若い頃に飛び抜けて良い営業成績を出し、個人の能力で出世した管理職たちは、部下への教育、育成力が劣っていることが多々あります。これまで尊敬していた上司が管理職になった途端に力を発揮できずに色あせて見えたという経験を持つ人も少なくないでしょう。
部下を教育するよりも自分で仕事した方が何倍も早く終わるといった理由から、部下の教育に力が入らなくなるのかもしれません。
一方で、営業成績はそんなに良くないものの、組織力がある(=人間関係を良好に保てる)と評価されて昇進した人は、意外にも部下への教育力があり、うまく職場をまとめることができたりします。
実際、多くの日本人管理職は、個人の実力というよりは、組織の中での人間関係が昇進の大きなポイントになっています。
中国の場合は、顕著な能力重視型ですので、自分の実績や成果によって昇進します。どちらかといえば、「そもそも組織力など馬鹿馬鹿しい」という欧米型の観点で働いているため、中国人の管理職は部下の教育があまり上手ではありません。教育するというよりは、自らの判断力とカリスマ的な存在で部下をひっぱっていこうとします。
ここで、日中の管理職の主な違いを見てみましょう。
中国人の管理職は、
・自分のやり方で意思決定を行い、事実に基づき客観的な判断をする
・組織や上下関係など一定のルールの枠組みに縛られるのを嫌う
・自己の利益をできる限り合理的に追求する
といった傾向が見られます。
一方、日本人の場合は、
・無意識のうちに上下、横並びなど周囲との人間関係を大事にする
・周囲の人の感情に配慮しながら意思決定を行う
・会議などでは自分の意に反しても力のある人に対して同意することがある
・会社の規定、細かいルールなどにきちんと対応し、守る
・頻繁に転職するより安定した環境を好む
・合理的な利益の追求より、人間関係の調和を重視する
といった傾向があります。
■ 部下の顔色なんて伺わない
中国人の管理職は、優れた判断力とリーダー力が備わっています。職場の空気を読んで、部下の顔色を伺うことなどしません。部下に伝えるべきことは、どんなことでもはっきり言います。それがたとえ職場の雰囲気を多少悪くしてもです。
「部下の責任はすべて自分の責任」というようなかっこつけたことも言いません。自分も部下も、個々の責任は明確にします。
部下に対しての人間関係に気を使ったり、職場のトラブルに対して相談に乗るといった日本人の管理職がよくすることもあまりしません。それより、部署全体、個々の部下の利益が出せるように追求します。プライドの高い個人の主張を聞いていたら異論ばかりでまとまらないからです。
あくまで個人の能力を最大限に生かせるように工夫します。例えば、細かいスケジュールや日々の日記をつけさせたり、成果を細かく問いただすことはしません。大きな柱となる目標だけを掲げた後は、部下を信頼して細かい決定事項は任せます。
こうすることで、報告ばかりに時間を取られなくなり、部下もやる気が出てきます。結果として、時間を効率よく使えることにもつながります。
以前、私が中国人と仕事をしていた時、毎日細かい経理の数字を確認していました。私はよかれと思ってやっていましたが、その人は嫌な気持ちになっていたのでしょう。ある日、「私の仕事を信頼してないのか」と言ってきました。
その人は、私に数字の確認作業をすることよりも、リーダーとして大きな方向性を掲げてほしい、そして自分を信頼して見守ってほしいと思っていたようです。
■ 牽引力を見習う
転職率の高い中国においては、協調性を重視することより、個人ががむしゃらに働いてくれることの方が企業としてはプラスになります。このため、部下の育成力がない管理職であってもそれほど問題になることはありません。
日本人の管理職は、上にも下にも気を使いすぎなのかもしれません。職場の雰囲気を大切にする考えは、仕事をスムーズに進めることにもつながりますので、悪い考えではありません。ですが、上司であるならば、もっと中国の管理職のように力強く周囲を引っ張る力を見せてもらいたいものです。
日本企業では管理職能力に長けている人は少ないかもしれませんが、その分、研修に力をいれています。私は日中の管理職の良い点を見習って取り入れていけば、今よりもっと優れた管理職が生まれるのではないかと思っています。
日本人の管理職は、意思決定が苦手でリーダー的な存在としては頼りないと感じる人が多くいますが、周囲を気使う力には長けています。そういった長所を生かしたうえで、上司としての力を部下に見せ、信頼して仕事を任せることも大事です。