2007年 離婚は増加する
 日本の離婚率は欧米より低い。
 「妻は毎日のように『離婚してやる!』 なんていうけど、どうせそう簡単に離婚なんてできないんだよ。俺の収入で食べているんだし」
 M銀行研究所のシンクタンクに勤務している伊藤洋二さん(58歳)は、こてんこてんの亭主関白で自信家である。
 妻は、結婚後すぐに子どもができたため長いこと専業主婦だったが、最近になって近所の総合病院で時給1100円の事務のアルバイトを始めた。
 「妻の口癖は『日本の法律は、ひどい。離婚したら女に不利になるばかりだ』『帰りが遅くて寝不足になる。迷惑だ』『臭くて汚いから洗濯物の汚れとれない。洗濯物が多すぎて大変だ』などと、顔を見合わせるたびに文句しか言わないよ」
 来年、定年を迎えたら自分が家にいることが多くなることを計算して、うるさいことをいう妻には外で仕事をしていて欲しいとアルバイトをみずから進めたそうだ。今さら、仕事探しても高収入で社員として雇ってはくれるところはなかったという。
 そんな傲慢な態度をくずさない伊藤さんに、妻はさらりと追い討ちをかけた。
 「2007年4月以降に離婚すると、婚姻期間中に支払った保険料分の厚生年金を分割できるようになるのよ。だからあと2年我慢することにしたわ。ちょうど貴方は定年を迎えるころね」
 確かにサラリーマンの夫と離婚した妻が、夫の厚生年金を分割して受け取れる仕組みが2007年度から導入される。これまでの制度では、専業主婦が離婚しても基礎年金部分しか受給できなかったものを、報酬比例部分まで夫婦間で分けられるようになる。
 「分割の割合は夫婦で話し合って決めるけど、それに合意しない場合は、裁判所に調停できるのよ」
妻は強気だ。
 離婚したら生活できないとあきらめていた妻が、年金分割の導入に背中を押されるように2007年4月以降に離婚することを決意している人が増えている。口に出す伊藤さんの妻はまだマシということだ。多くの妻たちが、2年後に向けて無言の準備をしているのだ。
 そうなると、妻に支払うばかりか伊藤さん本人の受け取り金額も減少するからかなり損することになる。
 「こんなことなら仕事なんかさせるんじゃなかった。余計なことばかり会社の人から学んできている」
 後悔してももう遅い。妻の離婚を思いとどまらせるよう早く努力するが必要なのでは。
 
9万円のお小遣い 銀座のクラブが家?
 伊藤さんのお小遣いは、なんと9万円。それでもバブル時代は12万円もあったと不満をもらしている。
 「銀座のクラブを飲み歩いていたけどなあ、今はせいぜい安い新橋の外国人パブとか居酒屋だけだよ」
 未だに銀座のクラブにたらたらと未練があるようだ。
 「家には早く帰宅したくない。寝るだけの場所。クラブの女の子たちは、『お疲れ様』っていついってもやさしく癒してくれるから本当の家のような気がするのは錯覚かな。退職金もらったらすぐに銀座のクラブを渡り歩くよ。だけど離婚されたらそれも減るのかな?」
 なんだか、離婚したくなる妻の気持ちがよくわかる。妻に同情したくなるような人だ。
伊藤さんのこづかい帳

  月額 9万円
飲み代 50,000
  食事代 9,630
タバコ代 8370
  ランチ代 22,000
  小計 90,000
収支