「道を知っているのにわざと少し遠回りした」「車の中がタバコ臭い」「運転が異常に遅く、やたらふらつく高齢な運転手」「疲れているのにプライベートまで質問攻めにされる」…。このように、タクシーを利用する時、イライラした経験はありませんか。けれども、日本のタクシーはまだまし。中国では、信じられないほどひどいマナーのタクシーに遭遇することが多々あります。
前回、中国人のビジネスマナーについて話をしましたが、未だに中国ではマナーに対する意識が全般的に高いとは言えません。そこで今回は、中国のタクシーマナーについてお伝えします。
日本でタクシーを利用していて、日頃から「運転が荒くて怖い」と感じる人は、中国ではさらに怖いと感じるでしょう。中国では、運転が荒いのは当たり前。特に渋滞が激しい道路では、タイミングよく「反対車線ぎりぎりにすり抜ける」「ルール違反の車線変更をする」といった危険な運転をするタクシーがごろごろいます。
これは、渋滞をすり抜け、危険行為をしてでもより多くの客を取りたいという運転手側の事情があります。実際、そうでもしないと稼げないのです。とはいえ、乗る側にとってはたまったものではありません。これはマナー以前の問題と言えます。
■ まるで幼稚園の注意書き
さらに驚くのは、車内にある注意書きです。中国のタクシーには、北京市交通局が提供する運転手に対する注意書きが、まるで幼稚園児に伝えるかのように書かれています。
・タクシーの中でタバコを吸うな
・タクシーの中でご飯食べるな
・タクシーの中で泊まるな
・タクシーの中でご飯食べるな
・タクシーの中で泊まるな
これだけならまだしも、
・歯を磨きましょう
・お風呂に入りましょう
・服を着替えましょう
・掃除をしましょう
・換気をしましょう
・消毒しましょう
・歯を磨きましょう
・お風呂に入りましょう
・服を着替えましょう
・掃除をしましょう
・換気をしましょう
・消毒しましょう
といった、子供の生活指導のようなことまで書かれています。歯を磨く、お風呂に入るといったことは、いくら何でも注意しなくていいように思えるのですが、これは基本的なマナーに対する意識を高く持ってほしいという労働者向けのメッセージなのです。
■ 窓から外に痰やつばを捨てる運転手
ほかにもあります。以前、衛生委員会が上海のタクシー4万5000台の運転手に小さなビニール袋を支給されました。これは、乗客が酔って吐いてしまいそうになった場合の、エチケット袋ではありません。実は、痰(たん)を捨てる痰袋です。
2010年の上海万博に向けてマナーを向上すべく、タクシーの窓から外に痰を飛ばす人を減らすために用意したようです。中国ではつばや痰をペッと飛ばす行為が普通に行われています。工場でもつばや痰を吐く姿の上に大きくバツが書かれたイラストが必ず貼られています。中国では、こういったつば・痰吐き行為を禁じていますが、なかなか守られていません。
しかし、つばや痰を吐きたくなる気持ちは分からなくもありません。空気の悪い中国では、埃が口に入って鼻がよくつまるので痰がたまりやすいのです。そして中国のタクシーは中古車ばかり。それも日本ではもう乗らないほどの古い車ばかり。運転手たちは、排気ガスが充満し、エアコンが効かない古い車の中で働いているのです。
だからといって、窓からつばや痰を吐くことが仕方がないとは思えません。外に捨てず、ハンカチやちり紙で取ればよいのです。ですが、日本の幼稚園や小学校で当たり前のように教えられてきたマナーを教えられていないのです。
■ ドアが壊れる危険性が
中国のタクシーは先ほど述べた通り、基本的に使い古しの中古車が一般的です。今は韓国製の中古車を導入してかなりましになりましたが、それでも日本では見かけないようなぼろぼろのタクシーをよく見かけます。
ドアのロックも壊れていることがあり、急ブレーキや衝突でドアが開いたり、ひどい時は外れたりすることもあります。猛スピードで走っている時にドアが開いたという話も聞いたことがあります。このため、古いタクシーに乗る時は、ドア横に座らないようにした方が賢明です。そういう時は、後部座席の真ん中の席に座ることを勧めます。
ビジネスマナーの研修で、タクシーの席次を習ったことがあると思いますが、中国ではこのマナーは無視しても構いません。ドアが万が一開いてしまった時のことを考えると、取引先や上司などと同乗する場合は、立場の上の人を後部座席の中央に誘導します。実際、中国の場合、「タクシーでお客様への最優先席は後部座席の真ん中」と考えている人が多くいます。
なお、バスも前の方の座席には座らない方がいいでしょう。中国では車の衝突事故によく遭遇するからです。私もバスの一番前に座っていた時、急ブレーキで体ごと前面のガラスに飛ばされそうになったことがあります。
マナーが行き届かない背景には、貧困な生活を余儀なくされている中国人が多いことがあげられます。生きていくのに必死で、教育やマナーにまで気を使えないのです。そういった環境が、日本人が当たり前だと思っているマナーを習得するのを妨げていると言えます。
最後に1つ、中国のタクシーでベテラン運転手を見分ける方法を紹介します。ドアを開けて車内に乗り込む時、そのタクシーの「運転手ナンバー」を確認してください。その数字が小さいほど、よく道を知っているベテラン運転手となります。人口の多い中国では、運転手ナンバーも桁が違います。例えば、ナンバー15321と255766では、15321の方がベテラン運転手です。
最近運転手になった人は地方出身者も多く、道がよく分からなかったり、都会での運転に慣れていない人もいるので、ベテラン運転手かどうか見極めてからタクシーに乗るといいでしょう。もし、運転手ナンバーを見て初心者運転手だと分かったら、乗らずに違うタクシーを探すとよいでしょう。最近は英語を話せる運転手も増え、マナーも少しずつ改善しているようですが、中国ではこういった事情を知った上でタクシーを利用するのが賢明です。