私が株式に興味を持ったのは22歳のときでした。住んでいた香港で、駐在員たちの経済や株の話題についていきたかったからです。
 そうは思っていてもなかなか自分の財布からお金を出すには勇気がいります。踏み切れなかった私を後押ししたのが、どうみてもイケテナイ親父でした。
 その小太りで頭の薄い日本人の駐在員が、いつのまにか生き生きとしているのです。株の資産が膨らんだことで女の子にもモテルようになったのだそうです。
 「どうせ、金でつってるんだろ」と思っていると、どうやら様子が違います。
 自分の判断力が正しかったのだと自分の即決力に自信がつき、それによって女の子の口説き方も堂々とできるようになった、というのです。
 たまたま、香港に住んでいたため彼が投資していたのは中国株。一株あたりの株価が安いため2万円ほどから投資できると私にもすすめます。
 「ふう~ん。でもよくわからない会社が多いし~」
 そんなどうでもいい親父の自慢話なんてどうでもいいと、上の空で聞いていたものの、ある日、衝撃的な出来事が起きました。なんとその45歳過ぎた親父に彼女ができてついに結婚したのです。
 そんなにモテルなら私も…。このときばかりはすぐに実行に移しました。
 それからというもの、22歳の私は、食事会ではことあるごとに“私は株式に投資している、「PER」、「ROE」がどうだ、企業の業績が株価に影響を及ぼし経済全体につながる”などと口走ることで尊敬の目でみられることになります。
 「フライトアテンダントって金遣い荒そう~」「金銭感覚なさそ~う」「フライトアテンダントって英語と中国語が出来たり語学力としては知的だけど、経済のことは無知な人が多いねえ~」などと口走っていた男性の目線が、「堅実」で「マジメ」で「勉強家」「しっかりもの」ってイメージに変わったのです。
 経済の勉強のため? モテルため? まあ、動機は不純でも結果オーケーならいいってば!