数年前、私が大学院でMBAを取得している時、一番興味があったのがHRM(ヒューマンリソースマネジメント)でした。外資系企業から日本企業に転職した私は、年功序列型の日本企業の組織にどうも馴染めませんでした。
最近では日本の企業の多くで年功序列型の考え方が薄れ、成果主義の導入を試みていますが、現実に成功している例はそれほど多くありません。けれども、中国では欧米型の成果主義が企業で深く浸透しました。
中国は日本と同じように主に儒教文化です。職場では、年長者の上司に対しては絶対的な服従をするように思われがちです。けれども、実際は違います。年齢は関係なく、自分の意見を強く表現したり、能力で人を判断したりします。まさに個人主義、能力主義なのです。
中国では28歳から38歳の若年層の所得が48歳以上の中年層の所得を上回っています。さらに、30代で起業するグループと新中間層(文化大革命の影響を受けずに大学を卒業したキャリア志向)が年々増えています。「自分より学歴のない年上の層を追いこしたい」と考える若手が多く、その方法として「成果主義」を支持しています。上海の新中間層では、9割が成果主義を支持しているといいます。
中国企業は成果主義を求める社員に応えるように様々な制度を設けています。
■ 毎年下位の成績10%をリストラするハイアール
ここでは、ハイアールの一例を紹介しましょう。ハイアール(Haier Group、海爾集団)は青島に本社を置く白物家電メーカーで、日本では三洋電気と提携し、一人暮らし用の小型冷蔵庫を市場に展開している企業です。
ハイアールでは、社員のモチベーションを上げるために「三工制度」を用いています。社員を能力や成果によって「優秀」「合格」「試用」社員に分けるものです。一度「優秀」社員になっても、成績が悪くなると「合格」に落とされることもあります。
「末位淘汰・1010原則」という制度もあります。毎年10%の優秀社員を表彰するとともに下位の10%を淘汰(リストラ)するというシステムです。これによって過去の栄光だけにしがみついている年配者に緊張感を持たせることができ、新入社員でも結果さえ出せれば昇進できると感じさせることができます。
例えば、大学卒業後に工場長などの経験を積んだ柴永森氏は、39歳の若さで「赤字から黒字に転換させた実績」などを買われて副社長に昇進しました。成果主義を積極的に活用しているハイアールは、上層部の年齢が非常に若いのが特徴的です。
■ 「イルカ式昇進制度」を実施
ハイアールでも、いきなり若さや期待度だけで昇進させるようなことはしません。けれども、ハイアールは人材の適性による早期発見や人材の選抜に力を入れています。そのために試みているのが「イルカ式昇進制度」です。
イルカは海の中を深く潜れば潜るほど高くジャンプできます。職場でも、まずは現場で十分に経験を積んで、現場を理解し、まとめる力ができないと管理職にはなれないということです。こういった考えをもつ「イルカ式昇進制度」では、例え管理職としての採用した社員でも、まずは現場で十分な経験を積ませます。
現場を十分に把握できないうちは、管理職としての責任は持てません。現場の理解と責任感が備わり、それが評価されてはじめて事業部の責任者として昇格させるのです。現場での体験を通して初めてイルカになれるのです。
中国企業ではこのようにホワイトカラーの管理職は、公正で公平であることに重きを置いています。加えて、モチベーションが上がるように、実績に基づく処遇をつける賃金形態が多く採用しています。
「エンプロイアビリティ」も重要視されます。これはEmploy(雇用する)とAbility(能力)を組み合わせた言葉で「雇用され得る能力」として日本でも注目されています。転職における自分の人材価値を示し、同時に同じ会社で必要とされる継続雇用可能性の高さとして評価もされます。
団塊の世代の大量退職とともに労働市場も変化しつつあります。日本でもリクルートなどが用いている目標達成による評価を支持する若手社員が増えています。今後、さらに成果主義を求める声が高まると、ハイアールなどの中国企業の評価制度や人的資源管理などがより一層注目されることでしょう。