北京大学を受験する息子のために、地方の戸籍をわざわざ北京に移した家族がいた。得点で競い合う大学受験に戸籍など関係ないと思われるかもしれないが、中国では都市部の戸籍を持っている学生の方が有利になる。不公平な受験制度になっている。

 中国の教育過熱は日本以上であることは有名だが、中国青少年センターの調査によると、9割以上の小中学生の父母が大学進学を具体的に考え、そのうちの5割以上が博士課程まで進ませたいと考えているという。

 実際、2001年に400万人余りだった大学受験の志願者数は、2007年では1010万人に急増し、過去最多を記録した。2006年の中国の大学進学率は22%。大学進学率は今後も増える見通しで、2010年は25%、2020年には40%に達するという。

 このように中国の受験熱は高まる一方だが、問題もある。

 中国は日本のセンター試験と同様に全国で統一試験を実施しているが、合格ラインが受験生の戸籍によって違うのだ。同じ点数を取った受験生の場合、都市部に戸籍がある学生のほうが有利になる。例えば、北京大学の受験生なら、北京市に戸籍がある受験生は584点取れば合格なのに、天津に戸籍がある受験生は616点取らなければならない(新浪ネット「2007年高考」)。

戸籍の違いによる不平等がまかり通っている背景には、都市部に住んでいた人たちが地方出身者たちに仕事を奪われている現状がある。

 バブル景気が続いている間は、都市部への出稼ぎ労働者が増えても問題ないが、バブルが崩壊すれば、都市部の失業率は一気に高まる。中国政府は、この都市部の失業率の悪化を懸念している。出稼ぎ労働者だけでなく、都市部の企業に就職するであろう大学生に関しても、できるだけ地方出身者を減らしたいと考えているのだ。

 一方で、地方出身者の子供を援助する動きもある。中国政府は、経済成長を維持するために、優秀な地方出身者を研究開発者や技術者に育てる取り組みを進めている。広東省では、農村出身者の高級技能者には都市部の戸籍を与えて大学進学を促進。江蘇省でも特に優秀な技能者に政府が助成金を与える制度を設けている。

 とはいえ、やはり多くの地方出身者は受験に不利だ。だから子供の親は必死になり、都市部に戸籍を移してまで子供を都市部の大学に通わせようとする。中国の戸籍制度は特殊で、都市部に戸籍を持つには、親が一定の条件を満たした企業に就職するか、莫大な金額の不動産を買い付けたりしないと政府に承認されない。

 「自分たちのような貧困な生活をさせたくない」。子供の将来のために親はどんな努力も惜しまない。不平等な受験制度であっても、現状を受け入れるしかない。格差社会の厳しさから抜け出すために、親子は必死で超競争社会で生き抜かなければならない。