私がかつて、ある大手企業のA社に「派遣スタッフでいいから働きたい」と伝えたところ、「それじゃ、『Aスタッフ派遣』という子会社があるから、そこに登録して派遣される形をとりなさい」といわれました。「自社の子会社である派遣会社から」というのがミソですね。
今では3人に1人が非正社員の時代、大企業にはたくさんの派遣社員が働いています。さまざまな人材派遣会社からスタッフが集まっているわけですが、その一方で、多くの大企業は、自分の会社にスタッフを派遣するための派遣会社を子会社として設立しています。
大企業が派遣会社を子会社としてもつことのメリットは明らかです。例えば、派遣スタッフに20万円の給料を払う際に、10万円を派遣会社に払う契約であったとすると、その余分に払っていた10万円を自分の子会社に還流させることになるのです。最近は人件費を抑えるために、このような子会社を設立するところが増えてきました。
しかし、これでは仕事を必要とする人の能力を適正に判断し、仕事を紹介するという本来の人材派遣会社の意味が失われます。また適正な労働力の需給をつくりにくくなります。派遣とはいいながら、最初から働く企業が決まっているのですから。このように労働者の派遣先を特定の会社に限定することを「専(もっば)ら派遣」というそうです。
民主党は、人件費を抑制する目的で、人材派遣のための子会社をつくり、親会社や関連会社に限定して派遣するなどの「専ら派遣」を規制する「労働者派遣法改正案」を今国会に提出する予定です。しかし、その内容は、派遣社員の5分の4以上を特定の1社(親会社)に派遣してはならない、というものです。これでは雇用の流動化がすすむだけで、正社員の数が増えるとは限りません。
企業は人件費を削減することばかりを考えずに、少しでも多くの人を直接雇用することを心から考えてほしいものです。