1.大きく変化した定年制度と追いつかない現状
バブル崩壊以前の日本においては、女性のフライトアテンダントやアナウンサーの社会的地位は高く、その評価と同様に待遇も良かった。女性特有の職業として社会的に評価がなされた代わりに寿退社するまでのツールとして扱われていた。フライトアテンダントは1970 年前半までは定年退職は30 歳と設定されていた。1980 年代からは、最も年齢の高いフライトアテンダントが何歳まで働き続けるかによって段階的に定年が延長されることになり、現在では60 歳が定年と定められている。

ところが実際には他の職業に比較すると平均勤続年数は短い。日本の航空会社の場合、派遣社員制度が設定されてからは正社員になるまでに5~6 年がかかるため、平均勤続年数はそれ以前より2 年ほど延びている。しかし、いまだにアジアの航空会社に勤務する日本人のフライトアテンダントは3 年から4 年が平均的である。それは寿退社が理由なのではなく①体力的な限界から一生続けられる仕事ではないと将来を悲観すること、②海外に拠点を置き、住み続けることに対して不安になること、などが理由である。また、入社前に思い描いていた華やかでちやほやされるイメージとは大きく違うことも原因である。

表向き定年が延びたとはいえ、現実にはフライトアテンダントとして定年まで働き続ける人は、各社に1~2 名しかいない。フライトアテンダントが、カウンターでチケットを切るグランドホステスなどの地上職や総務部などに異動するケースはごく稀である。この理由としては、同じ航空会社であってもフライトアテンダントとして採用され経験を積んだ人が、他部門で必要とされる能力があると認められるのは大変難しいことなどがあげられる。チームリーダーとして高く評価され、試験に合格した人でなければ異動は困難である。チーフパーサーになるまで10 年から15 年かかるが、その後は、フライトアテンダントの新人研修のトレーナーになる人が多いが、選択肢は少ない。

2.公平な評価制度
近年、航空会社は石油の高騰などにより業績が悪化し、希望退職、早期退職優遇制度による人員の削減、リストラを開始した。私の勤務していたアジアの航空会社の場合、毎回のフライトでのサービス方法など接客業としての観点が厳しく評価される。評価者は部署(例:エコノミークラスやビジネスクラスなど)のリーダーと同じ部署に所属する後輩一人である。方法はチェックシートにマークしコメントを書く。チェックシートには①お客様への食事のトレーの手渡し方は適切であったか? ②お客様にトレーを渡すタイミングはよかったか? ③暖かい食事が冷めてしまわなかったか? 時間配分は適切だったか? ④時間がかかりすぎて同僚のフライトアテンダントに迷惑をかけなかったか?など食事サービスだけを取り上げてもこのようにこと細かく評価される。カートに食事のトレーをのせて配るため、時間がかかりすぎると前方のお客様と後方のお客様に配られる時間に差ができることになる。これはクレームの対象になりやすい。あまりにも食事を配る作業に時間がかかるフライトアテンダントには、向かい側担当のフライトアテンダントが手伝わなければならない。チームワークが大切であるフライトアテンダントは同じような時間配分で同じ時間を使い同じようにお客様に接することが求められる。そのため、それをこなせないフライトアテンダントはお客様も含め、同僚からもクレームになる可能性がある。

縦社会であるフライトアテンダントの世界では先輩(上司)のご機嫌をとることは必然的に身につくものの、後輩(部下)に対しては育てるどころか手下のような扱いになりやすい。そのため、公平さを期するために上司だけでなく部下からも評価されるシステムになっている。

評価される日は、前もって知らされるわけでなく当日、フライト前のブリーフィング(打ち合わせ)で決まる。ブリーフィングでは「今回の機体の場合、緊急のときには、どこのドアを使って脱出すればいいのか?」など緊急のときのことを想定した質問がなされる。答えられなかったらむろん評価には「緊急訓練の成果がない」などと書かれる。

そのほか、髪型やお化粧、制服の着用の仕方など容姿についてのチェック、またお客様からのコメントなども評価に入れることもある。この評価に加えて緊急訓練を何回受けているのか、病欠はどれくらいあるのか、などの勤務態度も含めて昇進やリストラの対象者が決められていく。誰もが納得できる公平な評価制度が実施されている。

3.キャリア形成が難しい女性特有の職業
外国人と日本人のフライトアテンダントでは職業意識に大きく差があることが私の実施したアンケート調査でわかった。最初から一生働くつもりでフライトアテンダントになる欧米人に比較して、日本のフライトアテンダントは長期間働くことを望んではいない。1970 年代に専業主婦が多かった日本では、フライトアテンダントは社会的にも地位が高く評価もされていた。そのイメージが現在でも中途半端に残っている。体力を重視する現実の職業内容を把握する前に華やかなイメージばかりが先行している。実際には希望通りの転職ができる人は数パーセントしかおらず、転職先がみつからないまま退社する人が多い。転職に際してのキャリア形成・リカレント教育が実施されていないのである。

個人の意識の問題だけではない。航空会社側にも責任はある。まずは募集方法が外国の航空会社とは大きく違う。日本の航空会社の場合、既卒、経験者は30 歳まで、新卒は平成18 年卒業までなどと年齢制限を厳しく設定している。これは、若さを売りにしていることが大きな理由である。若いうちしか働けないということをはっきりと謳っているのである。視力良好・英会話などのほかに容姿端麗も採用条件とされている。これが日本の航空会社で男性のフライトアテンダントが少ない理由である。日本では、いまだに女性特有の職業というイメージが根強く残っている。

4.航空会社にはリカレント教育が必要
航空会社の利益を考えれば若くて体力があり、賃金の安いフライトアテンダントを数年間で退社させ循環をよくしたほうがいい。日本航空は2007 年2 月7 日、本業の航空事業で黒字を出す体質への転換を目指す「再生中期プラン」を発表した。その内容は今後3年間でグループ社員4,300 人をリストラし、人件費を500 億円削減、低採算路線廃止、航空事業への資源集中等を柱にした内容である。だが人員削減の内容は特別早期退職制度で700 人、残りの3,600 人は採用抑制等による自然減であって本格的な評価制度導入によるリストラではない。つまり一時的な回復しか見込めないことが予想される。私がちょうど入社 2 年目のとき、勤務していた外資系の航空会社でもストライキが実施された。月間労働(乗務)時間は72 時間までと決められていたのに80 時間をこえるフライトを余儀なくされ、スタンバイ(病欠で休んだ人の代わりに乗務すること)でも全て呼ばれるから休みが十分でない状況が続いた。フライトアテンダントだけでなくパイロットもストライキをしたため3 日以上の便がすべてキャンセルされたこともあった。

航空会社はいつストライキが起きるかわからない。人が資本の企業なのである。このような点からも航空会社は、評価制度を充実させ、適性の低いフライトアテンダントには早めに気づかせ、転職を促進できるリカレント教育を実施していかなければならない。しっかりした評価制度のない航空会社はフライトアテンダントの平均勤続年数も長く、部署間の異動も少なく保守的である。さらに教育制度が未整備なために適性が低く、長く勤務しているフライトアテンダントに高い賃金を払い続けている。企業側にとってもフライトアテンダントにとっても悪循環が繰り返されている。

㈱富士通総研研究員、NPO 法人キャリアカウンセラー協会理事柏木理佳