厚生労働省!形だけではかわりません!
 秋の臨時国会で日雇い派遣を原則禁止する方向へすすんでいますが、しかし禁止するだけで本当に変わるのでしょうか?
福田総理が突然の辞任劇を披露してから世間は総裁選挙で騒がしくなり、日雇い派遣禁止への真剣な議論への時間は消えてしまったようです。
 そもそも禁止したいという意向は、「生活の安定」「雇用による格差」「日雇い派遣者が労働者が不法に働かされていたこと」などが原因です。生活苦に陥っている日雇い労働者たちを守ることが目的のはずでした。しかし現場を理解しようとせずに表面的に対策を打つだけでは問題は解決しません。

<日雇い派遣の原則禁止の原因と問題解決>
 労働者派遣法の改正を議論した厚生労働省の研究会が「日雇い派遣の原則禁止」などを盛りこんだ答申をまとめました。その禁止する意味は2つありました。

① 人材ビジネス会社の企業倫理
 大きなきっかけとなったのはグッドウィルなどによる日雇い労働者を不当に働かせていたことがあります。確かにグッドウィルに限らずさまざまな現場では悲惨な状態で働らかされていたようです。トラックの中に荷物と同じようにぎゅーぎゅーづめに乗り込み移動させられたり、残業代の未払いどころか人間としての根本的な働き方が認められていなかったのです。
 これは派遣会社側のやり方に問題があります。派遣先の会社へ紹介しマージンをとることで会社は利益をあげ存続していたわけですが、その利益を追求するばかりにコスト削減の目が労働者に向いたわけです。特に日雇派遣については、派遣会社のマージンが4割以上荷なる場合もあり、派遣会社のマージンの高さも問題視されています。さらに軽作業が中心のところが多いとはいえ場合によっては危険な作業が含まれることもあり、命にもかかわる重大な仕事です。しかし、労働災害が発生しても労働災害保険適用の手続きがされてなかったなど、派遣会社のやり方そのものに疑問があります。
 しかしこの問題の解決法については、日雇い派遣禁止によって解決されるのでしょうか?厚生労働省がもっと管理体制を強化するべきであり、失業手当の給付、健康保険への加入など、日雇派遣労働者が働きやすくする環境を整えることが大事です。派遣会社への管理体制を充実させることが大事であり、日雇い派遣を禁止することが解決策ではありません。
 日本人材派遣協会に登録している人材派遣会社とそうでない人材派遣社が存続していることも管理ができてない証拠です。弱い立場である労働者を不当に扱っている派遣会社が問題ならば、その解決法は、派遣会社の企業倫理の追及と厚生労働省との直接の管理体制を厳しくすることにあるのではないでしょうか? 実際、問題になったグッドウィルは名前をかえて活動を始めています。
 政府はこれまで人材ビジネス会社の設立を促進していた傾向があります。野放し状態のままいつの間にか増えすぎてしまったのではないでしょうか。現在登録されていない会社も含めると人材ビジネス会社は7万社以上ともいわれています。こんな状態ですから二重派遣、適用外業種への派遣(港湾、建設等)等の法令違反や、使途が不明瞭な「データ装備費」の徴収等、日雇派遣労働者に対する悪質で搾取的な行為が発生してもおかしくないのです。

②雇用の安定と格差の解決につながる?
 第2に雇用の格差の問題があります。ここ数年、派遣や契約社員など非正社員が3割を超え格差が拡大しています。年収200万円以下の人が5人に1人になり、日本はもはや経済大国とはいえない状態に陥っています。雇用への不安や貧困の格差が社会問題となっている中、厚生労働省は非正社員、特に不安や不満の多い日雇い労働者において解決しようと厚生労働省も与党も日雇い派遣禁止を考え出したわけです。

<問題解決にならない日雇い派遣禁止法>
 しかし、日雇い派遣禁止することで本当に解決するのでしょうか?生活するのがやっとである低所得者の生活は安定するのでしょうか?

①さらなる失業の懸念
 厚生労働省の調査2では、今後の希望する働き方について、日雇派遣労働者の5 割弱が「現状のままで良い」と回答しています。
 フリーター、学生、主婦の短期アルバイト等の立場で現在仕事がない人は、短期的、日雇いでも仕事があれば現金を稼ぐことができます。日雇い派遣を禁止することは無職で求職中の労働者にとっても日銭を稼げなくなります。

②企業側の負担の増加
 また、直接雇用する企業側もコストがかかります。例えばクリスマスシーズンのたった1日のアルバイトを探すためにも高い募集広告を出して履歴書に目を通して面接をしなければなりません。その人材がよくて来年も再来年も毎年1日定期的に雇用がつながればいいですが、翌年のことまでわかりません。どんな人材なのか時間に遅れないか、欠席しないか、たった一日の仕事でさえも企業側にとってもリスクがあります。特に中小企業にとってはこれによってかなりの経費を使うことになり大きな打撃を受けることになるでしょう。
 このような問題からすべて日雇派遣の労働者が直接雇用にシフトできるとはいいきれません。リスクがあるなら企業側は元社員、結婚などで退社した社員を一時的に復帰してもらうなどの方法をとり、広告を出して新たに直接雇用を創出する方法はとらなくなるかもしれません。つまり需要と供給による労働市場のミスマッチで新規の雇用機会がよけいに失われる懸念もあります。
仮に直接雇用しても必ずしも労働者の給料があがるとは限りません。先進国の2分の1でしかない日本の最低賃金の改正も同時に必要です。
 労働政策審議会職業安定分科会の労働力需給制度部会が8月28日開かれ、今後の労働者派遣制度の在り方の論点が示されましたが、日雇い派遣については、30日以内の労働者派遣を原則禁止としています。ただし日雇い派遣が常態且つ労働者保護に問題のない業務については政令によりポジティブリスト化することを求めているとあります。
 これに対し経済同友会は3日、与党、厚生労働省などが検討を開始している「日雇派遣の原則禁止案」に対する意見を発表、日雇い派遣原則禁止でも直接雇用にシフトできる保証はない、問題の解決には(1)派遣会社のコンプライアンス違反に対する厳格な処分(2)危険が伴う業務の日雇派遣の禁止(3)日雇派遣労働者への新たな支援制度の導入(4)職種別賃金開示の義務化、が求められるとしていています。
 厚生労働省は現状を理解せずにただ日雇い派遣を禁止するだけでは問題の解決にはつながりません。これまでの労働に対する改正法も現場を無視したものであったため労働者にとっては改善のないものばかりでした。

<政府の努力不足>
 年収200万円以下の低所得や不安定な日雇い派遣労働者などが直接雇用につなげるには、「しごと館」などをなくさずに、「ジョブ・カード」、ハローワークの「常用就職サポーター」制度などを提供するだけでなく、リカレント教育として日雇い労働者一人一人にカウンセリングしその人に必要な技術や苦手なパソコン取得など職業訓練を提供し新たな職業人生を生み出すところまで支援する必要があります。個人への対策ができてはじめて企業側の直接雇用や長期雇用につながります。まずは需要と供給のミスマッチの解消のための効果のある支援制度を行い、日雇い派遣禁止についても問題解決のために十分に議論して欲しいものです。