酸性雨の原因物質の主犯のひとつである二酸化硫黄(SO2)の排出量は中国が世界一だ。二酸化硫黄による呼吸器系障害で死亡した例も報告され、環境破壊はますます深刻化している。酸性雨の原因である大気汚染は日本だけでなく米国にまで影響を及ぼしている。
二酸化硫黄の排出量が多い原因は、中国が石炭火力発電に依存しているため、と前回書いた。今回は、その火力発電所の実態についてレポートする。中国では多くの火力発電所が燃焼効率の悪い、大気環境に悪影響を及ぼす旧式の設備である。
中国電力企業連合会の統計データによると、2007年末現在、中国の発電設備容量は7.13億kW。発電電力量は2008年上半期(1~6月)はすでに1兆6,803億kWhで北京五輪中も電力不足にならないように調整していたほど常に停電が起きる。火力発電所とその発電設備が中国の大気環境を破壊している。
一方、2008年上半期の中国の電力消費量は、1兆6,908.63億kWhで前年同期比11.67%増加したが、不足している。一見、大幅な増え方に見えるが、それでも増加幅は緩やかになっている。現在、この数値は、米国に次ぐ世界第二位の規模。製造業を中心に拡大する中国経済の大きさとエネルギー効率の悪さが、この数値を押し上げている。
硫黄酸化物(SOx),窒素酸化物(NOx)などが、大気中の水蒸気と反応して酸性雨を降らしている。AP社によれば「中国の大気汚染は米国へ向かう途中、日本と韓国に酸性雨を降らせ、さらに石炭を生産する山西省太原から米国までの通過地区に健康問題をもたらしている」という。
硫黄酸化物など二酸化硫黄の大量の排出源は、小規模火力発電所。その多くは平均出力容量が5万kWを下回る程度だが、燃焼効率は悪く大気汚染の原因となっている。酸性雨の抜本対策となる石炭火力発電所への脱硫装置の設置や、天然ガスへの転換が早急に求められているが、それが進まない背景には中国の経済的な構造問題がある。財政難に陥っている地方に存在している火力発電所の再編も買収も進まず、新しい設備の導入が思うように進まない。
■政府が脱硫設備装置を義務付け
そこで中国政府は、北京五輪前に集中的に小型火力発電所の閉鎖を進め、ついに今年1月から5月までに閉鎖された火力発電所が800基以上、合計設備容量で600万kW近くにのぼった。そのうち石炭火力が4割を占めている。さらに設備においても政府は改善を促している。
1998年の国務院見解、2000年の大気汚染防止法は、新設の発電所に硫黄酸化物を除去する機能のある排煙脱硫装置の設置を義務付けたほか、2010年までに既存の発電所にもこの装置の設置を義務付けた。2003年、環境保護総局と国家発展・改革委員会が、この二酸化硫黄の排出量が多い石炭火力発電所に対し「二酸化硫黄放出抑制策」をとることをも指示した。この中には罰則をもって対処するほどの厳しい規定も定めている。
また2004年には、環境保護総局と国家品質監督検査検疫局が、火力発電所大気汚染物質排出基準(強化改定)を策定した。こういった政策が追い風になりながら火力発電所において脱硫装置の導入が促進されている。全国環保庁局長会によると、脱硫設備導入済みの火力発電機の割合は2006年から2年間で45%までアップしたとしている。
■中国の脱硫装置ビジネスの課題は価格の壁
では、脱硫装置のビジネス事情はどうなっているのか。最近では、荏原製作所が現地子会社を拠点として中国の環境事業を展開。山東省にある青島荏原環境設備有限公司では最高級であるA級レベルのボイラの設計製造資格を取得、小型ボイラのほか、大型ゴミ焼却炉、ボイラ分野にも進出している。北京市政設計院とのコンソーシアムで受注したもので、アモイ向けストーカー焼却施設に関するプロセル関連機器納入契約を結んだ。
一方、中国企業では、排煙脱硫装置製造販売の「北京博奇電力科技有限公司」(チャイナボーチ)が2002年6月、中国5大電力会社である国華電力の系列会社として設立された。チャイナボーチは中国の排煙脱硫、脱硝など環境保全事業を展開している会社で、2007年8月8日には日本の東京証券取引所一部市場に上場したことで注目を浴びた。中国国内で主流の600メガW級の石炭火力発電所ではシェア1位で、設立から5年で約40件の排煙脱硫装置を受注した。
そのチャイナボーチは2003年川崎重工業から技術供与を受けた。そして2005年にカワサキプラントシステムズが分社して契約を継承している。カワサキプラントシステムズの技術は、日本の高度成長期に大気汚染が深刻化、火力発電所への排煙脱硫装置の設置が義務化された時代から、日本国内の発電所に導入されてきた30年の歴史がある。
最近は、中国で省エネビジネスとして、セメント製造の予備焼成工程で発生する排熱をボイラで回収して蒸気を発生させ、タービンを回して発電する装置を販売し、3年間で64基も受注、合弁会社の2007年の売上高は500億円に上っている。
北京事務所で取材した日本貿易振興機構(ジェトロ)北京センターの真家陽一次長は、中国進出の日本企業について、「進出企業は製造業から非製造業に移りつつある。中国側からは日本企業の製品は質は高いけど値段も高いという意見をよく耳にする。そこで日本で需要が減少している技術を中国でビジネスチャンスにしたのがカワサキプラントシステムズ」と話す。
ただ、環境ビジネスにかかわる日本企業が、必ずしも同社のように成功しているわけではない。ビジネスチャンスはあると思われるが、実際には採算が取れないという日本企業も多い。「技術力のある日本企業と提携し、日本の先進技術を導入できれば中国の大気汚染や公害を減らすことができる」と中国企業は考えているものとみられる。今、日本企業は、中国政府による環境対策の強化を、適正利潤が確保できる環境ビジネスにどう生かせるかが問われている。