現役という言葉にしがみつく
 Kフランチャイズ株式会社の平均勤続年数はたった10年。10年間勤務した場合の退職時にもらえる金額は約200万円。つまりこの会社の平均の退職金は、200万円ということになる。
 「他の外食産業では、退職金を支払わない会社も多いようだから、800万円の退職金はマシなほうなのだろう。
 というのは新卒から30年間、社員としてKフランチャイズ株式会社で働いている小林伸幸さん(52)。
 外食産業では、社員を多くとらずにアルバイトや派遣社員を採用する傾向にある。たとえ長く働いても、本部の管理職の空きポストが不足しているため、なかなか出世しない。
 「定年まで働いた場合でも退職金は、部長職で800万円もらえる。だけど、同期や先輩がほとんど残っていないんだよ。ライバルを蹴落として、なりたくもない会社人間になって、辛くても会社を辞めずにしがみついてやっともらえる金額だからね」
 現在の年収は750万円だが、小学生の娘がいる。結婚が遅かったのに加えてなかなか子どもが出来なかったそうだ。だから目に入れても痛くないとのこと。
 「ちょうど定年を迎えたころに娘は20歳になる。俺は、娘は大学には行かせなくていいと思っているけど、妻は短期大学くらいには行かせたいと言い張っている。3年前から妻の月収30万円から毎月学費のために3万円ずつ貯金しているようだけどね。俺もせめて結婚式と新婚旅行の資金くらいは出してあげるつもり」
 通常の夫婦とは逆のようだ。進学を考えていないためか、『夫が教育資金を貯めるべき』という考えは全くないようだ。
 「最近は結婚式を挙げない若者も多いから、そのときは俺の定年旅行にする」と、オーストラリアドルを貯金している。2年前の4月に始めたときは1ドル約74円が今は約86円。為替レートだけ計算すると1ドル約12円の資産が増えたそうだ。1万ドル(当時約74万円)で買ったので約12万円得したと自慢している。あと8年続けるそうだ。
 子どもが小さいせいか、小林さんが若く見えるせいか、自分が定年を迎えること、自分が老いていくことを全くイメージしていない。
 「退職金は生活費として貯金する。でも、どんなことをしても俺は現役でい続けるよ。退職してもどんな労働でもいいから、仕事を選ばずに毎月10万円分は働くよ。社会につながっていたい。現役を終わると人生枯れてしまうんだよ」
 ルックスのいい小林さんは、しきりに現役という言葉にしがみついていた。
 娘がたとえ進学しなくても、働き続けなければ800万円の退職金では少なすぎる。体力には自信があり、プライドも高くない。雇われやすい性格だけが幸いなのかもしれない。
 
お小遣い
 外食業界のメリットはランチ代がほとんどかからない。3分の1以下で食べられる。それに小林さんは給料から差し引きにしてあるからお小遣いから減らなくてすむ。
 唯一の楽しみは「妻と娘が寝た後、夜中、一人でCDを聴くこと」。CDは、QUEENなど70年代の洋楽が中心。
小林さんのお小遣い帳

     
月額   3万円
CDレンタル390円X5回 1950
  CD(QUEEN) 2900
飲み代5500円X4回 22000
  週刊新潮300円X4回 1200
  その他使途不明金 2000
収支   30050