北京五輪でどの会場の売店、繁華街のマクドナルドに行っても不親切なことがあった。500mlのミネラルウォーターを10人分購入しても袋をくれない。腕に抱えて落ちそうになるのを必死で持っているというのに知らん顔。マクドナルドでは私の隣にいた欧米人が「なぜ手さげ袋くれないのか?」とわめきたてていたが、店員は「ない。手下げ袋などみたこともない」の一点張り。
やっと取り出してきたのが、薄い茶色のA4サイズほどの紙袋。昔、駄菓子屋などで買い物した時にもらった記憶がある、あの袋だ。また、五輪会場では、手さげ袋の代わりにと、ダンボール箱にパンと水を20個入れて無造作に差し出された。日本のスーパーで普通にもらっているビニール袋などはないのである。
■日本企業も12社が違反企業として公表
背景には深刻な資源不足がある。中国の経済成長が世界のエネルギー価格を高騰させ、結果的に中国国内での供給不足を招いているのだ。
中国エネルギーの最大の問題点は、火力発電所の7割が石炭に依存していることである。二酸化炭素の排出量が世界一という汚名も、エネルギー効率のよい石油への転換が進み、石炭消費が減れば少しは解決するというのに、今のところエネルギー改革は進んでいない。
中国の地方部にある石炭を使った火力発電所は、すでに日本ではみられなくなった旧式のひどい設備である。火力発電所の多くが地方に存在しているため、財政的に苦しく新型の発電所になかなか転換できないのだ。
その上、中国の今年上半期の国内石炭価格は、原炭、歴青炭、無煙炭の価格指数がともに2割以上上昇している。高すぎて火力発電所では石炭を買うことができず、電力の供給不足にまで陥っていた。北京五輪の最中は停電が起きないよう電力規制も行われていたのだ。
私の知人は精華大学で石炭の液化を研究していた。中国の石炭を液化し、世界に輸出しようとする試みであったが、資源の改革が進まないからと断念した。
■ 省エネを促進する政府と省エネに関心のない市民
そんな中、北京で行われたのが「適度な包装と資源の節約」の呼びかけだ。省エネ・環境保護のため包装をなるべく使わない。社会的責任意識を強め、商品包装を簡素化すること、を掲げている。デパートの化粧品売り場でクリームを買っても、そのまま梱包しないで渡されたことがある。
中国政府は、商品の過剰包装を抑制するため、わざわざ法律を制定した。包装されている資材の生産や使用規格を改め、さらに過剰包装に関する罰則規定を制定することも考えている。市民に対しては、過剰包装を通じて行われる販売詐欺行為を摘発するよう奨励し、各地の工商・品質検査・価格主管部門は司法検査を強化し、過剰包装での虚偽広告、不当価格設定、違法抱き合わせ販売などを厳しく取り締まるとしている。
国がこれほど力を入れる省エネだが、中国で個人的に省エネルギーなどに取り組んでいるという人に出会ったことがない。売店でも手さげ袋を使わない理由を聞いても「店の方針だから」などといい、「環境問題への取り組みだから」ということを知っている人はいなかった。
家電売り場には省エネタイプの製品は少なく、実際エアコンにおいては省エネ製品のシェアは1割もないという。日本ではエアコンなどの家電製品のうちすでに9割以上が省エネ化されているが、中国では3倍以上の値段となり、あえて省エネ製品を買う人は少ない。
個人に省エネ、節約の意識がないのは、政府にも原因がある。政府が電気代などの公共料金を非常に安く設定しているからである。ようやく7月から全国の電力販売価格を平均で0.025元/1KW引き上げた。また8月には全国の火力発電企業の送電網への電力販売価格を平均で0.02元/1KW引き上げた。しかし、このところの物価上昇率に比べると、節約を促すほどの値上げにはなっていない。今後、段階的に価格は上がることになるだろうが、個人消費の次元において、日本のように省エネ製品が浸透するには、10年はかかるだろう。
日本は省エネ意識は高い反面、過剰梱包をする代表的な国だといまだに言われている。一方、中国の場合は、包装は極端に過少だが、個人レベルの取り組みだけでは資源問題を解決する効果には乏しい。中国政府は個人消費に節約を強いる以上に、むしろエネルギー効率の悪い地方企業への対策を優先すべきである。特に二酸化炭素排出量の多い、石炭を使用した地方の火力発電所の設備の改善に全力をあげるべきであろう。