柏木理佳(嘉悦大学)メールアドレス iwrikaa@d3.dion.ne.jp
報告論題:中国と日本おける人的資源の比較検討―相違と類似
報告要旨
1.はじめに
米国発金融危機にともない貧富の格差は拡大、新卒採用の就職率も悪化し女性労働者へのしわ寄せも増加している。しかし、その傾向は経済成長を維持している中国のほうが強い。すでに数年前から厳しい就職環境にある中国では、生涯働くことを念頭にいれた自分に厳しい就職活動をしている女子が多いだけでなく、日本の大学生には少ない、具体的になりたい職業まで明確にしている学生が多い。すでに大学生の時点でキャリア形成において日中の差がうかがえる。また日本の場合、大学時代にともなうキャリア形成が未熟であるために、社会人としてのリカレント教育の不足も就職活動だけでなく転職活動や職業選択においても影響を与えていることも指摘せざるをえない。
2.中国における人的資源の現状
改革開放以降、中国の経済は著しく発展し、政府の誘致政策により多くの外資系企業が中国国内に投資した。安い人件費と巨大な市場に魅力を感じて世界各国から多くの企業が中国に進出した。近年では中国企業も対外投資として南アフリカや欧米、日本など海外に進出するようになり、世界中の企業にとって脅威にさえ感じる存在にまでなった。
近年では、企業のグローバル化、ボーダーレス化が進んでいるなか、日本企業、欧米企業だけでなく海外進出が増加している中国企業にとっても、外国人の人的資源の活用の仕方が注目されている。日本においては少子化にともない外国人労働者の受け入れが増加傾向にある。企業のグローバル化だけでなく、世界的な人材の流動によって、人種を問わず多様な人材を経営資源として最大に活用しなければならない時代に突入している。多国籍企業だけでなく、人材の雇用と人的資源の育成が企業にとって重要な課題となっている。
現在、中国は有り余る労働力があるが、世界に通用するグローバル化された管理能力や技術力のある人材はいまだ不足している。中国国内では外資系企業の参入と民間企業が増えており、企業間の人材獲得の競争が激化している。中国では優秀な能力で、企業が必要とする技術力もある人材は、一部のホワイトカラーに集中しているのが現状である。数年間単位で転職を繰り返す傾向の中国人労働者がもたらしている雇用の流動化は、企業にとっては非効率性を高めている原因にもなっている。中国の雇用システムの構築がされていないなか、需要と供給のバランスの崩れは、企業の人事管理とともに重要な経営課題となっている。
3.中国政府による政策の影響
また、中国においては人材、人的資源の確保は政府による政策の影響も大きいといえる。たとえば海外の大学で留学、技術を獲得した中国人に対して帰国を促進する政策を促している。日本や欧米で大学を卒業後、中国国内に帰国し技術開発などの関連ビジネスにおいて起業すれば助成金を支援するなど、政府は将来の国力となる技術者へ確保に力を入れている。中国国内において優秀な人材の確保は技術獲得を拡大、普及することにつながるため、技術力のある人的資源を中国から流出させないために必死なのである。将来の国力につながるこの政策によって海外で留学後、在留し就職する人の割合が多かったのが、中国に帰国する道を選択する留学生が増加している。
4.成果主義型雇用システムを取り入れた中国企業の現状と問題点
~ハイアールの例~
民間企業、外資系企業の進出とともに国有企業の改革が進んでいるとはいえ中国型雇用システムの構造が根強いなか、中国企業のなかには新しい雇用システムを生み出した企業もある。欧米型の成果主義型雇用システムをとりいれたのがハイアール社の事例である。雇用形態、賃金などの面で欧米の成果主義型雇用システムは、個人主義が強い中国において受け入れやすかったともいえる。またハイアールの海外進出においてもグローバル化とともに成果主義型雇用システムは適応しやすかった。
しかし、中国においても人的資源の活用、対策が十分とはいえない。中国企業による南アフリカ進出においては現地採用者への不適切な対応や、現地での採用より中国人労働者を流出させることなどによって現地の雇用を喪失させた。日本においては九州など地方に存在する技術のある企業の買収問題、資源獲得のための米国石油企業の買収問題においても、人的資源にも問題点が残されている。
5.日本型雇用による経営システムの現状と問題点
一方、日本企業は高度成長時代、優秀な技術力とチームワーク、組織力によって高い生産性を上げ、世界の経済大国になった。人材の獲得と新卒から研修に力を注ぐ日本式経営による育成システムが、日本企業を発展させた背景でもあった。
しかし、激化する人材の流動化にともないグローバル化という雇用システムにおいては日本企業においても決して成功しているとはいいきれない。変化を嫌う傾向にある日本的経営システムは国際競争の中でコスト要因の側面をもたらしているともいえる。団塊の世代の大量退職にともない熟練の技術の形成が崩れ、伝承の促進が崩壊しつつある
一方で、人件費のかさばる中高年の賃金を支払えない企業側の困難もある。高度経済成長期に日本型雇用システムは有効に活用されていたが、近年の経済環境の変化とともに多くの問題を生じている。多くの日本企業では、社員の能力主義、成果主義を考慮しながらも完全に欧米型の成果主義型の雇用システムに移行していない段階にある。そんななかでキヤノンにおいては終身雇用を基盤におきながらも成果主義もとりいれた企業といえる。
またWTO の加盟にともない中国における外資系企業の競争は激化しているなか、日本企業だけが人材の現地化に遅れている。中国進出企業として多くの外資系企業が存在するなかで、現地での採用方法、雇用システム、昇進方法などが日本企業の不人気の原因となっている。日中両国企業にとって長期的な友好関係を持続し成長することも大事である。そのため日本企業が中国において企業活動を行うために必要な人材育成、雇用の問題においての改善点も認めざるを得ない。グローバル化が進む日中両国の企業において、人材を有効に活用していくためのさらなる対策も必要である。
6.日中企業の人的資源管理における類似点と相違点
日中の企業間において類似点として中国国有企業では日本企業と同じように定年までの長期安定雇用が実施されており、日本の終身雇用に似た雇用慣行制度をとっていた。しかし、近年の民間企業や外資系企業の進出とともにこれまでの長期雇用制度は現実的ではなくなり成果主義型に移行している。企業も雇用の流動化を促進するような体制になり、日中両国の企業間では大きな違いが出てきている。
他方、相違点では採用段階において日本企業では新卒採用が中心になっているが、中国企業は欧米型と同様に中途採用を中心にしている。経験のある人を中途に採用することが一般的であり、新卒から研修期間を経て育成するという日本企業型のシステムとは違う。採用方法においても中国企業は欧米と同じ成果主義を重視しているといえる。同様に中国企業の賃金体制は資格や技術、昇進にともない上昇するが、勤続年数や年齢にともない自動的に上昇する日本企業型の賃金制度はほとんどない。異動.配置、昇進においても、実績を中心に検討している中国企業側と、人間関係や派閥を強く意識する日本企業側の方法は違う。
また、市場経済に移行しつつある中国において特徴的なのは、中国人は給料の高い企業に頻繁に簡単に転職する傾向が強く、拝金主義があらわれているといえる。しかし日本の高度成長時代には日本人は年功序列型にともない転職を意識する傾向はあまり強くみられなかった。
7.日中企業による国際人的資源管理の現状と問題点
国際人的資源管理においては、日中両国の企業ともに進出先の国において労働市場や雇用システムのあり方、人材の管理においては、欧米企業と比較してすぐれているとはいいきれない。
中国企業による海外進出においては企業の進出とともに現地採用より有り余る中国人労働者をともに移動させる傾向にある。中国企業は、現地の労働者との関係より目先の利益を追求する傾向にあり、人的資源が十分にうまく活用しているとはいえない。
日本企業の海外進出においては現地採用の担当者の職務内容、権限、責任があいまいであり、モチベーションをあげられないという問題がある。欧米企業に比べ経営管理において柔軟性がないことから、日本企業の現地化の遅れがともなっている。日本企業が中国に進出する際、コーディネーター的な能力や役割だけではない日本人社員の管理や技術の能力が求められる。また現地採用においての人材の育成とともに管理システムそのものの変化も求められている。
また中国に進出している日本企業は、経営、労務管理などの多くの問題をかかえている。日本的経営を中心とする労務管理や社内制度は、中国に進出したとき、パートナーである中国企業と比較して、現在の中国の社会経済システムに適用しているとはいいがたい。
世界的な金融危機にともない経済が低迷するなか、順応性に欠ける旧式の日本式経営管理における人的資源管理、労務管理などは、コスト削減を視野にいれながら改革する時期にきているともいえる。
8.結論
本論では、グローバル化が進む中で経営活動を進める日中両国企業の人的資源管理の現状や問題点、人材の育成にともなう企業の対策を分析する。一方、個人のキャリア形成においては、社会人としての転職、リカレント教育はすでに大学生活におけるキャリア形成によって、大きな差がでており、それは社会人になってからも大きく影響していることを言及する。
また中国進出している日本的経営を中心とする労務管理や社内制度は、現在の中国の社会経済システムに適用しているとはいえないが、一方、市場経済に完全に移行していない中国で、中国は政府の政策によって人材の確保、人的資源をコントロールしている現状と問題点を検討し若干の示唆をする。
報告論題:中国と日本おける人的資源の比較検討―相違と類似
報告要旨
1.はじめに
米国発金融危機にともない貧富の格差は拡大、新卒採用の就職率も悪化し女性労働者へのしわ寄せも増加している。しかし、その傾向は経済成長を維持している中国のほうが強い。すでに数年前から厳しい就職環境にある中国では、生涯働くことを念頭にいれた自分に厳しい就職活動をしている女子が多いだけでなく、日本の大学生には少ない、具体的になりたい職業まで明確にしている学生が多い。すでに大学生の時点でキャリア形成において日中の差がうかがえる。また日本の場合、大学時代にともなうキャリア形成が未熟であるために、社会人としてのリカレント教育の不足も就職活動だけでなく転職活動や職業選択においても影響を与えていることも指摘せざるをえない。
2.中国における人的資源の現状
改革開放以降、中国の経済は著しく発展し、政府の誘致政策により多くの外資系企業が中国国内に投資した。安い人件費と巨大な市場に魅力を感じて世界各国から多くの企業が中国に進出した。近年では中国企業も対外投資として南アフリカや欧米、日本など海外に進出するようになり、世界中の企業にとって脅威にさえ感じる存在にまでなった。
近年では、企業のグローバル化、ボーダーレス化が進んでいるなか、日本企業、欧米企業だけでなく海外進出が増加している中国企業にとっても、外国人の人的資源の活用の仕方が注目されている。日本においては少子化にともない外国人労働者の受け入れが増加傾向にある。企業のグローバル化だけでなく、世界的な人材の流動によって、人種を問わず多様な人材を経営資源として最大に活用しなければならない時代に突入している。多国籍企業だけでなく、人材の雇用と人的資源の育成が企業にとって重要な課題となっている。
現在、中国は有り余る労働力があるが、世界に通用するグローバル化された管理能力や技術力のある人材はいまだ不足している。中国国内では外資系企業の参入と民間企業が増えており、企業間の人材獲得の競争が激化している。中国では優秀な能力で、企業が必要とする技術力もある人材は、一部のホワイトカラーに集中しているのが現状である。数年間単位で転職を繰り返す傾向の中国人労働者がもたらしている雇用の流動化は、企業にとっては非効率性を高めている原因にもなっている。中国の雇用システムの構築がされていないなか、需要と供給のバランスの崩れは、企業の人事管理とともに重要な経営課題となっている。
3.中国政府による政策の影響
また、中国においては人材、人的資源の確保は政府による政策の影響も大きいといえる。たとえば海外の大学で留学、技術を獲得した中国人に対して帰国を促進する政策を促している。日本や欧米で大学を卒業後、中国国内に帰国し技術開発などの関連ビジネスにおいて起業すれば助成金を支援するなど、政府は将来の国力となる技術者へ確保に力を入れている。中国国内において優秀な人材の確保は技術獲得を拡大、普及することにつながるため、技術力のある人的資源を中国から流出させないために必死なのである。将来の国力につながるこの政策によって海外で留学後、在留し就職する人の割合が多かったのが、中国に帰国する道を選択する留学生が増加している。
4.成果主義型雇用システムを取り入れた中国企業の現状と問題点
~ハイアールの例~
民間企業、外資系企業の進出とともに国有企業の改革が進んでいるとはいえ中国型雇用システムの構造が根強いなか、中国企業のなかには新しい雇用システムを生み出した企業もある。欧米型の成果主義型雇用システムをとりいれたのがハイアール社の事例である。雇用形態、賃金などの面で欧米の成果主義型雇用システムは、個人主義が強い中国において受け入れやすかったともいえる。またハイアールの海外進出においてもグローバル化とともに成果主義型雇用システムは適応しやすかった。
しかし、中国においても人的資源の活用、対策が十分とはいえない。中国企業による南アフリカ進出においては現地採用者への不適切な対応や、現地での採用より中国人労働者を流出させることなどによって現地の雇用を喪失させた。日本においては九州など地方に存在する技術のある企業の買収問題、資源獲得のための米国石油企業の買収問題においても、人的資源にも問題点が残されている。
5.日本型雇用による経営システムの現状と問題点
一方、日本企業は高度成長時代、優秀な技術力とチームワーク、組織力によって高い生産性を上げ、世界の経済大国になった。人材の獲得と新卒から研修に力を注ぐ日本式経営による育成システムが、日本企業を発展させた背景でもあった。
しかし、激化する人材の流動化にともないグローバル化という雇用システムにおいては日本企業においても決して成功しているとはいいきれない。変化を嫌う傾向にある日本的経営システムは国際競争の中でコスト要因の側面をもたらしているともいえる。団塊の世代の大量退職にともない熟練の技術の形成が崩れ、伝承の促進が崩壊しつつある
一方で、人件費のかさばる中高年の賃金を支払えない企業側の困難もある。高度経済成長期に日本型雇用システムは有効に活用されていたが、近年の経済環境の変化とともに多くの問題を生じている。多くの日本企業では、社員の能力主義、成果主義を考慮しながらも完全に欧米型の成果主義型の雇用システムに移行していない段階にある。そんななかでキヤノンにおいては終身雇用を基盤におきながらも成果主義もとりいれた企業といえる。
またWTO の加盟にともない中国における外資系企業の競争は激化しているなか、日本企業だけが人材の現地化に遅れている。中国進出企業として多くの外資系企業が存在するなかで、現地での採用方法、雇用システム、昇進方法などが日本企業の不人気の原因となっている。日中両国企業にとって長期的な友好関係を持続し成長することも大事である。そのため日本企業が中国において企業活動を行うために必要な人材育成、雇用の問題においての改善点も認めざるを得ない。グローバル化が進む日中両国の企業において、人材を有効に活用していくためのさらなる対策も必要である。
6.日中企業の人的資源管理における類似点と相違点
日中の企業間において類似点として中国国有企業では日本企業と同じように定年までの長期安定雇用が実施されており、日本の終身雇用に似た雇用慣行制度をとっていた。しかし、近年の民間企業や外資系企業の進出とともにこれまでの長期雇用制度は現実的ではなくなり成果主義型に移行している。企業も雇用の流動化を促進するような体制になり、日中両国の企業間では大きな違いが出てきている。
他方、相違点では採用段階において日本企業では新卒採用が中心になっているが、中国企業は欧米型と同様に中途採用を中心にしている。経験のある人を中途に採用することが一般的であり、新卒から研修期間を経て育成するという日本企業型のシステムとは違う。採用方法においても中国企業は欧米と同じ成果主義を重視しているといえる。同様に中国企業の賃金体制は資格や技術、昇進にともない上昇するが、勤続年数や年齢にともない自動的に上昇する日本企業型の賃金制度はほとんどない。異動.配置、昇進においても、実績を中心に検討している中国企業側と、人間関係や派閥を強く意識する日本企業側の方法は違う。
また、市場経済に移行しつつある中国において特徴的なのは、中国人は給料の高い企業に頻繁に簡単に転職する傾向が強く、拝金主義があらわれているといえる。しかし日本の高度成長時代には日本人は年功序列型にともない転職を意識する傾向はあまり強くみられなかった。
7.日中企業による国際人的資源管理の現状と問題点
国際人的資源管理においては、日中両国の企業ともに進出先の国において労働市場や雇用システムのあり方、人材の管理においては、欧米企業と比較してすぐれているとはいいきれない。
中国企業による海外進出においては企業の進出とともに現地採用より有り余る中国人労働者をともに移動させる傾向にある。中国企業は、現地の労働者との関係より目先の利益を追求する傾向にあり、人的資源が十分にうまく活用しているとはいえない。
日本企業の海外進出においては現地採用の担当者の職務内容、権限、責任があいまいであり、モチベーションをあげられないという問題がある。欧米企業に比べ経営管理において柔軟性がないことから、日本企業の現地化の遅れがともなっている。日本企業が中国に進出する際、コーディネーター的な能力や役割だけではない日本人社員の管理や技術の能力が求められる。また現地採用においての人材の育成とともに管理システムそのものの変化も求められている。
また中国に進出している日本企業は、経営、労務管理などの多くの問題をかかえている。日本的経営を中心とする労務管理や社内制度は、中国に進出したとき、パートナーである中国企業と比較して、現在の中国の社会経済システムに適用しているとはいいがたい。
世界的な金融危機にともない経済が低迷するなか、順応性に欠ける旧式の日本式経営管理における人的資源管理、労務管理などは、コスト削減を視野にいれながら改革する時期にきているともいえる。
8.結論
本論では、グローバル化が進む中で経営活動を進める日中両国企業の人的資源管理の現状や問題点、人材の育成にともなう企業の対策を分析する。一方、個人のキャリア形成においては、社会人としての転職、リカレント教育はすでに大学生活におけるキャリア形成によって、大きな差がでており、それは社会人になってからも大きく影響していることを言及する。
また中国進出している日本的経営を中心とする労務管理や社内制度は、現在の中国の社会経済システムに適用しているとはいえないが、一方、市場経済に完全に移行していない中国で、中国は政府の政策によって人材の確保、人的資源をコントロールしている現状と問題点を検討し若干の示唆をする。