世界経済が低迷する中、中国企業の勢いが目立っている。力をつけている中国企業が、世界の資源を求めてここぞとばかりに海外進出を進め、買収は40ヵ国以上に及んでいる。
そのターゲットは、日本企業も例外ではない。中国にとって日本企業が魅力的なのは、製造業の技術力だけではない。昨年は、Kappaなどのブランドを展開するスポーツ関連メーカー「フェニックス」を、中国のスポーツメーカー「中国動向」が買収。株式保有比率は、中国動向が91%となった。
日本の不動産業界は金融危機のあおりで、破産した上場企業だけでも20社以上に上る。その中で昨年11月、日本最大の不動産ファンド、パシフィックホールディングスが中国企業数社から約475億円の資本注入を受け、注目された。すでに関東の一等地の多くを中国関連企業が牛耳っているともいわれているくらい、その勢いはとどまるところを知らない。
■ 海外による中国企業買収には独禁法を盾に一方的に拒絶
有り余る外貨準備高を放出したい中国企業による海外進出が進んでいる一方で、魅力的な中国市場を狙う米国企業に対して、中国政府は強固な姿勢を貫いている。
米飲料大手コカ・コーラが、中国国内の果汁飲料では最大手でブランド力もある「中国匯源果汁集団」の買収案に乗り出した。健康志向が高まる中国では、オレンジジュースなど果汁飲料の売れ行きが伸びている。13億人もの中国市場を狙ってコカ・コーラは昨年9月、発行済み全株式を総額約2300億円で買い取ることを提案、匯源も提案を受け入れ、中国商務省に独禁法に基づく審査を申請していた。
ところが、中国商務省は、「コカ・コーラが中国の果汁飲料市場の競争を激化させる」「市場の価格を吊り上げる恐れがある」「中小の果汁企業が倒産する懸念がある」などと指摘しはじめた。結局3月18日、中国商務省は昨年施行された中国の独占禁止法を理由に、米コカ・コーラ系企業が中国飲料メーカーの中国匯源果汁集団に対して行った買収提案を却下すると発表し、買収を認めなかった。世論からも「中国の代表的企業を外資に売り払うのか」などと反発の声も出ており、それに配慮したともいわれているが、結局、ナンバーワンでありたい中国政府と国民の面子も維持できたことになる。
つまり、昨年「独占禁止法」が施行された理由は、中国国内でせっかく成長した中国企業を守るためでもあったということだ。独禁法施行以来はじめてのケースとして、米国大手企業による進出を阻止したことになる。
これまでの中国経済は、税金の優遇制度などにより、外資企業の進出によって成長してきたが、これからは中国国内企業の存続、そして市場を守ることに必死になるといってもいい。
■ 中国による自国企業買収に各国政府がNOを言い出した
独占禁止法を施行した背景には、これまで米ドルによる世界一の外貨準備高を誇った中国が、欧米などに進出した際に、あからさまに断られたという経緯があった。
米国では、2003年、中国海洋石油が米石油会社ユノカルの買収戦略で失敗した例がある。ユノカル社に対して、中国は最大額の180億ドル以上での買収を提案したが、米国議会の強い反発により実現しなかった。
また最近では、中国の国有金属商社「中国五砿集団公司(ミンメタルズ)」がオーストラリアの鉱山会社「オージー(OZ)・ミネラルズ」に提案していた17億米ドルの買収案件について、今年3月、スワン豪連邦財務相が、主要銅山であるプロミネント・ヒル鉱山を買収資産から除外しない限り承認しないと表明した。プロミネント・ヒル鉱山はオーストラリアのアデレード北西にある銅山で、採掘現場の一部が軍の演習場にあたる。連邦財務相は「安全保障にかかわる地域への関与を制限するのは異例ではない」と述べている。
しかし、多額の債務があるOZミネラルズでは、13億豪ドルの返済期限を迎え債務不履行リスクに直面する。中国側に売却するしか選択肢はないのである。このように企業の意向を覆し、政府が中国の買収案件に反対するケースも増えている。
背に腹はかえられない倒産寸前の企業を金で救っても感謝されない中国企業は、80年代バブル期に海外企業を買い漁った日本企業と似ている。もっとも中国企業は、完全に民間企業になっていない移行段階にあり、相手国・企業にとってはパートナーにはなりにくい。殊に資源に対しては、中国政府の管理下にある企業による買収案件では、各国政府も放っておくわけにはいかないということになる。
中国がWTOに加盟して本格的に先進国の仲間入りをし、今後さらに中国経済が成長していけば、中国企業による海外買収に対して、その動向がますます世界から注視されるようになるだろう。