マクドナルドの時給並み
 今年60歳を迎えた大田浩一郎さんは、老齢基礎年金は65歳からもらうことに決めた。
 Y乳業の関連会社に勤務していた大田さんは、そのまま会社に残って働くことにした。会社から給料ももらえるから、65歳まではお金には困らないと安心していたのだ。
 ところが実際の給料は、これまでの月収の約3分近くの1のたった15万円に減少した。
 「少しでも現役として働いたほうがいいと思っていたが、15万円にまで減るとは思わなかった。時給で計算してみると780円しかなかった。よく考えてみると2番目の息子のマクドナルドのアルバイトの時給とさほど変わらないんだよ」
 会社に残ることにしたと喜んでいたのもつかの間、息子に馬鹿にされるようになったとぶつぶつ嘆いている。
 これから5年間の65歳までの生活がもっとも節約しなければならないと自覚し始めた。
 「唯一、得したと感じるのはシニア割引や優待券だけ。飛行機は最大で37%の割引になったし、あるホテルでは宿泊が2割引きになった」
 節約に励んでも長い間専業主婦だった奥さんは「こんな少ない給料ではやっていけない」とパートを探した。
 だけど仕事の経験がほとんどないから、まともな仕事なんてあるわけがなかった。
 新聞の広告をポストに入れる仕事が毎月3万円。
 やっとのことでお弁当屋でご飯を盛り付けるアルバイトをみつけた。時給800円で月収10万円ほど稼いでいる。
 それでも年間の収入はちょうど100万円くらいになる。
 頑張っても夫婦あわせての年収がちょうど300万円ほどだ。
 家の家賃が12万円、大学生と就職した息子たちに半分ずつ出してもらっているのが救われるそうだ。
 「定年を迎えたらゆとりある生活ができることを夢見ていたというのに、全く想像していたものと違うよ」
 あと5年間の辛抱だと、自分に言い聞かせていた。
大田さんの小遣い
 「結婚したばかり、35歳のころは小遣いは4万円もあったんだ。だけど子どもが大きくなるにつれてしだいに削られたよ。今では3万円ももらえればいいほうだ」
 知人の葬式なんかよばれると小遣いの中からさっ引かれるから死なれると本当に困る、という。
 大田さんの唯一の楽しみは、夜中ひとりでマージャンをすること。だいぶ昔にマージャンで20万円ほど大もうけしたことがあるそうだ。
 その快感をまた味わいたいと腕を磨いている。
 「65歳になってカネがもっと入ってきたらすぐにマージャンで稼いでやる」
 今は賭けに出す資金も十分にない。実力を蓄えておくと張り切る。
 「女房が部屋に戻って寝静まってからひとりでダイニングで集中する時間がリラックスできていいんだ」
 5年間も毎晩頑張ればきっともっと強くなるといい続けているが、むなしくも、想像を絶する現役と今の落差のある生活に対して、なんとか自分自身へ言い聞かせているようにも聞こえた。
無料でマージャンする大田さんの小遣い帳

     
  月額 30,000
ランチ代 17,000
食事&飲み代 12,000
     
  その他 1,000
  小計 30,000