経済成長の足かせ少子化対策本腰を
 安倍晋三官房長官がポスト小泉の座を射止める公算が大きくなったが、安倍氏が看板の一つに掲げている「再チャレンジ可能な社会づくり」に注文をつけたい。
 たとえば具体的な政策として検討されている中小企業への融資拡大は一見、いい試みに映るが、倒産後の再起業を応援するという制度は内容を相当煮詰めないと、経済の活性化どころか悪用されかねない。
 企業が倒産の手続きをとれば、下請け会社や営業先など取引先への支払を滞らせることができる。しかし倒産後、また再起業したいという企業を支援する安倍氏の発想は、起業も倒産も増加させ、日本独自の企業文化、企業倫理を崩壊に導く懸念がある。
 安倍氏は中小企業金融公庫や国民生活金融公庫などを活用する考えも示しているが、具体的な規制や対策を十分に含めないと簡単に起業し、簡単に倒産させるといった企業文化が芽生えるのではないか。経済大国として今、もっとも恐れなくてはいけないのは企業倫理の崩壊だ。
 また、少子高齢化に伴う労働者不足は、深刻な経済成長の足かせになるだけに、次期政権は少子化対策に本腰を入れるべきだ。私がかつて住んでいたシンガポールでは政府が2001
年、第2 子、3 子だけに支給しいていた出産奨励金を第1 子、4 子にも支給するなどの政策を打ち出した(最大で第1
子が約20 万円、第2 子約60 万円、第3・4 子が120 万円)。
 シンガポールより物価水準の高い日本が月額数千円の手当てを支給する小手先の政策ではなく、保育所設備の充実なども含め、実際に役立つ効果的な政策を打ち出すことが必要だろう。
 一方、日本外交にいま求められているは外国への「やさしさ」だと思う。それは相手の言いなりになることではなく、したたかになるということだ。卓球の福原愛さんが中国のテレビでアナウンサーの質問に泣いたら視聴者がアナウンサーに抗議し、視聴者を味方につけた。日本の外交も、アジアに強硬な姿勢で臨むだけではなく、押したり引いたりする必要があるのではないか。(談)

生活経済ジャーナリスト柏木理佳
かしわぎ・りか昭和43 年生まれ、鹿児島県出身。豪エドワード大(現テイラー大)経営
学科修了。豪ボンド大学院MBA取得。キャセイパシフィック航空客室乗務員、NHK契
約アナウンサーなどを経て、現在はコメンテーター、講演などの活動を続けている。
2006 年9 月19 日産経新聞掲載