の映画は全部観たそうだ。それだけでなくややマニアックな映画も700円前後で優待券を購入している。
 お酒は飲まない水野さんは、休日は学生時代の仲間とバンドを楽しむ。
 レンタル料金は一人約1000円ほどで楽器は無料で借りられる。
 「もうすぐまたサーファーディスコが流行るよ。六本木のレキシントンクイーンなんかが再び流行るときが来るから見ててごらん!」
 強気に、私が知らないディスコの名前をいくつも並べられた。山田優みたいな元気な女の子見つけて一緒に行くと言い張るのだった。

  水野さんのこづかい帳  
     
月額   7万円
  映画券X4 4200円
バンドスタジオ1000円X4 4000円
  ランチ代(1050円X25) 2万6250円
外食代 3万1000円
  喫茶店コーヒー代 2000円
  その他使途不明金 3000円
  小計 7万450円
収支   ▲450円